大麻所持は現行犯以外でも逮捕される? 逮捕の種類などについて解説

2020年12月24日
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大麻所持は現行犯以外でも逮捕される? 逮捕の種類などについて解説

「大麻」の所持や使用は法律によって禁止されており、芸能人やスポーツ選手など、著名人が検挙される事件の報道は絶えません。
警察庁が公開している「犯罪統計」によると、令和2年1月~10月で大麻事犯によって検挙された人数は3878人でした。
過去最多となった令和元(平成31)年の年間検挙人数4321人を上回るペースで検挙が続いており、大麻が広く拡散されている状況は明らかです。

大麻に関する逮捕では「現行犯逮捕された」と報道されるケースをよく耳にしますが、逮捕は現行犯に限りません。

このコラムでは、逮捕の所持・使用で逮捕されるパターンや逮捕後の流れについて、川崎オフィスの弁護士が解説します。

1、大麻取締法違反で逮捕される要件と刑罰

「大麻」とは、アサ科の植物である大麻草の葉・花穂(かすい)などを乾燥させたものや樹脂化させたものを指します。
過熱・燃焼させてタバコのように成分を吸引するほか、経口摂取する方法もあり、有効成分であるテトラヒドロカンナビノールが幻覚作用や多幸感をもたらします。

海外では規制を受けていない国もありますが、日本では「大麻取締法」という法律によって規制を受けており、要件に該当する場合は逮捕・刑罰を受けることになります。

  1. (1)大麻取締法によって規制される行為

    大麻取締法では、次に挙げる行為を禁止しています。

    • 所持
    • 栽培
    • 譲り受け・譲り渡し
    • 輸出・輸入


    所持・栽培・譲受・譲渡は、大麻取締法第3条1項の規定によって「大麻取扱者」のみに認められる行為です。
    輸出・輸入は同法第4条の規定によって「大麻研究者」が厚生労働大臣の許可を受けておこなう場合を除き、すべての人が禁止されています。

    「大麻取扱者」とは、都道府県知事の免許を受けて大麻の繊維や種子を採取する目的で大麻草を栽培する人のことをいいます。
    大麻草は古くから神事に利用されるなどわが国の歴史とも深く関わってきた植物です。
    現在でも麻織物などの原料として使用されていることから、許可を受けた栽培者が本来の目的において使用する場合に限って所持・栽培・譲受・譲渡が許されています。

    「大麻研究者」も、都道府県知事の免許を受けた立場にあり、医学や薬学などの研究目的で大麻を栽培・使用する立場にある人に限られます。

  2. (2)大麻取締法違反の刑罰

    大麻取締法に違反する行為があった場合は、違反行為の態様に応じて次の刑罰が科せられます。

    • 栽培・輸入・輸出……7年以下の懲役(大麻取締法第24条)
    • 所持・譲受・譲渡……5年以下の懲役(大麻取締法第24条の2第1項)


    また、各行為が「営利の目的」であった場合は、それぞれ次のように刑罰が重くなります。

    • 栽培・輸入・輸出……10年以下の懲役または10年以下の懲役および300万円以下の罰金(大麻取締法第24条第2項)
    • 所持・譲受・譲渡……7年以下の懲役または7年以下の懲役および200万円以下の罰金(大麻取締法第24条の2第2項)


    営利目的とは「利益を得るため」という意味です。
    大麻の販売などによって利益を得るために所持や輸出入、譲受・譲渡をした場合は、加重された懲役刑が科せられるだけでなく、罰金もあわせて科せられるおそれがあります。

2、大麻所持で逮捕される場合のパターン

大麻取締法に違反して所持・栽培・譲受・譲渡などをすると、警察に逮捕されるおそれがあります。

ニュースなどで報道される大麻事件では「現行犯逮捕された」といったものが目立ちますが、どのような状況で現行犯逮捕されるのでしょうか?
現行犯ではない状況でも逮捕されることはあるのでしょうか?

  1. (1)現行犯逮捕されるパターン

    現に罪をおこない、または犯行直後の者を「現行犯人」といい、逮捕状がない状況でも逮捕が可能です。

    大麻取締法違反では、とくに所持での現行犯逮捕が多いでしょう。

    街頭での警察官による職務質問のほか、ケンカなどのトラブルで通報を受けて警察官が臨場した際に、所持品検査を受けて発覚するケースもあります。
    また、ほかの大麻事件の容疑者から得られた情報をもとに捜索差押、いわゆる「家宅捜索」がおこなわれた際に自宅などから大麻が発見された場合も、現行犯逮捕されるケースは少なくありません。

  2. (2)後日に通常逮捕されるパターン

    日本国憲法第33条は、逮捕について「司法官憲が発する令状」が必要であると定めています。
    つまり、裁判官が発付した逮捕状に基づいた「通常逮捕」が、憲法の定めに従った逮捕の基本型だといえるでしょう。

    大麻取締法違反でも、通常逮捕による逮捕を受ける事例は少なくありません。

    栽培のように「誰が栽培をしていたのか」を詳しく捜査しないと被疑者が特定できない場合や、譲受・譲渡のように犯行の現場を現認しにくい場合には、通常逮捕が一般的です。
    また、職務質問や捜索差押の現場で大麻の所持が発覚しても、現場における簡易検査では大麻の反応が確認できなかった場合は、正式な鑑定結果を待って通常逮捕されるケースもあります。

3、初犯でも逮捕の可能性はある?使用のみの場合は?

令和元年版の犯罪白書によると、検察庁に送致された大麻取締法違反事件の総数は5394件でした。
逮捕された件数は3407件で身柄拘束を受けた割合は62.2%でしたが、一方で1987件もの事件が身柄を拘束されないまま処理されている現実があります。

これまでに大麻事件を起こしたことがない「初犯」の場合は、逮捕が避けられる可能性は高いのでしょうか?

  1. (1)初犯でも逮捕される可能性は高い

    大麻事件における逮捕は「初犯である」という理由だけで避けられるわけではありません。

    逮捕は、逃亡または証拠隠滅のおそれがある場合に、捜査の実効を高めるために採用される手続きのひとつです。
    初犯であっても、逃亡・証拠隠滅のおそれが高いと判断されれば逮捕は避けられないでしょう。

    とはいえ、これまでの前科・前歴がまったく評価されないわけでもありません。
    逮捕状請求を受けた裁判官は、被疑者の逮捕を認めるのかを捜査書類から判断します。
    大麻をはじめとした薬物事件の前科・前歴があれば、重責から逃れようと逃亡や証拠隠滅をはかるおそれがあると認められやすくなるでしょう。

    初犯であることは必ずしも有利にはたらくわけではなく、初犯ではないことは不利にはたらきやすいとおぼえておくべきです。

  2. (2)使用のみでも所持に結び付けられるケースが多い

    大麻取締法において禁止されている行為には「使用」が含まれていません。
    違法薬物として有名な覚醒剤(覚せい剤)は使用も禁止されているので、なぜ大麻は使用を禁止されていないのかと疑問に感じる方も多いはずです。

    大麻取締法において「使用」が禁止行為に挙げられていないのは、有効成分であるテトラヒドロカンナビノールをどのようなかたちで体内に摂取したのかが明確にならないためです。
    禁止対象ではない種子や茎からも同様の成分を摂取できるうえに、種子にあっては一般的に販売されている食用の香辛料にも使用されているほど身近なものでもあります。

    ただし、実際に大麻を使用したのであれば「使用は罪に問われない」と安心してはいけません。
    使用の事実があれば、どのような経緯で使用したのかを徹底的に捜査されて、所持のタイミングで現行犯逮捕されるおそれがあります。

    ネット上などの情報を鵜呑みにして「使用は合法」と考えるのは大きな間違いです。

4、大麻所持で逮捕された場合の流れ

大麻所持で逮捕された場合、以下のような流れで取り調べや手続きを受けることになります。

  • 逮捕によって身柄を拘束(最長48時間)
  • 検察庁に身柄を送致(最長24時間)
  • 必要に応じて勾留を受ける(延長を含めて最長20日間)
  • 勾留満期までに起訴・不起訴の判断が下される
  • 起訴されると、さらに勾留されて刑事裁判で審理を受ける
  • 不起訴となれば、即日に釈放される


以下では、逮捕された場合の流れについて、詳しく確認しておきましょう。

  1. (1)逮捕によって身柄を拘束される

    警察に逮捕されると、現行犯逮捕・通常逮捕の種別にかかわらず、48時間を限界とした身柄拘束を受けます。
    逮捕された時点から自由が制限されるので、自宅へ帰ることも会社や学校に通うことも許されません。
    電話などでの連絡もできないうえに、この段階ではたとえ家族であっても面会さえ認められません。

  2. (2)検察庁への送致後に勾留を受ける

    警察による逮捕から48時間以内に、被疑者の身柄と捜査書類は検察官へと引き継がれます。
    この手続きを「送致」といいます。

    送致を受けた検察官は、被疑者を取り調べしたうえで24時間以内に起訴・不起訴を判断しなくてはなりませんが、この段階では捜査が尽くされていないため判断材料が不足しています。
    そこで検察官は、裁判官に対して身柄拘束の延長を求めます。
    これを「勾留請求」といいます。

    令和元年版の犯罪白書によると、大麻取締法違反事件における勾留請求率は98.4%です。
    事件の送致を受けた検察官は、ほぼ確実に勾留を請求するものと覚悟しておく必要があるでしょう。

    家族などとの面会が許されるようになるのは勾留が決定したあとからです。
    ただし、面会が許される段階でも、面会の機会を通じて証拠隠滅などをはかるおそれがある場合は「接見禁止命令」によって面会を禁止されることがあります。

  3. (3)勾留満期までに起訴される

    勾留は原則10日間、延長を含めて最長で20日間までが限界です。
    検察官は勾留満期の日までに起訴・不起訴の判断を下さなければなりません。

    検察官が起訴すると、被疑者は「被告人」へと立場が変わってさらに勾留を受け、刑事裁判において審理されることになります。

    一方で、不起訴処分が下された場合は即日で釈放され、刑事裁判は開かれません。
    刑事裁判が開かれないので刑罰が科せられることもなければ前科がついてしまう事態にもなりません。
    大麻事件を起こしたとしても、これまでに薬物事件を起こした経歴がなく、営利目的などの悪質性もない場合は、不起訴処分の獲得を目指すのが最善策です。

5、まとめ

大麻は依存性が高い違法薬物であり、特別な許可がない限り所持などは禁止されています。
所持が発覚すれば逮捕されて身柄拘束を受けるおそれがあり、厳しい刑罰も科せられてしまうでしょう。

刑罰や前科を回避するには、検察官に対して更生の可能性が高いことを主張し、不起訴処分を獲得する必要があります。
大麻の所持などについて不安を感じている方は、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスへご相談ください。
大麻事件をはじめとした薬物事件の弁護実績を豊富にもつ弁護士が、不起訴処分の獲得を目指して全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています