離婚しないで別居しても住所変更はすべき? 住民票を移すべきケース

2023年12月19日
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離婚しないで別居しても住所変更はすべき? 住民票を移すべきケース

川崎市役所が公表する「川崎市統計書 令和4年(2022年)版」によると、川崎市における令和3年年中の婚姻件数は8669件、離婚件数は2064件でした。

実際に離婚するときは、夫婦のどちらかが家を出て、住民票も移すケースがほとんどです。では、離婚前に別居するときは、住所変更をしたほうがよいのでしょうか。

本コラムでは、離婚に向けた別居で住民票を異動させるメリットやデメリットについて、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。

目次

  1. 1、離婚を前提に別居するときは住民票を移すべき?
    1. (1)住民票を移動させたほうがよいケース・移動させなくてよいケース
    2. (2)住民票を移動させると離婚が認められやすい
    3. (3)住民票を移動させるべきタイミングは?
  2. 2、別居するときに住民票を移すメリット
    1. (1)別居状態にあることの証明になる
    2. (2)転入先で児童手当を受け取れる
    3. (3)学校や保育園・幼稚園への編入がしやすい
    4. (4)公営住宅の申し込みができる
  3. 3、別居するときに住民票を移すデメリット
    1. (1)子どもを転校・転園させなければならなくなる
    2. (2)住宅ローンの名義人の場合は契約違反になる可能性も
    3. (3)DV夫(妻)に居場所が知られてしまう
    4. (4)国民健康保険料を自分で支払うことになる
  4. 4、別居にともない住民票を移す前に知っておきたいポイント
    1. (1)夫婦には同居義務がある
    2. (2)無理やり別居すると悪意の遺棄になることも
    3. (3)DV被害を受けている場合は「DV等支援措置」を利用する
    4. (4)家を出る前に共有財産を写真に撮っておく
  5. 5、別居や離婚手続きを弁護士に相談するメリット
    1. (1)別居する最適なタイミングがわかる
    2. (2)相手に一度も会わずに離婚手続きを進められる
    3. (3)婚姻費用や財産分与、養育費の請求もできる
    4. (4)離婚にあたり有利な条件を引き出すことができる
  6. 6、まとめ

1、離婚を前提に別居するときは住民票を移すべき?

離婚を前提として夫婦が別居すると、たいていの場合住民票も転居先へ移すことになります。しかし、別居しても住民票を移すべきではないケースもあります。

  1. (1)住民票を移動させたほうがよいケース・移動させなくてよいケース

    別居するときに住民票を移動させたほうがよいケース・移動させなくてもよいケースは次のとおりです。

    <住民票を移動させたほうがよいケース>
    離婚の意志が固く、「復縁はない」と決めている場合は、住民票を移動させたほうがよいでしょう。住民票を移動させていれば、公的書類を含め自分宛ての郵便物は自分の手元に届くことも移動させるべき理由のひとつです。

    <住民票を移動させなくてよいケース>
    一時的な別居にとどまるような場合は、住民票を移動させなくてもよいでしょう。たとえば、夫婦の一方が単身赴任でしばらく家をあけるケースなどが典型例です。何らかの原因で夫婦仲が悪くなり、冷却期間を置くために一時的に別居する場合も、こちらのケースにあてはまるでしょう。

  2. (2)住民票を移動させると離婚が認められやすい

    別居時に住民票を引っ越し先に移動させておけば、住民票の移動の形跡がそのまま別居している事実や別居期間を示す証拠となります。そのため、住民票を移してしばらく時が経てば、調停や裁判になったときに離婚が認められやすくなります。

  3. (3)住民票を移動させるべきタイミングは?

    住民票の移動は、別居からできるだけ時間を置かずに行いましょう。早めに転出届を出して住民票を転居先に移しておくことで、役所でのさまざまな手続きや金融機関などの住所変更を経て生活環境を整えるときにも役に立ちます。最近では電子申請サービスを使って窓口に行かなくても転出届が出せるようになっているので、こういったサービスも利用するとよいでしょう。

2、別居するときに住民票を移すメリット

別居するときに住民票を移すと、次のようなメリットがあります。

  1. (1)別居状態にあることの証明になる

    住民票をもともと住んでいたところから転居先に移動させることで、別居状態になっていることを客観的に示す証拠になります。そのまま別居を長く続けていれば、夫婦の協力関係がなくなっていることが証明できるので、離婚を成立させやすくなります。

  2. (2)転入先で児童手当を受け取れる

    児童手当の受給者は、子どもの父親である夫の名義になっていることがほとんどです。しかし、子どもとともに住民票を移しておけば、転入先の自治体で自分が受給者となって子どもの児童手当(自治体によっては乳児養育手当も)を受け取れます。

    なお、離婚にともない受給者を変更する場合は、離婚協議中あるいは離婚調停中であることを示す証明書の提出が必要になることがありますので注意しましょう。

  3. (3)学校や保育園・幼稚園への編入がしやすい

    高校生以下の子どもとともに別居する場合、住民票を移動させなければ、転入先の自治体にある小中学校・高校や保育園・幼稚園への編入ができません。学校や保育園・幼稚園側に事情を話せば理解が得られることもありますが、住民票を移さないままでは転入先の学校などに通い続けるのは難しいでしょう。

  4. (4)公営住宅の申し込みができる

    別居・離婚することで、状況次第では公営住宅の申し込み対象になれる可能性があります。
    たとえば川崎市では、高齢者世帯や心身障害者世帯、義務教育終了前の子どもがいる世帯は21万4000円以下、その他の世帯は15万8000円以下という所得の基準を満たせば、市営住宅に申し込むことができます。

3、別居するときに住民票を移すデメリット

別居するときに住民票を移すと以下のようなデメリットがあります。

  1. (1)子どもを転校・転園させなければならなくなる

    もともと住んでいた場所から住民票を移してしまうと、通っていた学校や保育園・幼稚園に通うことが原則としてできなくなります。特に、学校は校区が決まっているため、校区外の場所に引っ越してしまうと、子どもを転校させなければならなくなってしまうのです。校区外から引き続き同じ学校に通わせたい場合は、学校側とよく相談する必要があるでしょう。

  2. (2)住宅ローンの名義人の場合は契約違反になる可能性も

    住宅ローンの名義人になっている場合は、ローンの返済が完了するまで住民票の移動はできません。住民票を移動させると、契約違反となってしまうからです。住民票の移動が借入先の金融機関にわかると、借り換えを要求されたり一括返済するように迫られたりする可能性もあります。また、住宅ローン控除を受けていたときは、住民票の移動後に控除が利用できなくなることにも注意が必要です。

  3. (3)DV夫(妻)に居場所が知られてしまう

    夫婦は結婚すると同じ戸籍に入りますが、その状態で夫婦のどちらかが住民票をこっそり他の場所に移しても、相手にはすぐにばれてしまいます。なぜなら、配偶者は役所に照会することで、戸籍の附票や住民票(除籍票)を閲覧できるからです。そのため、配偶者に居場所を知られたくない場合に住民票を移すときは、慎重にならなければなりません。

  4. (4)国民健康保険料を自分で支払うことになる

    夫が勤め先の健康保険に加入していて、妻が扶養に入っている場合、別居しても妻は夫の被扶養者でいることができます。

    しかし、夫婦ともに自営業者などで国民年金の被保険者の場合は話が別です。同じ世帯でいるうちは夫が妻の分もまとめて保険料を支払ってもらえますが、別居して住民票を移すと、妻が自分で国民健康保険に加入して保険料を支払わなければならなくなります。

4、別居にともない住民票を移す前に知っておきたいポイント

別居のため住民票を移す前に、以下のようなことを知っておきましょう。

  1. (1)夫婦には同居義務がある

    民法には、「夫婦は同居し、相互に協力し扶助しなければならない」との規定があります。つまり、夫婦に「同居義務」があるのです。そのため、病気の療養や単身赴任などやむをえない場合をのぞき、相手方の合意なく夫婦のどちらかが一方的に家を出て行くことは、この同居義務に反すると考えられています。同じ家に暮らしていても、生活空間を分ける「家庭内別居」は、別居ではないとみなされる可能性が高いことに注意が必要です。

