不倫相手が妊娠! 養育費を一括払いすれば認知なしでも問題ない?

2021年01月28日
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不倫相手が妊娠! 養育費を一括払いすれば認知なしでも問題ない?

妻がいながら別の女性と不倫関係になり、ずっと関係を続けてきたが、避妊に失敗して相手を妊娠させてしまった。そういったケースは決して少なくありません。ただ、不倫相手の子どもを認知すると戸籍に載ってしまうので、家族に不倫がばれてしまう可能性もあります。

不倫相手が「未婚でも産みたい」と望んでいる場合、認知なしのかわりに手切れ金として養育費を一括で支払えばよいのではないかと考える方もいるでしょう。しかし、そのようなことをしても問題はないのでしょうか。ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。

1、認知なしで養育費を一括払いすることに法的な問題は?

  1. (1)認知することで生じる父親への影響

    相手の女性の子どもを認知すると、男性には父親としての責任が生じるので、さまざまな影響があります。具体的には、以下のような影響があると予想されます。

    ◆養育費の支払い義務が生じる
    認知をすると、父親には子どもを扶養する義務が生じます。たとえ母親と別れたとしても、この義務からは逃れられないので、別れる場合でも養育費の支払い義務が生じます

    ◆子どもの名前が戸籍に載る
    認知をすると、子どもの名前が父親の戸籍に入ります。そうすると、家族が戸籍謄本を取り寄せたときにばれてしまう可能性があります

    ◆子どもが相続人になる
    認知をすると父子関係が生じるので、父親が亡くなった場合に認知された子どもは第1順位の相続人になります。将来的に相続人調査が行われたときに、実は不倫相手との間にも子どもがいたことが他の相続人にわかってしまうかもしれません

  2. (2)「認知しない」という誓約書(契約書)は有効?

    不倫相手の女性を妊娠させたものの、責任を逃れたいあまりに「認知しない」という誓約書(もしくは契約書)を書かせるといったケースもあるでしょう。このような内容の誓約書ははたして法的に有効なのでしょうか。

    結論から言えば、父母間での合意があれば有効です。しかし、こういった誓約書があっても、将来的に子どもが自分で父親に認知を求めることはできるので、将来にわたって認知せずにいることは難しいかもしれません。また、「おとなしく誓約書にサインしなければどうなるかわかっているだろうな」などと相手を脅迫してサインさせた場合は、相手方に取り消される可能性があります。そうなると、誓約書ははじめからなかったものとみなされます。

  3. (3)必要な養育費は将来変わる可能性がある

    養育費は、日々発生する生活費にあてることを目的として支払われるものです。そのため、一般的には非監護者が親権者に対して毎月定額を支払うこととされています。
    ただ、当事者どうしが合意すれば、養育費は一括払いでも問題はありません。しかし、子どもの生活状況や進路状況により必要な金額は変わる可能性があります。たとえば、「公立の中学・高校を出て国公立の大学に進学する予定だったが、高校と大学は私立になった」「大学は私立の医学部に進むことになった」といった場合は、一括で支払ってもらった金額が足りなくなることも考えられるでしょう

2、認知を拒めないケース

子どもの認知については、当事者間で合意すれば「認知しない」という判断もできることは先ほどお伝えしました。しかし、いくら「認知したくない」と主張しても認知請求を拒めないケースもあります。それはどのようなケースなのでしょうか。

  1. (1)そもそも認知には強制認知と任意認知がある

    認知には「強制認知」と「任意認知」の2つのパターンがあります。任意認知とは、父親となる者が自分から子どもを認知することです。強制認知とは、父親が認知を拒んでいるときに子どもから調停や訴訟といった法的手段を用いて認知を求めるものです

    民法には父親に強制的に認知させるようなルールはありません。しかし、そうなると認知が父親の意向に左右されることになり、子どもを認知されず養育費の支払いを受けることができないなどの不利益が生じます。そこで、子どもがそのような不利益を被るのを防ぐために、父親に子どもを強制的に認知させる制度がつくられたのです。

  2. (2)認知調停を申し立てられたケース

    認知しないままでいると、未婚の母もしくはその子どもが強制認知の調停を申し立ててくる場合があります。父親が死亡して3年以上経てば強制認知請求ができなくなるというルールはありますが、父親が生きていればいつでも強制認知請求をされる可能性があるのです。何らかの事情でどうしても認知できない場合は、調停委員をとおして母親側に認知が難しいことを説得するほかないでしょう。

  3. (3)DNA鑑定で生物的親子関係が認められたケース

    認知調停や認知の訴えでは、子どもが男性の子どもであることを科学的に証明するために家庭裁判所でDNA鑑定が行われます。DNA鑑定の結果、父子関係が証明されれば調停委員が父親に認知をするよう促します。父親がそれでも認知を拒むようであれば裁判に移行しますが、DNA鑑定は非常に精度が高いため、鑑定結果を覆せない限りは父親側に認知を求める判決が言い渡されます

  4. (4)子どもから認知請求があったケース

    仮に父母の間で「認知は求めない」旨の合意書を交わしていたとしても、子どもが将来的に父親側に認知を求める可能性があります。民法第787条では「子(中略)は、認知の訴えを提起することができる」という表現にとどまっていますが、昭和37年の判例では、以下のように子どもからの認知の請求は放棄することができないようになっているからです

    「子の父に対する認知請求権は、その身分法上の権利たる性質およびこれを認めた民法の法意に照らし、放棄することができないものと解するのが相当である(中略)。認知請求権はその性質上長年月行使しないからといつて行使できなくなるものではない。」
    (最判昭和37.4.10民集16巻4号693頁)

3、養育費を一括払いするデメリット

養育費を一括で支払えば、相手の女性にとっては当面の生活費の心配もなくなりますし、支払う側にとっても債務もなくなりすっきりする……と思いきや、そこには落とし穴もあります。養育費を一括払いするとどのようなデメリットがあるのでしょうか。

  1. (1)養育費の一括払いはできる

    養育費は毎月支払ったほうがよいものの、協議離婚であれば支払い方法は自由に決められるので、一括払いにすること自体は当事者同士が合意すれば可能です。ただし、あとから金額を変更することがあるかもしれないので、算定の根拠を明確にするために一括払いの内訳をしっかり書面に明記しておくことが必要です。子どもが複数いるときは、それぞれの子どもについて養育費の金額やその内訳、支払い終了時期などを明記しておくようにしましょう。

  2. (2)あとから追加請求されることがある

    「養育費を一括で支払ったのだから、支払い義務は果たしたことになるだろう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、子どもが大きくなってきたときには、事情が変わっていることもあります。たとえば、高校まで公立の学校に通う予定だったのが中学受験をして中学から私立に行くことになった場合、一括で支払われた養育費では足りなくなります。また、一括で支払われた金額が少なければ、子どもが中高生になるころには枯渇してしまうでしょう。

    そのような場合は、あとから追加で養育費を請求される可能性があります。養育費を一括払いしたときには、事情が変わる可能性があることを留意しておいた方がよいでしょう。

  3. (3)贈与税がかかる可能性がある

    養育費は夫婦間で生活費や教育費などにあてるために渡すものなので、まとまった金額を相手方に支払ってもそのような名目であれば課税はされません。しかし、養育費を一括で支払うと相手方が非常に高額のお金を受け取ることになるので、贈与とみなされて贈与税がかかる可能性があります。また、使うのがもったいないといって貯金にまわしたり、不動産の購入資金に充てたりしていた場合は、贈与税がかかるリスクが高まります。

4、トラブルになったときは弁護士に相談を

認知や養育費をめぐって相手の女性とトラブルになったときは、こじれてしまう前に男女問題の経験豊富な弁護士に相談するようにしましょう。弁護士に相談することでスムーズな問題解決につながります。

  1. (1)認知調停や認知請求訴訟の対応をお任せできる

    相手の女性との間で「認知請求はしない」との約束をしていても、しばらく経って相手の女性や子どもが認知調停を申し立ててきたり、認知請求の訴えを起こしたりする可能性があります。そのときは弁護士に依頼すれば書類作成から手続きまでサポートをしてもらえます。

    調停では調停委員との話し合いに同席して、本人がうまく言えないことでも弁護士がフォローすることで言いたいことを伝えることができます。また、訴訟の場では代理人として相手方に説得力ある主張を展開することで裁判官の心証を良くすることができるので、有利な判決を得られる可能性が高くなります。

  2. (2)妥当な養育費を算定してもらえる

    養育費は父母双方の収入や子どもの年齢、人数などの要素を総合的にみて算出されます。養育費請求調停や裁判では、養育費の算定に令和元年12月に公表された養育費の改定標準算定表を活用していますが、協議離婚の場合は当事者間の希望により金額を定めることが多いでしょう。その場合、弁護士のサポートを受けていれば、子どもの年齢や人数のみならず、将来の進路なども鑑みた上で妥当な養育費を算出してもらえます

  3. (3)養育費の減額交渉もできる

    養育費を一括で支払うとなると非常に大きな金額になることが予想されます。債務者である父親側の収入や経済状況によっては強制執行をされたとしても支払いきれないこともありえるでしょう。しかし、相手の女性側が「あくまでも自分の提示した金額がほしい」という姿勢を崩さない場合は、収入や経済状況にあわせた金額にしてもらえるよう、弁護士に減額交渉してもらうことも可能です。

  4. (4)面会交流などほかの問題の解決もできる

    離婚するときには、認知や養育費のみならず、慰謝料や親権、面会交流、婚姻費用などさまざまなことを決めなければなりません、そのときには、相手方と条件面で折り合えないこともひとつやふたつ出てくるでしょう。その際も、弁護士に依頼をしておけば、双方から話を聞いた上で妥協点を提案してくれます。双方で合意できた内容の合意書を作成したり、その合意書を公正証書にする手続きも、弁護士に任せることができます

5、まとめ

「養育費を一括で支払う代わりに、認知の請求はしないでほしい」ということは可能ですが、後々養育費の追加請求をされたり、子どもから認知請求をされたりする可能性があることも忘れてはなりません。
ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士であれば、将来のことを見据えた上で養育費の支払い方法を含めて妥当と考えられる提案をいたします。一人で悩まずにまずはご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています