銃刀法違反にあたる刃渡りは何センチ? 逮捕後はどう事件は進むのか
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令和5年8月、横浜地裁は、強盗致傷、銃砲刀剣類所持等取締法(以下、銃刀法)違反などの罪で川崎市多摩区の男を起訴したという報道がありました。
銃刀法違反で逮捕されるケースには、本事例のようにその他の罪も犯しており逮捕されるだろうことを理解していると想定できるケースだけではなく、詳細な規定を知らなかったことにより思いがけず逮捕されてしまう可能性があります。
そこで本コラムでは、銃刀法違反の基準や逮捕されてしまったときの対応について、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。
1、銃刀法の目的とは?
銃刀法の基本的な趣旨とは、一般市民が正当な理由や許可なく「銃砲」や「刀剣類」などのような人を殺傷する武器になり得るものを所持することを禁止することにあります。その目的は、治安の維持を図ることにあります。
しかし、すべての銃や刃物の所持を一律で規制してしまうと、国民の生活が成り立たなくなってしまいます。たとえば刃物は料理や工作をする際に必要不可欠なものですが、この所持をすべて銃刀法で禁止してしまうと、日常の食事や仕事すらままならなくなります。また、警察や自衛官以外の銃の所持を禁止してしまえば猟師は成り立ちませんし、クレー射撃もできなくなるでしょう。
そこで、銃刀法は一般市民が銃や刃物を所持することについて、所持できる銃や刃物の要件や所持するための資格などを定めることで、治安の維持と日常生活のバランスを図っているのです。
2、銃刀法違反の基準について詳しく解説
銃刀法では、規制の対象となる銃砲や刀剣類について以下のように定義しています。
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(1)銃砲とは?
銃刀法第2条によると、銃砲とは「拳銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃」のことを指します。
違法改造を施した殺傷能力のあるモデルガンやエアガン、クロスボウなどの所持も、銃刀法違反となる可能性があることを押さえておいてください。このような銃砲を法律に基づいた許可なく所有することは、銃刀法で禁止されています。 -
(2)刀剣類とは?
銃刀法第2条では、刀剣類について以下のように定義しています。
- 刃渡り15センチメートル以上の刀
- 槍および薙刀(なぎなた)
- 刃渡り5.5センチメートル以上の剣、あいくち
- 刃渡り5.5センチメートル以上で、45度以上に自動的に開刃する飛び出しナイフ
上記のような刀剣類を、公安委員会や文化庁など関係諸機関の許可・登録なく所持することはできません。
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(3)刀剣類以外の刃物とは?
銃刀法第22条では刀剣類以外の刃物の所持について、「業務その他正当な理由による場合を除いて、刃渡り6センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない」と定めています。さらに、銃刀法第22条の4では業務その他正当な理由のない「模造刀剣類」の所持も禁止しています。
この「業務その他正当な理由」とは、以下のようなケースが該当すると考えられます。- 店で刃物を購入し、それを自宅に持ち帰る場合
- 調理師や林業など職務で刃物を使用する人が、自宅から仕事場への通勤途上に包丁などを携帯している場合
犯罪目的はもちろんのこと、護身目的の所持は刃渡り6センチメートルをこえる刃物を携帯「正当な理由」として認められません。アウトドアやコスプレイベントなどで使用するための刃物あるいは刃物のレプリカなどを車中に保管している場合でも、取り締まりの対象となる可能性があります。
また、仮に刃渡り6センチメートル未満のカッターナイフやハサミなどであっても、正当な理由がない携帯は軽犯罪法第1条2号で禁止されています。
3、銃刀法違反における罰則
銃刀法違反の罰則は、違反の態様によって多岐にわたり定められています。その一部を抜粋してご紹介します。
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(1)銃砲の場合
- けん銃の所持……1年以上10年以下の懲役、複数所持していた場合は1年以上15年以下の懲役(銃刀法第31条の3)
- 猟銃の所持……5年以下の懲役または100万円以下の罰金(同第31条の11第1号)
- けん銃や猟銃以外の銃砲の所持……3年以下の懲役または50万円以下の罰金(同第31条の16第1号)
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(2)刀剣類の場合
- 3年以下の懲役または50万円以下の罰金(同第31条の16第1号)
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(3)刀剣類以外の刃物の場合
- 刃渡り6センチメートルをこえる刃物……2年以下の懲役または30万円以下の罰金(同第31条の18第2号2)
- 模造刀剣類……20万円以下の罰金(同第35条2号)
- 正当な理由なく携帯している刃渡り6センチメートル未満の刃物……刑事施設に1日以上30日未満の拘留または1000円以上1万円未満の科料(軽犯罪法第1条2号)
4、銃刀法違反で逮捕されたら。逮捕後の流れ
まずは、逮捕されたあとの大きな流れを把握しましょう。
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(1)逮捕
通常の逮捕では、被害者の訴えや捜査により容疑が固まったあとに検察や警察は裁判官に逮捕状発付の請求を行います。そして、裁判官に請求が認められて逮捕状が発付されてから、初めて逮捕されることになります。ただし、銃刀法違反で多い逮捕の態様は、現行犯逮捕や緊急逮捕です。これらのような逮捕の場合、逮捕状の請求、発付の過程を省略して逮捕されることになります。
逮捕されると、被疑者と呼ばれる立場として警察の留置所もしくは拘置所で身柄を拘束され、引き続き容疑を固めるための取り調べを受けることになります。警察での取り調べは身体を拘束されたときから48時間と決められており、この48時間以内に検察官への送致が妥当と警察が判断すれば、検察官へ送致(送検)されることになります。
一方で、仮に逮捕されたとしても、留置の必要がないと警察が判断すれば、釈放されることもあるでしょう。 -
(2)勾留
送検されると、検察官は24時間以内に、「勾留(こうりゅう)」と呼ばれる引き続き10日間、身柄拘束を行い取り調べを行う措置が必要か否かを判断します。検察官が被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断し、それを裁判所が認めた場合は勾留が行われることになります。検察官の判断次第では、勾留期間はさらに10日間延長されることがあります。つまり、逮捕されてから起訴されるまでは最長で23日間も身柄を拘束され続けることになるのです。
なお、送致されたあとに検察官が勾留の必要なしと判断、あるいは検察官が裁判所に勾留請求をしたとしても却下されれば、この時点で釈放されます。ただし、無罪放免ではありません。在宅事件扱いとして、捜査機関からの呼び出しに応じながら取り調べを受けることになります。 -
(3)起訴
勾留されているときは勾留期間中に、在宅事件扱いとなっているときは取り調べが終わり次第、検察官は容疑者に対する起訴または不起訴の処分を決定します。もし不起訴処分になれば、この時点で釈放されます。不起訴となったときは前科がつくことはありません。
起訴されると、被疑者から被告人と呼ばれる立場となります。起訴には、通常の公判請求と略式手続があり、略式手続が行われたときは公判を開くことなく,書面(検察官が提出した資料)による非公開の審理により刑罰が科され、その時点で釈放となります。ただし、言い渡された罰金の納付が後日に滞った場合は、再び身柄が拘束されることもあります。
他方、公判請求となったときは、誰でも傍聴できる刑事裁判が行われることになります。起訴されてから裁判が始まるまでは、約1か月以上はかかることもあります。保釈が認められないかぎりは、この間も引き続き勾留されることになります。
日本における刑事裁判では、起訴されてしまうと非常に高い確率で有罪となることは知られているとおりです。有罪判決が確定すると同時に、前科がつくことになります。そして、懲役または禁錮の実刑判決となった場合は、刑期が満了あるいは仮釈放になるまで容疑者はご家族のもとに戻ることができなくなります。これは保釈されていた場合も同様です。
5、弁護士に相談するメリット
刑事事件の被疑者となってしまった段階で、被疑者本人やその家族ができることのひとつが、弁護士を依頼することです。
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(1)捜査機関と交渉する
早期の釈放を得るために重要なポイントのひとつは、「逮捕された容疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと」です。このほかに、刑事訴訟規則第143条の3は以下のような逮捕理由を定めています。
- 容疑者の年齢および境遇
- 犯罪の軽重および態様
- その他の事情
つまり、逮捕理由に該当しなければ釈放が望めるのです。
しかし、上記の逮捕理由に該当するような事件ではないことを、逮捕されてしまった本人が捜査機関に主張することは難しいケースもあるでしょう。たとえ悪意のない銃刀法違反だったとしても、動揺してしまうとうまく話せなくなってしまうケースは少なくありません。
そこで弁護士であれば、これまでの経験を生かし、逮捕された人に代わって捜査機関が納得するように客観的な事実を示しながら早期釈放に向けた交渉を行います。また、もし起訴されてしまったあとでも、弁護士は無罪または執行猶予に持ち込めるように弁護活動を行います。 -
(2)早期の面会が可能
逮捕されてしまうと、少なくとも72時間が経過するまでは、「接見禁止」と呼ばれる措置が取られます。逮捕容疑に関係のないご家族や親しい友人であっても面会が制限されるということです。
ただし、弁護士は接見禁止のあいだも職権で逮捕された人と面会することが可能です。
弁護士は逮捕直後すみやかに面会することで、今後想定される取り調べや黙秘権など被疑者としての権利に関するアドバイスを行います。また、逮捕された人とそのご家族の橋渡し役も務めます。警察や検察に対しても身柄の拘束を解くよう働きかけるなどの弁護活動を行います。
6、まとめ
銃刀法では、刃物の長さや形状などが詳細に規定されています。もし普段の習慣が銃刀法違反に該当するかもしれないと感じた場合は、まずはその習慣をやめたほうがよいでしょう。
万が一、警察から容疑をかけられ電話が来ている状況のときや、ご家族が逮捕されたという連絡がきたときは、できるかぎりお早めに弁護士へ相談してください。
ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスでは、銃刀法違反だけでなくさまざまな刑事事件についてのご相談を承っております。重すぎる罪を科されることがないよう、全力を尽くします。まずはお気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています