市区町村が行う養育費不払いの立て替え制度について弁護士が解説

2020年06月18日
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市区町村が行う養育費不払いの立て替え制度について弁護士が解説

養育費不払いの問題は、ひとり親家庭、特に母子世帯の貧困の原因にもなっています。最近ではこの現状を何とかしようと、養育費の立て替えや養育費の確保支援に乗り出している自治体が出てきました。
本コラムでは、自治体が行っている「養育費の立て替え」について、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説いたします。

1、養育費とは

  1. (1)養育費は生活保持義務に基づくもの

    養育費とは、未成熟子のいる父母が離婚した後、子どもと離れて暮らすことになった親(非監護親)が子どもに対して支払うお金のことです。具体的には、食費や医療費、教育費など生活にかかるお金にあたります。

    離婚して別々に暮らすことになっても、子どもは父母の子どもであることには変わりありません。そのため、非監護親には、子どもが経済的に自立するまでは、今までと変わらない生活水準が保てるような金額の養育費を支払う義務があります。これを「生活保持義務」と言います。非監護親の収入が少なくなったとしても、自分の生活水準を下げてでも子どもの生活水準は守らなければなりません。極端に言えば、多重債務で自己破産しても、養育費の支払いは免れることができないのです。

  2. (2)養育費の請求方法

    養育費のことは、できるだけ離婚前に決めておきましょう。離婚後に決めることもできますが、別居すると離婚相手と連絡がつかなくなったり、相手方の資力や口座情報がわからなくなったりするおそれもあるからです。

    養育費の決め方は、主に夫婦で話し合って決める方法と、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てる方法の2通りがあります。

    話し合いで決める場合は、合意内容を合意書もしくは離婚協議書にまとめたうえで公証役場に持って行って強制執行認諾文言付公正証書にしておくと安心です。調停の場合は、合意した内容について裁判所で調停調書を作ってもらえて、相手方が調停調書どおりに養育費を支払わないときはこれを債務名義にして強制執行することができます。

  3. (3)養育費はいつまでもらえる?

    養育費がもらえるのは、原則として請求した時点から子どもが20歳になるまでです。ただ、子どもがいつ経済的に自立するかにより、養育費を支払ってもらう終期を柔軟に決めることができます。たとえば、子どもが高校を卒業してすぐに就職する場合は「高校を卒業する年の3月まで」、大学まで行く場合は「大学を卒業する年の3月まで」などと規定することが可能です。

2、養育費不払いの実態とは

たいていの場合、養育費は元夫から元妻へ支払われますが、きちんと支払われている母子世帯の数は非常に少ないことが調査で明らかになっています。どうして養育費が支払われない事態が起こるのでしょうか。

  1. (1)養育費が支払われているのは2割程度

    厚生労働省が発表している平成28年度全国ひとり親世帯等調査によれば、現在養育費を受けている母子世帯の割合は24.3%しかありませんでした。つまり、4世帯に1世帯しか養育費をきちんと受け取れていないことがわかります。

    一方、過去に養育費を受けたことのない母子世帯の割合は56%と、半数以上になっていることもこのデータで明らかになりました。

  2. (2)養育費不払いが起きる原因

    どうして養育費の不払いが起きるのでしょうか。

    原因のひとつとして、そもそも離婚するときに養育費の取り決めをしていないことが多いことがあげられます。前述の厚生労働省の調査では、養育費の取り決めをしていない母子世帯の割合が54.2%と、取り決めをしている割合の42.7%を上回っています。この理由としては、「相手と関わりたくない」が31.4%、「相手に支払う能力がないと思った」が20.8%、「相手に支払う意思がないと思った」が17.8%を占めています。

    また、元夫が元妻に対してお金の使い方に不満を持っている、面会交流の回数が少なく親としての実感が薄れている、新しい家庭を持ったといった、なども養育費不払いの原因と言えるでしょう。

  3. (3)国が不払い養育費立て替える制度ができる?

    少し古いデータになりますが、平成27年度における母子世帯の母の平均年収は243万円、父子世帯の父の平均年収は420万円と約180万円もの差があります。そのため、養育費が支払われなければ、母子世帯の経済状況に非常に大きな影響を及ぼすのです。

    この事態を重く見て、令和2年1月23日、法務大臣は国が不払い養育費を立て替える制度の創設に向けた勉強会を設置する方針を固めました。その勉強会では、「両親が離婚した子どもが経済的な不利益を被らないよう、関連法の改正や法整備の検討が行われる」と報道されています。同27日、自民党の女性議員でつくる議員連盟も、法務大臣に国の不払い養育費の立て替え制度導入に関する要望書を提出したそうです。

    したがって、将来、養育費が不払いとなったひとり親家庭に対し、国がまず養育費を支払い、その分を非監護親に対し求償するといった流れができるかもしれません。

3、養育費の立て替えや確保の支援をしている自治体

国からのひとり親家庭への養育費に関する支援の取り組みはやっと始まったばかりです。しかし、国が動き出すよりも前に、養育費の立て替えや養育費確保の支援に向けて取り組みを始めた地方自治体があります。

  1. (1)兵庫県明石市の養育費立替パイロット事業

    全国に先駆けて養育費の立て替えの取り組みを始めたのが、兵庫県明石市です。明石市では、養育費の不払いによる泣き寝入りを防ごうと、平成26年頃から養育費の取り決めの合意書や手引きを離婚届とともに配布をしていました。

    平成30年度には、「養育費立替パイロット事業」と称して、養育費の取り決めをしたのに受け取れていないひとり親家庭のために、保証会社が立て替えて相手方に請求する、という取り組みのバックアップを始めました。その際にかかる保証料は、5万円を上限に市が負担することになっています。

    令和2年2月14日現在で、すでに立て替えが7件発生していますが、支払いが滞ったときに担当者が相手方に電話すると、支払いが復活することもあると言います。

  2. (2)滋賀県湖南市の養育費保証促進補助金の交付・経費助成制度

    また、滋賀県湖南市でも、ひとり親家庭が養育費を確保できるよう支援に乗り出しています。同市では、養育費の取り決めをした合意書などを公正証書にする費用を助成する取り組みをはじめました。

    養育費の取り決めをしたにもかかわらず支払われないときは、養育費の立て替えや督促を行うために保証会社を利用する際に、初回の保証料も助成しています。それぞれ3万円・5万円の上限はありますが、養育費について取り決めをしたり保証会社を利用することへのハードルが少しでも下がるのではないでしょうか。

  3. (3)大阪市の養育費確保のトータルサポート事業

    大阪市も、養育費確保のためのサポート事業を行っています。同市では、離婚や養育費に関する相談から、実際に養育費の不払いが発生した際に立て替えや督促をしてくれる保証会社の利用までトータルで5つの事業を展開しています。

    ●パンフレットなどで養育費に関する周知

    ●ひとり親家庭サポーター事業
    ひとり親家庭のための相談窓口の開設と公証役場等への同行支援を行うもの

    ●離婚・養育費に関する法的支援
    月2回程度、すべての区役所で弁護士による無料の法律相談を実施するもの

    ●公正証書等作成促進補助金
    養育費支払いの継続した履行確保を目的に、養育費に関して取り決めたことを債務名義化するために、公正証書作成にかかる費用を補助するもの

    ●養育費の保証促進補助金
    養育費支払いの継続した履行確保を目的に、保証会社と養育費の保証契約を結ぶ際に保証料を補助するもの

  4. (4)東京都も令和2年から保証料補助制度が開始予定

    東京都港区や豊島区でも、保証会社を利用した養育費の受け取り支援を令和2年4月より開始することを発表しています。対象は、離婚相手と公正証書などで養育費の取り決めを行ったひとり親家庭です。湖南市や大阪市と同様に、離婚前後に合意内容を公正証書にする際の作成手数料や、保証会社と保証契約を結ぶ際の保証料を補助する予定とのことです。港区では、弁護士による離婚相談の受付を強化することも予定されています。

4、改正民事執行法も養育費の不払い解消を後押し

令和元年5月、改正民事執行法が成立しました。この改正により、養育費の強制執行がしやすくなると考えられています。この改正民事執行法は、令和2年4月1日より施行されています。

  1. (1)今までの民事執行法の問題点

    公正証書や調停証書などで決められた養育費の支払いが滞ると、裁判所に申し立てて強制執行をして、相手方の財産を差し押さえることで養育費を回収することができます。しかし、今までは、強制執行をするには相手方が持つ銀行口座の銀行名や支店名、勤務先名など、相手方の財産を明らかにしなければなりませんでした。

    そのため、相手方と連絡が取れなくなったり、相手方が転職したりすると財産の差し押さえができないため、ひとり親家庭は泣き寝入りせざるをえなかったのです。

  2. (2)改正点①:財産開示手続きの見直し

    そこで、今回の改正で平成15年に新しくできた「財産開示手続」が拡充され、利用しやすくなりました。

    たとえば元妻が財産開示手続きを申し立てると、元夫は裁判所に出頭して自分の財産に関して陳述をしなければなりません。相手方が正当な理由なく裁判所に出頭しなければ、法律により罰せられます。旧民事執行法の罰則では「30万円以下の過料に処する」とされていましたが、改正民事執行法では「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」と罰則が強化されました。

  3. (3)改正点②:第三者からの情報取得手続の新設

    さらに、債務者(養育費の支払い義務者)の財産に関する情報は、本人だけでなく第三者に必要な情報の提供を命じてもらえるようにもなりました。預貯金であれば銀行に、勤務先であれば市区町村に、債務者の保有している不動産については登記所に、それぞれ裁判所から情報提供を命じてもらうことができるのです。

    ただし、不動産と勤務先については、情報提供に先立って財産開示手続きが必要となるのでご注意ください。

  4. (4)不払い養育費について強制執行をするには債務名義が必要

    今まで調停や公正証書で取り決めを行っていても、養育費が不払いとなれば泣き寝入りせざるを得ませんでしたが、この改正民事執行法で養育費の督促がしやすくなりました。

    ただし、これらの新しい制度を利用するには、強制執行認諾文言付公正証書や調停調書などの債務名義を持っていることが前提となります。この法改正の恩恵を受けるためにも、子どもを抱えながら離婚するときには、養育費の取り決めに関して公正証書を作成したり調停を申し立てて、調停調書を入手しておくことが非常に重要となってくるのではないでしょうか。

5、まとめ

たとえ離婚して離れて暮らすことになっても、養育費の支払いは免れられないはずですが、現実的には養育費が支払われず生活に困っているひとり親家庭は少なくありません。しかし、今回改正民事執行法が施行されることで、全国の自治体が養育費の立て替えや受け取り支援を進める強力なバックアップにもなるでしょう。

自治体による支援ももちろん大事ですが、養育費が支払われずお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスまでご相談ください。養育費の不払いに関するお悩みや、養育費をいくらにすべきかなどのご相談も承ります。どんなささいなことでも構いませんので、お気軽にご来所のうえ、ご相談ください。

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