給料の前借り? 違法な給与ファクタリングの特徴や対処法を解説
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新型コロナウイルスを巡る社会情勢の変化による企業の業績悪化で、給料やボーナスをカットされる方が増えています。
貯金を取り崩しながら生活していても、いずれ生活費やローンが支払えなくなるかもしれません。
そんなとき “給料の前借り”とうたう「給与ファクタリング」の広告を見つければ、思わず問い合わせてしまうかもしれませんが、ちょっと待ってください。
令和2年5月、神奈川県などの男女9人が貸金業法違反で契約は無効だとして、ファクタリング業者に約436万円の返還を求めて提訴しました。
では給与ファクタリングとはどのような仕組みで、何が問題なのでしょうか。違法なファクタリングの被害に遭ってしまった際の対処法と合わせてわかりやすく解説します。
1、給与ファクタリングサービスとは?
近年「給与ファクタリング」の利用者が急拡大し、問題となっています。インターネットやSNSでは「給料の前借り」「ブラックでもOK」といった広告や書き込みが見られますが、そもそもどんな仕組みなのでしょうか。
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(1)ファクタリングは企業の資金調達手段
一般的に「ファクタリング」とは、企業が、取引先に対する売掛債権を、ファクタリング業者に買い取ってもらい、現金を受け取る資金調達の方法です。
「売掛債権」とは、未回収の商品やサービス代金を請求できる権利のことです。
日本の企業間取引では、商品やサービスを納品・提供した後、しばらくしてから代金を支払うのが一般的です。
たとえば月末までの商品代金を、翌月末に振り込むといったケースです。
この仕組みでは債権者である企業が債務者である取引先から代金を受け取るまでにタイムラグが生じるため、中小企業などではその間に資金繰りに行き詰まることがあります。
そこで、企業はファクタリング業者を利用して売掛債権を、ファクタリング業者に買い取ってもらい、手数料を引いた金額を受け取って運転資金にするのです。
ファクタリング業者は、売掛金の支払いがあった後に、利用企業から回収するか、取引先から直接回収します。 -
(2)給与ファクタリングは“給与前借り”?
給与ファクタリング(給料ファクタリング)は、企業の資金調達手段であるファクタリングを労働者の賃金債権に当てはめたものです。
労働者は使用者から給料を受け取る権利である「賃金債権」を有しています。
これを利用し、給与ファクタリング業者から給料日前に現金を受け取るのです。
利用の流れは、次のようになっています。
①労働者は、給料日前に賃金債権を給与ファクタリング業者に売却
②給与ファクタリング業者から、労働者が手数料を引いた金額を受け取る
③労働者は、使用者から給料を受け取った後、給与ファクタリング業者に債権分を支払う
「給与の前借り」と宣伝している給与ファクタリング業者もいますが、契約の当事者が利用者と給与ファクタリング業者である点で、いわゆる前借りとは異なります。
また通常のファクタリングとは異なり、給与ファクタリング業者は必ず利用者から回収します。
これは法律で、給料は使用者が労働者に直接支払わなければならないと定められているためです(労働基準法第24条)。
給与ファクタリング業者が、利用者である労働者の勤務先に連絡をすることがないため、利用者はサービスを利用したことを会社に秘密にしておくことができます。
この点をメリットとうたう業者も少なくありません。
2、給料ファクタリングの問題点
給料日前に急な出費が重なった際などには、給与ファクタリングは便利なサービスに思えるでしょう。ですが次のような点が問題となり、利用者の多重債務や自己破産が相次いでいます。
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(1)高額な手数料、事実上の借金
給与ファクタリングの一番の問題は、業者が、利用者に対し、事実上、高金利での貸付をしているという点です。
たとえば、利用者が、給与ファクタリング業者に10万円の賃金債権を売却し、2万円分の手数料を差し引いた8万円を受け取り、給料日後に10万円を支払ったとします
これは8万円を借りて利息2万円を支払っているのと同じことです。
月利で25%、年利で300%にもなり、利息制限法の上限金利である年15?20%、出資法の上限金利年20%をはるかに超えています。
これまでには年利で数百%?1000%を超えるケースも珍しくありませんでした。
このような手法が広がった大きな要因は、これまで給与ファクタリングが「貸金業」と認識されていなかったことにあります。
給与ファクタリング業者は「貸金ではなく債権譲渡」と主張し、上限金利の規制を受けない、いわば法の抜け穴をついてサービスを行っていたのです。 -
(2)違法な取り立てにあうおそれ
給与ファクタリングの利用者は、賃金債権を売却したことを会社に伝えていないのが通常です。
事業者はそれを理解したうえで、利用者が支払えなかった場合に「賃金債権を勝手に売却したことを会社にバラす」などと脅してくることがあるのです。また、早朝・深夜に押し掛けたりすることもあります。
これらは、貸金業法上違法とされる取り立ての手口です。 -
(3)多重債務、自己破産につながる
そもそも給与ファクタリングの利用者には借金があったり、自己破産の経験があったりする方も少なくありません。
給与ファクタリングを利用したものの、上記のような高額な手数料から、支払いに窮し、さらに消費者金融から借りたり、ほかの給与ファクタリング業者を利用したりすれば、結局多重債務に陥ります。
「給料の前借り」「多重債務者OK」とのうたい文句につられて利用すれば、多重債務となり自己破産をしなければいけなくなるかもしれません。 -
(4)行政、司法も問題視
給与ファクタリングが社会問題化する中、貸金業者の監督官庁である金融庁は令和2年3月、次のような点から「給与ファクタリングは金銭の貸付に当たる」との見解を発表しました。
- 給料は使用者が労働者に直接支払わなければならず、賃金債権の譲渡を受けた事業者が利用者の勤務先に支払いを求めることはできない
- 業者は必ず利用者から回収しなければならない仕組みは、貸付と同じである
これにより給与ファクタリング業者が貸金業者と認定され、業者には貸金業登録が必要となりました。
法律の上限金利も適用されます。
そこで金融庁は、無登録の給与ファクタリング業者や上限金利を超えた契約をさせる給与ファクタリング業者は「ヤミ金」と同じだと注意喚起をしています。
さらに、警視庁においても、「貸金業登録を受けずに給与ファクタリングを行うことは違法である」として、無登録の給与ファクタリング業者に関し、注意喚起を行っています。
加えて、東京地方裁判所は、令和2年3月24日、給与ファクタリング業者が利用者に対し、契約に基づく支払いを求めた訴訟において、原告である給与ファクタリング業者の請求を棄却し、その理由として問題となった給与ファクタリング契約は貸金業法、出資法違反で無効であり刑事罰の対象となるとの判決を言い渡しました。
これらを踏まえると、給与ファクタリング業者は、行政および司法において、相当問題視されているという現状にあるといえます。 -
(5)「給与ファクタリング」と「給与前払いサービス」は違う
「給与ファクタリング」と似た名称ですが、「給与前払いサービス」というサービスが近年登場しています。
給与前払いサービスは、提供している企業によって形態には差がありますが、労働者の申請に基づき、給料日よりも前に、実際に働いた分の給料を受け取るサービスです。
導入により求人応募数の増加や離職率の低下が期待できるほか、労働者も急な出費に対応できるため、特に飲食業などで利用が広がっています。
給与前払いサービスは、サービスの契約主体がサービスの提供会社と使用者である点や、福利厚生の一環として導入されている点、労働者の利用の有無を使用者が把握できるという点で、給与ファクタリングとは異なります。
こちらも貸金業に当たるとの指摘もありましたが、金融庁は、給与前払いサービスの内容につき「従業員の勤怠実績に応じた賃金相当額を上限とした給与支払日までの極めて短期間の給与の前払いの立替えであって、」「導入企業の支払い能力を補完するための資金の立替えを行っているものではなく、」「手数料についても導入企業の信用力によらず一定に決められている」などの理由から、貸金業には当たらないとの判断を示しています。
つまり給与前払いサービスは、貸金業として無登録でも、違法ではありません。
3、給料ファクタリング被害にあったら弁護士に相談すべき理由
既に給与ファクタリングを利用し高額な手数料をとられたり、厳しい取り立てにあったりしている場合は、早急に対処しなければいけません。弁護士に相談すれば次のような対応をしてくれます。
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(1)取り立てをやめさせることができる
貸金業者が早朝・深夜に押し掛けたり、支払い義務のない家族に取り立てをしたりすることは、法律により禁止されています。
そこで弁護士は業者に「受任通知書」を送り、自らが依頼者の代理人になったことを通知します。
その後連絡窓口は弁護士になるため、利用者への取り立てをやめさせることができます。 -
(2)過払い金の請求ができる
借金で払い過ぎた利息は「過払金返還請求」で取り戻すことができます。
給与ファクタリング業者が貸金業者とすると、利息制限法の上限金利を超えた手数料名目の利息は、返還を求めることができます。
弁護士に依頼すれば、過払い金額の計算や証拠の収集、裁判などを行ってくれます。 -
(3)契約の無効を主張できる
業者への手数料が年利で109.5%を超えている場合には、契約自体を無効にできる可能性があります(貸金業法第42条)。
その場合には「不法原因給付」(民法第708条)として、業者への支払い拒否もできるでしょう。
これらを行うには法律の専門知識が必要で、業者との直接交渉や裁判もしなければいけないため、弁護士に頼みましょう。 -
(4)自己破産のサポートをしてもらえる
給与ファクタリングが原因で多重債務に陥り、返済の見込みがない場合には、自己破産を検討しましょう。
自己破産をすれば借金はゼロになりますが、多くの財産を手放さなければいけません。
弁護士に依頼すれば自己破産をすべきかどうかのアドバイスや、手続きの代行をしてくれます。
4、まとめ
給与ファクタリングは、仕組みをよく知らずに安易に利用してしまう方が少なくありません。ですが多くの業者は違法業者です。
利用してしまった場合は、なるべく早く弁護士に相談されることをおすすめします。弁護士は業者と交渉したり裁判をしたりして解決を目指します。状況よっては債務整理のサポートもいたします。
違法な給与ファクタリングでお困りの際は、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスまで、どうぞお早めにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています