離婚時に残った住宅ローンの財産分与についてわかりやすく解説

2021年04月16日
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離婚時に残った住宅ローンの財産分与についてわかりやすく解説

離婚する夫婦にとって、頭を悩ませる問題は離婚手続きだけではありません。

新婚時代に購入した住宅ローンの残債について、残った住宅ローンを誰が払い、誰の名義にするのかなど、離婚時に揉めるケースは少なくありません。どのように決めたらいいか分からず、なかなか離婚の話し合いが進まないということもあるでしょう。

そこで今回は、住宅ローンの残債の支払い義務やオーバーローンの場合の借金返済方法、住宅ローンと財産分与の関係について弁護士が詳しく解説します。

1、離婚しても、妻は住宅ローンの残債を支払わないといけないの?

離婚しても、妻は住宅ローンの残債を支払わないといけないの?

夫婦の話し合いで離婚の決断をすることになった。でも、夫は離婚条件として「妻が住宅ローンの残債を支払うこと」を要求している。妻側としては、「夫名義の自宅なのに自分に支払い義務なんてあるの?」と疑問に思う方も多いはずです。まずは、この疑問について解決していきましょう。

  1. (1)契約名義人ではない妻にも支払い義務があるの?

    では、住宅ローンの支払い義務は、契約名義人ではない妻も支払い義務があるのでしょうか。

    契約名義人ではない妻は、原則として支払い義務があるとはいえません。しかし、離婚をするとなると話は別です。

    離婚後の住宅ローンの支払い義務については、一概に「ある・ない」ということはできません。住宅ローンの残債がある場合は、離婚の際に行う財産分与においてどうやって負担していくのかを決定しておく必要があるのです。

2、財産分与の割合って?

財産分与の割合って?

次は、離婚の際には避けられない財産分与について理解していきましょう。

  1. (1)財産分与とは

    では、財産分与とはどのような手続きのことを指すのでしょうか。

    財産分与とは、婚姻期間中に得た夫婦の財産を離婚時に清算する手続きです。簡単にいうと、「結婚中に稼いだ2人のお金や住宅などの財産を分けましょう」ということです。

    財産分与の対象となる財産は、
    ・現金や預金
    ・住宅などの不動産
    ・保険
    ・退職金
    ・有価証券
    などと多岐にわたります。

    このように、財産分与とは結婚中に得た財産を分け合う手続きのことです。これをしておくことで、離婚後の財産トラブルを防ぐという効果があります。

  2. (2)財産分与の割合

    では、財産分与はどのような割合で妻と夫に配分されるのでしょうか。

    割合は、原則として2分の1ずつとなります。つまり、半分ずつにできるということです。共働きの場合でも、専業主婦の場合でも割合は変わりません。

    昔は、専業主婦については、財産分与の割合は2~3割程度とされていました。妻は専業主婦が多く、夫が一家の大黒柱として働き、財産を生み出すと考えられていたからです。しかし、現在では共働きの家庭も増えるとともに、男女平等の考え方の普及し、専業主婦への考え方も変化しました。このような経緯から、現在では専業主婦も2分の1が妥当という考えになっています。そのため、専業主婦であっても財産分与では、2分の1の権利があると考えてよいのです。

    ただし、例外もあります。夫が経営者である場合や、弁護士・医者・会計士などの高度専門職である場合には、夫の特殊な能力によって得た財産としてカウントされるため、妻は2分の1以下の財産分与となる可能性もあります。

    このように、原則として妻は2分の1の割合で財産分与の手続きを行うことができます。これを理解した上で、各種財産につき分配を行うようにしましょう。

3、財産分与における共有財産と特有財産

財産分与における共有財産と特有財産

財産分与には、共有財産と特有財産という考え方があります。財産分与の対象となる財産なのかを見分けるポイントにもなりますので、ここを解説しておきたいと思います。

  1. (1)共有財産

    では、共有財産とはどのような財産のことを指すのでしょうか。

    共有財産とは、婚姻継続中に、夫婦が得た財産のことを指します。婚姻中に購入した財産のほとんどが対象となり、現金はもちろん、家具や預金、株券、車、年金、退職金などが具体例です。共有財産は、財産分与の対象となる財産を指します。

    共有財産となるか否かは、財産取得のタイミングによって変わります。婚姻中に得た財産ですので、婚姻前から持っている財産は含まれません。具体的には、独身時代にしていた預金は共有財産ではありません。仮に、婚姻後に利息がつき貯金額が増加したケースなどでも、共有財産には含まれません。

    このように、共有財産とは婚姻中に夫婦で取得した財産を指します。財産分与の対象となる財産と覚えておけばよいでしょう。

  2. (2)特有財産

    では、特有財産とは、どのような財産を指すのでしょうか。

    特有財産とは、婚姻前、独身時代に築いた財産を指します。これは、婚姻前に築いた財産ですので、財産分与には含まれない財産となります。また、婚姻中に取得した場合でも、相続や贈与により取得したものは、特有財産となります。夫婦独立財産制のもと、個人で築いた財産については、財産分与の対象とせず、特有財産として夫婦の財産としないことになっているのです。

    具体的には、
    ・婚姻前の預金
    ・親族から相続した財産
    ・贈与により取得した財産
    などが特有財産となります。

    ただし例外的に、相続により取得した特有財産は、配偶者が取得後の財産の維持に努めたケースなど一定の貢献が認められる場合には、共有財産となることもあります。

    このように、特有財産とは、基本的には独身時代に得た財産となります。もっとも、相続や贈与の場合には例外もありますので注意してください。

4、住宅ローンの財産分与

住宅ローンの財産分与

では、肝心の住宅ローンの財産分与について、その流れと方法を理解していきましょう。

  1. (1)住宅ローンの財産分与の流れ

    では、住宅ローンの財産分与はどのような形で行っていくのでしょうか。

    まず、最初にすべきことは、住宅ローンの残高を調べることです。実際の残高は、借り入れを行った金融機関に問い合わせることで確認可能です。次に、住宅ローンがかけられている住宅の現在の価格を調査します。不動産業者などに鑑定をお願いすれば、査定書を書いてもらうことができます。これ以外にも、売却査定をしてくれるサイトを利用しても良いでしょう。細かい査定額はわかりませんが、おおよその見当はつくはずです。

    査定が終わったら、不動産の評価額とローン残高を比較します。そして、それぞれの状況に応じて、売却するかこのまま支払いを行うかを夫婦で相談します。その後、財産分与の話し合いを行い、必要な手続き(不動産移転登記やローン契約者変更の手続きなど)を行います。

    以上が、住宅ローンの財産分与の一般的流れとなります。以下では、査定時の判断別(アンダーローンとオーバーローン)に分けて住宅ローンの処理方法を説明します。

5、アンダーローンの場合

アンダーローンの場合

では、査定の際にアンダーローンであった場合はどのような財産分与の方法があるのでしょうか。

まず、アンダーローンとは、不動産の査定価格が残債ローンより大きい金額であった場合を指します。このような査定になった場合は、プラスの財産として財産分与の対象となります。

選択肢としては、①そのまま支払いを継続する方法と②売却する方法があります。

①そのまま支払いを続ける方法は、妻が居住し、夫が支払いをすることが前提のケースがほとんどです。夫が後に支払いをしなくなるというデメリットもあるため、できれば「②売却する」の選択肢を選ぶ方が良いでしょう。

②を選択した場合は、一番良い条件で売ることができる不動産業者を探し、売却を実行します。売却金額でローンを完済し、残った財産を原則として2分の1でわけることになります。

アンダーローンの場合は、比較的トラブルが少ないといえます。できれば、離婚時に清算してしまい、残った財産を財産分与で分ける方がよいでしょう。これが一番簡単で、トラブルの少ない方法です。

6、オーバーローンの場合

オーバーローンの場合

では、査定でオーバーローンだとわかった場合は、どのような選択肢があるのでしょうか。

まず、オーバーローンとは、住宅ローンの残債額が不動産の価格より大きい場合をいいます。財産分与では、マイナスの財産として扱います。また、オーバーローンの場合、売却が難しいため、債務の負担をどのように処理するかについての話し合いが基本となってきます。任意売却をするという方法もありますが、債務整理が必要となりますので負担が大きくなります。

選択肢として考えられるのは、基本的には①夫が住み続ける方法、②妻が住み続ける方法2つです。妻が住み続ける場合は、さらに選択肢がありますので、以下詳しく見ていきましょう。

  1. (1)夫が住み続ける方法

    ①の場合、夫が住み続けローン名義も登記名義人も夫のままです。この場合、負担は夫のみとなりますので、住宅ローンについて妻が支払いをする必要はありません。ただし、妻は出ていかなければならず、引越しなどの手間や経費はかかります。小さいお子さんがいる場合は、大変かもしれません。

  2. (2)妻子が一定期間住む取り決めを交わす

    ②の場合、すべての名義は夫にしておき、妻(と子ども)が住み続けるという方法があります。このとき、「子どもが高校を卒業するまで妻子が住む」などの取り決めをしておき、期間が経過したあとは、引っ越すという方法です。子どもの環境をできる限り変えたくないという方におすすめの方法です。支払いは夫のままで、子どもが大きなるまで環境を変えずに住み続けられます。妻子が引っ越したあとは、夫が住むか賃貸にする、売却するなどの方法で処理を行います。

    デメリットとしては、妻は住居費用が無料になる分、養育費が減額される可能性があるということです。また、夫が住宅ローンの支払いをしなくなった場合、家を失う危険があります。もっとも、これは元夫の給料の差し押さえなどができるよう、公正証書を発行しておくことで防止することも可能です。

  3. (3)登記名義人を妻名義に変更する

    次に、妻が家に住み続け、登記名義(所有名義人)も変更するという方法があります。夫がローンの名義人である場合、登記名義も夫であることが多いと思います。しかし、ずっと妻が住み続ける場合は、登記名義だけでも変更しておくことが大切です。

    登記のみを名義変更できるのか、不安に思う方もいらっしゃいますが、名義を変更すること自体は可能です。銀行との契約で「銀行の承諾が必要」になっているケースもありますが、支払いがストップしない限り問題になることはないようです。

    ただし、1点注意があります。登記名義人を妻に変更しても、住宅にある担保権の効力は消えません。そのため、夫が支払いをやめてしまうと家(所有権)を失います。「夫が再婚するかもしれない」など、将来の状況を考慮して決断する必要があるでしょう。

  4. (4)ローン名義人も妻に変更する

    最後に、妻が住み続け、登記もローン名義人も妻に変更するという方法です。ローンの支払いは財産分与の取り決めで夫にローンの一部を毎月支払ってもらうことも可能です。夫がローン名義の家にすみ続ける限り、家を失うリスクはあります。そのため、ずっと住み続けるつもりならば、ローン名義人も変更することをおすすめします。

    もっとも、ローン名義人の変更には審査があります。通常のローン審査がもう一度行われるため、パートやアルバイトという場合は、審査に通ることは難しいでしょう。そのため、妻も共働きで正社員であるというケースに限られます。

    このように、アンダーローン・オーバーローンそれぞれの状況に応じて、対処法は異なります。まずは、住宅の査定を行うことから始めてみましょう。

7、離婚で住宅ローンの処理にお困りの方は、弁護士にご相談を

離婚で住宅ローンの処理にお困りの方は、弁護士にご相談を

多くの方が、「うちには大した財産がないので、弁護士にお願いする必要はない」とおっしゃいます。しかし、購入した住宅がある、ローンを返済中の住宅・車がある、という場合は大きな財産を所有していることになるのです。

住宅ローンの処理は、離婚の際に揉めがちな問題です。残債がある場合は大きな負担となりますので、夫婦がお互いに「負の財産を背負いたくはない」という気持ちになります。これから離婚をしようと検討中の方、離婚協議中の方、もしくは、既に離婚調停を起こされたという方は、弁護士にご相談ください。あなたにとってベストな条件で財産分与が成立するようにサポートいたします。

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