礼拝所不敬罪で科される可能性がある刑罰は? 適用された事例を紹介

2023年06月15日
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礼拝所不敬罪で科される可能性がある刑罰は? 適用された事例を紹介

令和4年11月、慰霊碑に紙飛行機を投げ入れた男が礼拝所不敬容疑で逮捕されたという報道がありました。礼拝所不敬罪という罪名は、窃盗や詐欺、強盗、暴行などのように日ごろからニュースなどで耳にする機会の多い犯罪と比べると耳馴染みがなく「初めて聞いた」という方も少なくありません。しかし、いたずらや興味本位での行動が礼拝所不敬罪にあたり刑罰を下されてしまうおそれもあるので、どのような場合に成立する犯罪なのかを知っておくべきでしょう。

本コラムでは「礼拝所不敬罪」とはどのような犯罪なのか、実際にどのようなケースで適用されているのかなどを、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。

1、礼拝所不敬罪とは

礼拝所不敬罪は、刑法第188条1項に規定されている犯罪です。
条文上「神祠、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をした者」を罰するものとされています。

礼拝所不敬罪が成立する要件や罰則を確認していきましょう。

  1. (1)礼拝所不敬罪の成立要件

    条文を分解しながら礼拝所不敬罪の成立要件を確認します。

    神祠(しんし) 神道の神を祀る社殿や祠(ほこら)を指します。
    仏堂 仏教の寺院や仏像を安置する殿堂などです。
    墓所 人の遺体や遺骨を安置する墓や慰霊碑・記念碑などを建てる場所・区画を指します。似た用語として墓地・霊園がありますが、墓地・霊園のなかでも遺体・遺骨を安置する区画でなければ墓所にはあたりません。
    その他の礼拝所 宗教を問わず、一般の人たちが、宗教的崇敬をささげる場所がこれにあたります。

    「公然と」とは、不特定または多数の人が認識できる状態を指します。
    大勢の人がいる前はもちろんですが、実際に人がいなくても不特定または多数の人が認識できる可能性があれば公然性は否定されません。
    つまり、実際に誰かが目撃したかどうかは問題にはなりません

    「不敬な行為」とは神仏や死者を敬う宗教感情を害する行為であり、損壊・汚損・除去・転倒など広い形態を対象として含んでいます。

  2. (2)礼拝所不敬罪の罰則

    礼拝所不敬罪の法定刑は、6か月以下の懲役もしくは禁錮または10万円以下の罰金です。
    ほかの刑法犯と比較すると軽微に感じられるかもしれませんが、懲役刑の規定がある以上、決して軽微な犯罪とまではいえない犯罪です。

2、礼拝所不敬罪と似た犯罪

礼拝所不敬罪と同様に、刑法には宗教的感情や宗教儀礼などに向けられる犯罪が規定されています。

  1. (1)説教等妨害罪

    説教等妨害罪は、刑法第188条2項に定められている犯罪です。
    説教・礼拝・葬式を妨害することで成立し、1年以下の懲役もしくは禁錮または10万円以下の罰金が科せられます。

    説教とは宗教上の教義を説く行為を指し、礼拝とは宗教的な崇敬・尊崇の心をささげる行為と定義されています。
    葬式は死者を葬る儀式を指しますが、仏教にみられる通夜は葬式ではなく礼拝に分類されます。
    ここでいう妨害は、手段や方法を問わず、説教・礼拝・葬式の進行に支障を生じさせる一切の行為を含みます

    なお、説教・礼拝・葬式にあたらない宗教儀礼や行事を妨害した場合は本罪にあたらないため、偽計業務妨害罪や威力業務妨害罪の成立が検討されることになります。

  2. (2)墳墓発掘罪

    墳墓発掘罪は刑法第189条に規定されています。
    墳墓を発掘した者を罰する犯罪で、2年以下の懲役が科せられます

    ここでいう墳墓とは、現に墓を設置している墓所や納骨堂などが該当します。
    発掘とは「掘り起こす」という行為です。
    墳墓の発掘といえば古墳をイメージする方が多いかもしれませんが、古墳は宗教的なものとして礼拝される対象ではなく歴史的な遺跡としての性格が強いため、墳墓にはあたりません。

  3. (3)死体損壊等罪

    死体損壊等罪は刑法第190条に規定されています。
    死体・遺骨・遺髪・棺に納められている物について、損壊・遺棄・領得した場合に成立します。
    墳墓発掘罪が「墳墓を掘り起こす」行為を罰するものであるのに対して、死体損壊等罪は「死体などに害を加える」行為を罰しています

    法定刑は3年以下の懲役で、罰金の規定はありません。

  4. (4)墳墓発掘死体損壊等罪

    墳墓発掘にあたる行為に加えて死体などを損壊すると、刑法第191条の墳墓発掘死体損壊等罪が成立します。
    法定刑は3か月以上5年以下の懲役で、やはり罰金の規定がありません。
    3年を超える懲役には執行猶予がつかないので、実刑判決を受ける可能性が高い重罪です

3、実際に礼拝所不敬罪が適用された事例

礼拝所不敬罪はあまり耳にする機会がない犯罪なので、どのような場合に適用されるのかがわかりにくい面があります。
ここでは、実際に礼拝所不敬罪が適用された事例を紹介しましょう。

  1. (1)霊園内でヌード撮影をした

    平成22年5月、有名な写真家が都内の霊園内で写真撮影を行った際に、ヌードモデルに墓石の上であぐらをかかせて撮影した容疑で書類送検され、略式起訴を受けました。
    写真家側はこれまでにも同様に公の場でヌードモデルの撮影を経験しており、上記行為が礼拝所に対する尊厳を汚す行為であるとの認識は欠けていたようです。

  2. (2)墓所に向けて放尿する格好をした

    共同墓所内にある他人の墓所の入り口で「小便でもひっかけてやれ」などと言いながら放尿する格好をした事例について、裁判所は実際には放尿していなくても礼拝所不敬罪が成立すると判示しています。
    礼拝所不敬罪は、死者を敬う宗教的な感情や宗教儀礼を保護する犯罪です。
    実際に放尿していなくても、放尿する格好をすること自体が見た者に墓所への崇敬の念に著しく相反する感を与える事態は免れません。
    【判例:東京高等裁判所 昭和26(う)2330】

4、礼拝所不敬罪で逮捕された場合の流れ

礼拝所不敬罪は、懲役・禁錮といった自由刑も規定されている犯罪であり、逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあると判断されれば警察が逮捕に踏み切る危険もあります。

ここでは、礼拝所不敬罪で逮捕された場合の流れを確認していきましょう。

  1. (1)逮捕・勾留によって身柄を拘束される

    警察に逮捕されると、その時点で身柄を拘束されて自由な行動が制限されます。
    自宅へ帰ることも、会社や学校へ通うことも許されません

    逮捕された被疑者は警察署の留置場に置かれ、警察官による取り調べを受けます。
    警察段階の身柄拘束は48時間以内で、時間内に検察官へと身柄が引き継がれます。
    この手続きを送致といい、ニュースなどでは送検とも呼ばれています。

    警察からの送致を受けた検察官は、さらに被疑者を取り調べたうえで24時間以内に勾留を請求するか、釈放するかどうかの判断をします。
    検察官が勾留を請求し、裁判官がこれを認めた場合は、初回で原則10日間以内、請求によってさらに10日間以内の合計20日間を上限として身柄拘束が延長されます。

  2. (2)起訴されると刑事裁判になる

    被疑者の勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴・不起訴の最終判断を下します。
    検察官が起訴すれば刑事裁判が開かれ、最終的には判決が言い渡されます。

    一方で、検察官が不起訴とした場合は、刑事裁判が開かれません。
    被告人の有罪・無罪は刑事裁判の場で判断されるものなので、刑事裁判が開かれない限り刑罰を下されることはありません。

    日本の司法制度では、検察官が証拠を十分に精査したうえで確実に有罪判決を得られる事件に限定して起訴しているため、起訴されれば無罪はほぼ期待できません

    厳しい刑罰を回避したいと考えるなら、警察での捜査段階で、実効性のある弁護活動を行うことが重要となります。

5、まとめ

いたずらや興味本位であっても、墓所に設置されている墓石に乗るなどの死者を敬う宗教的感情を害する行為があれば礼拝所不敬罪が成立します。
礼拝所不敬罪の嫌疑をかけられた場合、まずは弁護士へ相談されることをおすすめします。

逮捕や刑罰に不安を感じているなら、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスにご相談ください。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、円満な解決を目指して全力でサポートします。

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