子どもを連れて家出をすると親権獲得に不利?リスクを弁護士が解説

2020年08月24日
  • 親権
  • 子ども
  • 連れて
  • 家出
子どもを連れて家出をすると親権獲得に不利?リスクを弁護士が解説

さまざまな事情で夫婦関係がうまくいかず、子どもと共に家出を検討するというケースは少なくありません。しかし、連れ去り別居は、後に離婚する際にどのような影響を及ぼすのか、特に親権を得ることができるかということをよく考えておかなければなりません。

本コラムでは、連れ去り別居が違法となる可能性や、合法的に子どもを連れて別居するには、どのような手続きを踏めばよいのかなど、連れ去り別居の法的な問題点を、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。

1、連れ去り別居は違法?

  1. (1)連れ去り別居とは

    夫または妻によるDV(家庭内暴力)や、不貞行為などを理由に、子どもをもう一方の親に会わせたくないと考える方は少なくありません。特に、DVが子どもにも及んでいる場合には、引き離して子どもを保護したいと思うでしょう。また、離婚後に自らが親権を得ることができるように、配偶者の手の及ばないところに子どもを置きたいと考える方もいらっしゃるかと思います。
    このように、一方の配偶者の同意なく、子どもをその配偶者から遠ざけ、自らと共に別居することを、この記事では「連れ去り別居」と呼びます。正式な法律用語ではありません。

  2. (2)連れ去り別居で逮捕?

    未成年の子どもの誘拐は、「未成年者略取誘拐罪」(刑法224条)という罪に当たりますが、親が子どもをもう一方の親から奪取する連れ去り別居は、未成年者略取誘拐罪に当たるのでしょうか。
    結論からいうと、ケースによっては本罪に該当し、有罪となる可能性があります。過去の判例(最決平成17年12月6日)を見てみましょう。

    家庭裁判所において離婚係争中であった父親が、保育園に子どもの迎えに来た祖母(妻の母)が子どもを自転車に乗せようとしているすきをついて背後から子どもを持ち上げ、自分の自動車に急いで乗せた後、車を発進させて走り去ったという事案です。半日後に父親は逮捕されました。
    本決定では、連れ去り行為は子どもの監護養育上の必要性が認められず、行為態様が粗暴であり、子どもが自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であるにも関わらず、被告人である父親には略取後の監護養育について確たる見通しがあったとはいいがたいと指摘し、家族間の行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるとはいえないとして未成年者略取罪の成立を認めました。

    このように、場合によっては本罪が成立する可能性があります。したがって、違法な連れ去り別居はおすすめできません。
    ただし、DVがひどく、子どもの生命・身体が危険だと思われる場合には、本罪の成立が否定されることもありますので、すぐにでも片方の親と子ども引き離す必要があると考えられる場合には、なるべく早めに弁護士や市区町村の専用相談窓口にご相談いただくことをおすすめいたします。

2、合法的に子どもと共に別居するには

先ほどご説明したように、連れ去り別居は違法となる可能性があります。そこで、子どもを夫や妻と会わせたくない、引き離したいと思う方のために、手順や方法をご説明いたします。

  1. (1)話し合い

    まずは、夫婦間で話し合うことが重要です。相手が納得したうえで、子どもを連れて別居するのであれば、それは連れ去りや未成年者略取ではありません。話し合いが上手くいくようであれば、全く会わせないのか、月に何回、などと回数や頻度を決めるのか、子どもの養育費はどうするのかなど、じっくりと話し合いましょう。

  2. (2)家庭裁判所の指定調停

    話し合いで解決できればベストですが、なかなかうまくいかないケースは少なくありません。DVや嫌がらせがひどく、話し合いにならなかったり、お互いが譲らなかったりというケースが考えられます。話し合いが決裂してしまった場合は、家庭裁判所に監護者指定調停の申立てを行うことを検討しましょう。

    監護者指定調停とは、誰が子どもを育てるべきなのかということについて、家庭裁判所に間に入ってもらって当事者双方で話し合う手続きのことです。双方の言い分を聞きながら、今までの養育状況、双方の経済力や家庭環境等、子どもの年齢、性別、性格、就学の有無、生活環境等の事情を踏まえ、子どもの意向も尊重して監護者となるべきなのは誰なのかを探っていくことになります。

    誰が監護権者に指定されるのかは、「子の福祉」の観点から判断されます。具体的な判断基準としては、①現状尊重の基準、②母親優先の基準、③子の意思の尊重の基準、④兄弟姉妹不分離の基準、の4つが挙げられます。

    ①は、子どもの心理的安定を図るという趣旨から、すでに何らかの形で片親と別居しているのであれば、引き続き現在同居している親が監護権者になるべきであるという考え方です。子供が学校に通っていれば、何度も転校を強いられるというのは子供にとって酷だからです。

    ②の母親優先の基準は、乳幼児については,特段の事情がない限り,母親の監護養育に委ねることが子の福祉に合致する,という考え方です。授乳しなければならないのに母親が面倒を見ることができないと、乳幼児の発育にも影響が出るかもしれません。乳幼児については,母性的できめ細やかな監護が必要であるという考え方に基づくものです。

    兄弟姉妹がバラバラになることも、望ましくない場合が多いです。そこで、兄弟姉妹はなるべく同じ監護者の元で育てられるべきだというべきだという④兄弟姉妹不分離の基準があります。
    ただし、これらの基準は絶対的なものではなく、あくまでも各家庭の事情に合わせて判断がなされます。

    監護者指定調停の申立ては、相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所です。申立人自身の住所地付近の家庭裁判所ではないことに注意してください。

  3. (3)家庭裁判所の指定審判

    調停は、あくまでも話し合いの場です。そこでも結論がまとまらなければ、監護者指定審判という手続きに移行します。
    審判では、家庭裁判所の裁判官が調停での話し合いの内容や各当事者の事情を考慮して、監護権者を決定します。

  4. (4)離婚調停・離婚訴訟

    離婚しようと考えていて、離婚に関する話し合いが当事者間ではまとまらない場合は、上記の指定調停と同様に、家庭裁判所の離婚調停手続きの中で話し合うことになります。この離婚調停の中でも、子どもはどうするのかということが話し合われます。離婚調停でまとまらなければ、離婚裁判(訴訟)で裁判官が離婚するかどうかを判断します。

  5. (5)DV防止法の保護命令制度

    DVが原因で、一刻も早く片方の親から子どもを引き離したいという場合には、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)10条に基づく保護命令が効果的です。被害者が裁判所に申立てを行います。

    裁判所による命令には、①被害者の住居その他の場所において被害者の身辺につきまとったり、徘徊したりしてはならないとする接近禁止命令、②面会の要求や無言電話、連続しての電話やメール、夜間の電話やメール、汚物等の送付などを禁じる命令、③被害者の子どもや親族への接近禁止命令があります。この保護命令に違反したDV加害者には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑罰が科されるため、一定の歯止めとしての役割を期待することができます。

    いずれにせよ、DV被害を受けている場合には、一刻も早く民間のシェルターなどへ避難する必要があると考えられます。

3、親権者はどのように決まる?

先ほど紹介したのは、監護者の指定に関する手続きでした。監護者と親権者は、厳密には異なります。
離婚するまで(婚姻状態にある間)は、親権は父母の双方にあります。これを共同親権といいます。離婚すると、どちらかが単独で親権を持つこととなります(単独親権)。なお、離婚して、親権者でなくなったとしても、その子にとって親であることには変わりありません。
一方で、監護者は、現実に子どもを監護する(世話をする)人のことです。婚姻状態にあり、親権は両親にあるが、監護者指定調停の結果として、監護者は一方の親のみとなることもあります。
ただし、離婚する際の親権者の決定基準は、先ほど紹介した監護者の決定基準とほとんど同じです。すなわち、①現状尊重の基準、②母親優先の基準、③子の意思の尊重の基準、④兄弟姉妹不分離の基準となります。

4、離婚を考えているなら弁護士に相談

ここまで、離婚と子どもに関する問題について解説してきました。まずは当事者間での話し合いを、と書きましたが、離婚を考えているような場合、なかなか結論がまとまらなかったり、そもそも話し合いの場を持つことが難しかったりすることもあると思います。
そんなときは、弁護士に相談することをおすすめいたします。弁護士は、あなたの事情を把握したうえで、最適な解決策を法的な視点から提案することができます。また、相手方との交渉もあなたに代わって、あなたの代理人として交渉を行うことができます。

5、まとめ

さまざまな事情で夫婦関係がうまくいかず、離婚を考えたとき、せめて子どもの幸せは守りたいと誰しもが考えると思います。
本当に今すぐ別居をすべきなのか、それとも別の手段を講じた方がよいのかは、まずは弁護士に相談されることをおすすめいたします。弁護士であれば、法的にどのような手段を講じるべきか、お客さまにとってなにが最善なのかアドバイスが可能です。
子どもを連れて離婚したいと考えている方は、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています