アスペルガーの夫に疲れたカサンドラ妻。発達障害を理由に離婚可能?
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アスペルガー症候群をはじめ、発達障害の配偶者をもつ方は、「相手の言動が理解できずに疲れた……」「一緒にいるのが苦しい……」と、心身ともに大きく疲弊してしまうことがあるでしょう。
なかには、ストレスからカサンドラ症候群を発症したり、離婚したほうがよいのではないかと離婚後の生活を考えたりするという方も少なくありません。
そもそも、配偶者のアスペルガー症候群などの発達障害を理由に、離婚することはできるのでしょうか。
本コラムでは、アスペルガー症候群・発達障害の特徴や、離婚手続きにおける注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。
1、アスペルガー症候群は発達障害の一種
アスペルガー症候群は、ADHDやLDとならぶ発達障害の一種です。子どもの頃にわかることが多いですが、大人になって症状が現れたために自ら発達障害の専門外来を受診するケースも少なくありません。まずは、アスペルガー症候群とは何なのかについて知っておきましょう。
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(1)発達障害とは
発達障害とは、生まれつき脳機能の一部に障害があるために、自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などが現れる状態のことです。
1歳頃から症状が現れるのが発達障害の特徴ですが、最近では大人になってから発達障害との診断を受ける方も少なくありません。
同じ障害のある方でも障害の程度は千差万別ですし、ひとりで複数の障害をかかえる方もいます。
そのため、発達障害は症状の表れ方に個人差がとても大きいことがその特徴であると言えるでしょう。 -
(2)アスペルガー症候群とは
アスペルガー症候群とは、広い意味で自閉症スペクトラム障害(ASD)のひとつで、高機能自閉症、高機能広汎性発達障害とほぼ同義とされることもあります。
一般的に、対人関係やコミュニケーションの障害、興味や行動の極端なかたよりなどがみられる傾向があります。自閉症スペクトラム障害は100人に1~2人いると考えられており、女性より男性のほうが多いのが特徴です。 -
(3)アスペルガー症候群の特徴
アスペルガー症候群の症状としてよくみられる特徴は以下のようなものです。アスペルガー症候群の方の中には、子どもの頃は周囲のサポートもあって特に問題なく過ごしてきたが、大人になってから違和感が顕著に現れはじめる方もいます。
<大人によくみられる症状>- 空気が読めない
- 相手の気持ちを察したり、感情を共有したりすることができない
- 一方的に話をする
- 相手の言葉を文字通りに受け止めてしまう
- 想定外のことに対応できない
- 好きなことや興味のあることには何時間でも没頭する
- 自分の決めたものごとの順番・ルールを変えることをいやがる
- 優先順位をつけることが苦手
2、アスペルガー症候群の夫をもつ妻がカサンドラ症候群になる理由
アスペルガー症候群の夫をもつと、妻は疲弊するあまり「カサンドラ症候群」という症状を引き起こしてしまう場合があります。このように、妻が心身に不調をきたしてしまう理由は一体何なのでしょうか。
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(1)カサンドラ症候群とは
カサンドラ症候群とは、相手の気持ちを察したり理解したりするのが難しい発達障害の配偶者にストレスを感じ、主に睡眠障害やうつなどの不調が生じることを指します。
ただし、正式な疾患名ではありません。 -
(2)結婚するまで相手がアスペルガー症候群とわからないこともある
アスペルガー症候群の方は、大人になるまで周囲に発達障害と気づかれずに過ごすこともあります。社会に適応できる方の場合は、職場などでのコミュニケーションは問題ありません。
付き合っているときは関係性がうまくいくので、結婚するまで相手がアスペルガーとわからないケースもあり、結婚してはじめて相手に違和感を持つ、ということも少なくありません。 -
(3)話がかみ合わない
アスペルガー症候群の夫をもつ妻がカサンドラ症候群になってしまう理由のひとつには、何度話し合いをしようとしても話がかみ合わないことがあげられます。
アスペルガー症候群の方は対人コミュニケーションがうまくとれないので、相手に自分の気持ちを理解してもらえなかったり、質問してもちぐはぐな答えが返ってきたりします。話がかみ合わないことによってストレスがたまり、心身に不調をきたしてしまうのです。 -
(4)自分のことを気遣ってもらえない
相手に自分のことを気遣ってもらえず、身体的、精神的に不調に陥ってしまうこともカサンドラ症候群の一因です。
たとえば、妻が熱を出して寝込んでいたら、夫は「大丈夫か?」と声をかけたり、夫が妻の代わりに家事や育児に取り組んだりすることがあるでしょう。
しかし、夫がアスペルガー症候群の場合は、相手の気持ちをくんだり気遣いをしたりすることが不得手なので、そのようなことが期待できません。 -
(5)他人に対して失礼な態度をとる
アスペルガー症候群の方は、空気を読んだり相手との気持ちの距離感をつかんだりすることが苦手です。
そのため、他人や相手の親に対してなれなれしい態度で接したり、平気で失礼なことを言ってしまったりすることも少なくありません。
夫婦で一緒にいるときに他人と会話をしていると、妻は隣で夫が失礼なことを言わないかどうかに神経をとがらせなければならず、疲れてしまうのです。
3、アスペルガー症候群の夫との離婚手続きを進めるときの注意点
「アスペルガー症候群の夫とはもう一緒に暮らしていけない」と考え、離婚に踏みきろうとしてもなかなか一筋縄ではいかないかもしれません。少しでもスムーズに進めるにはどのようなことに注意すべきなのでしょうか。
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(1)「夫がアスペルガー症候群」だけでは離婚事由にならない
民法で定められている離婚事由の中には、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(民法770条1項4号)があります。夫がアスペルガー症候群の場合、この「強度の精神病」にあてはまるのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに、アスペルガー症候群は回復の見込みのない障害ではありますが、「強度の精神病」とまでは言いがたく、裁判でも離婚事由として認められることはほぼないでしょう。
裁判では、アスペルガー症候群の夫に対してどれだけ支える努力をしてきたかも問われますので、答えられるようにしておかなければなりません。 -
(2)話し合いが難航する可能性がある
「離婚しよう」と決心して相手に離婚の話を切り出しても、アスペルガー症候群である夫にはまったく気持ちが伝わらないことがあります。
健常者よりも会話を成立させることが難しいため、話し合いが難航するケースも少なくありません。そのため、ある程度時間がかかることは覚悟しなければならないでしょう。
相手方が離婚に応じる気がある場合は、調停のほうがかえって早く進むこともありますので、場合によっては協議離婚より調停離婚に持ち込むほうがよいかもしれません。 -
(3)別居をしたほうがいいことも
先述のとおり、アスペルガー症候群が強度の精神病と認めてもらうことは難しいでしょう。しかし、結婚生活を続けることが難しいとするほかの理由があれば、「婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法770条1項5号)として認めてもらえる可能性があります。
離婚の意志が固い場合、先に家を出て別居生活をして婚姻生活が破綻している既成事実をつくるのもひとつの方法です。
また、そのほかにも言葉の暴力を受けていることやこちらがミスや失敗をしたときに相手方に激高されたことなどのエピソードを、ひとつひとつ積み重ねていくことで離婚を認めてもらう方法もあります。 -
(4)離婚後も離婚を受け入れてもらえない場合がある
協議や調停、裁判で離婚が成立したにもかかわらず、相手方が気持ちの面で受け入れられず、「戻ってきてくれ」「会おう」などと連絡してくることがあります。基本的に面会交流以外では夫に会うことはないと思いますので、面会交流以外で会う気がないのであればスパッと断りましょう。
4、アスペルガー症候群の夫との離婚を弁護士に相談するべき理由
アスペルガー症候群の夫と離婚するという意志を固めたら、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。
自力で離婚協議をしようとしても、相手方に話が通じずにかえって疲弊してしまうことがあるからです。発達障害の配偶者との離婚を扱った経験のある弁護士であれば、実践的なアドバイスをもらうことができるでしょう。
ここでは、アスペルガー症候群の夫との離婚を弁護士に相談する3つのメリットを紹介します。
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(1)粘り強く交渉してもらえる
夫が家族以外とのコミュニケーションなら問題ない場合は、弁護士が交渉するとうまく話し合いが進むこともあります。
しかし、一般的にアスペルガー症候群の夫とは会話がかみ合わずコミュニケーションが成り立たないことも少なくありませんので、離婚に向けた交渉は難しい傾向があります。そのような中でも弁護士に依頼すれば、最後まで粘り強く交渉をします。 -
(2)書類上の手続きを代行してもらえる
協議離婚であれば作成するのは合意書くらいですが、調停や裁判となると、裁判所に提出する申立書類の準備が必要です。
申立書類の書き方は煩雑でわかりにくいものですが、弁護士であれば書類作成から提出まで一連の手続きをもれなく代行することが可能です。依頼者は弁護士の作成した書類に署名や押印をするだけですむので、身体的・精神的負担がぐっと減るでしょう。 -
(3)有利な条件で離婚できる
離婚するときに弁護士をつける最大のメリットは、弁護士が代理人として矢面に立つことで有利な条件を相手方から引き出せることです。
アスペルガー症候群の夫を相手に条件面のことを話し合ってもなかなか受け入れてもらえないかもしれません。
弁護士が交渉や裁判にあたることで依頼者の主張をうまく相手方に伝え、財産分与や婚姻費用、親権について自分側に有利になるように進めることが可能です。
5、まとめ
一度関係が悪化したアスペルガー症候群の配偶者とは、結婚生活をやり直すことが難しいことがあります。離婚に向けて動き出しても、話し合い自体が難航することもあるでしょう。
配偶者と離婚すると決意したときや、実際に離婚のことでトラブルになっているときには、早めに弁護士に相談することがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスでは、発達障害の配偶者との離婚問題について、経験豊富な弁護士が相談に応じます。ひとりで思い悩まず、一度お気軽に川崎オフィスまでお問い合わせください。
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