  2. (2)無理やり別居すると悪意の遺棄になることも

    「もう一緒に暮らしていけないから」と無理やり別居をすると、民法上の「悪意の遺棄」にあたる可能性があります。

    過去に、結婚25年後に半身不随の障害を負った妻を置き去りにして5年間帰宅せず生活費も支払わなかった夫の行為が「悪意の遺棄」にあたるとして、婚姻期間中に購入した土地・建物の所有権をすべて妻に移転するよう、裁判所が夫に命じた判例があります(浦和地裁昭和60年11月29日判決)。

  3. (3)DV被害を受けている場合は「DV等支援措置」を利用する

    配偶者からDVを受けていて住民票を見られたくないときは、「DV等支援措置」を利用できます。「DV等支援措置」とは、DV等の加害者が住民票の交付を利用して被害者の住所を知ろうとするのを防止し、被害者を保護するための制度です。

    これを利用したいときは、まず地域の警察署や配偶者暴力支援センターなどの相談機関に相談します。DV等支援措置が必要と判断されれば、相談機関で「住民基本台帳事務における支援措置申出書」に意見を書いてもらい、住民票や戸籍のある役場に提出します。

  4. (4)家を出る前に共有財産を写真に撮っておく

    別居のために家を出るときは、貴重品や衣服、常備薬、学校の教材など自分や子どもの所持品を持ち出すことになります。どうしても持ち出せないものは、家を出る前に写真を撮っておきましょう。これは、後日財産分与を請求する前に、相手方に勝手に処分されて共有財産はないものとされてしまうことを防ぐためです。写真を撮っておくことは公正公平に財産分与を行うためにも必要です。

5、別居や離婚手続きを弁護士に相談するメリット

別居のことや離婚手続きを弁護士に相談すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

  1. (1)別居する最適なタイミングがわかる

    別居するといっても、家を出て行くほうはさまざまな準備が必要です。仕事を探して当面の生活資金をためる、転居先の家を探す、学校や保育園・幼稚園をどうするかを決めるなどあらゆることを考えなければなりません。

    これらの準備が整ったときが別居のタイミングになりますが、配偶者から暴力やモラハラを受けている場合は、すぐにでも別居したほうがよいこともあります。弁護士に相談すれば、状況に応じて別居する最適なタイミングについてアドバイスをもらえるでしょう。

  2. (2)相手に一度も会わずに離婚手続きを進められる

    離婚を前提に別居したら、もう相手には会いたくないという方も少なくありません。弁護士に相談すれば、弁護士を介して離婚条件に関する協議や手続きを進められるので、相手に一度も会わないまま離婚を成立させることが可能です。弁護士が間に入るため、感情的にならず冷静に離婚に向けて話ができることも弁護士を利用するメリットです。

  3. (3)婚姻費用や財産分与、養育費の請求もできる

    別居しても、離婚が成立するまで、収入の多いほうが少ないほうに生活費として婚姻費用を請求できます。同時に、結婚後夫婦で築き上げてきた共有財産を分割する財産分与や、子どもの養育費も、弁護士のサポートを受ければ、適正な金額を受け取ることが可能です。

  4. (4)離婚にあたり有利な条件を引き出すことができる

    離婚や別居のことで弁護士のサポートを受ける一番のメリットは、交渉を自分に有利なように進められて、相手方から有利な条件を引き出せることです。別居するときに相手方のほうが出て行くことで持ち家に住み続けることができたり、財産分与や養育費、慰謝料についても、より高い金額を得られたりする可能性も高くなるでしょう。

6、まとめ

離婚をする前に別居をするという決断は非常に大きなものでしょう。
住民票などを含めた住所変更についての手続きはどうしたらよいかなどの細かな決断だけでなく、生活費はどうするか、婚姻費用の請求はできないか、離婚する際に行う財産分与、慰謝料、養育費などについても決めなければなりません。

また、子どもが小さければ小さいほど、子どもと一緒に出て行く方の負担は大きくなる傾向があります。少しでも負担を軽くするためには、別居に向けて念入りな準備を行うことをおすすめします。

離婚のために別居を検討されている方は、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスまでご相談ください。弁護士が、離婚手続き全般をサポートします。どんなにささいなことでも構いません。別居後、離婚後の生活で。必要以上の苦労を背負うことがないよう、アドバイスが可能です。

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