もはや絶望的状況? 離婚後の問題「養育費の不払い」を防ぐために知っておくべきこと
- 離婚
- 養育費
- 不払い
- 川崎
- 弁護士
川崎市の調査によると、川崎市在住で離婚の際に養育費の取り決めをしているひとり親世帯は、母子世帯で43.7%、父子世帯で27.2%にとどまっています。それでも、実際に継続して養育費をもらっている世帯は、母子世帯で31.5%、父子世帯で4.9%と、さらに少なくなっています。(※)出典:「川崎市ひとり親家庭生活・就労状況等実態調査」平成27年3月
離婚したのち、子どもの親権者となれば、当然ながら子どもを育てていかなければなりません。しかし、子どもを引き取らなかった方もまた、子どもの親であるという事実に変わりはないのです。そこで、親権者とならなかった親には、養育費を支払う義務があります。
言い換えれば、「親権者とならなかった子どもの親に対して、養育費を請求することができる」ということです。しかし、養育費の支払い状況においては絶望的ともいえる状況があります。このような現状をふまえて、離婚後に養育費をきちんと支払ってもらうためには、どのようにしたらよいのでしょうか。川崎オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、離婚のときに決める養育費とは
養育費とは、経済的、社会的に自立していない未成熟子が自立するまでに必要とする費用を指します。具体的には、子どもの衣食住などの生活に必要な経費や、教育費、医療費が当てはまるでしょう。
間違えてはならないのは、「養育費は親権者となった親がもらえる」という性質のお金ではなく、「子どもが心身ともに健やかに育つためのお金」だということです。離婚という事態に陥った以上、元配偶者に対してさまざまな感情があることは理解できます。しかし、養育費は子どもの将来を見据え、冷静かつ子どもへの愛情をもって決定する必要があるでしょう。
なお、平成23年には民法第766条が改正され、面会交流と養育費の分担は離婚の際の取り決め事項として、「子の利益をもっとも優先して考慮しなければならない」と、明確に定められました。また、「母子及び父子並びに寡婦福祉法」では第5条でも、養育費支払いの責務などが明記されています。
2、養育費の請求について、その流れと請求方法
養育費については、平成19年に厚生労働省の委託事業で養育費相談支援センターが設立され、さまざまなアドバイスを行っています。ただ、残念ながら強制力があるわけではないので、養育費の未払いによって困窮しているひとり親世帯は、少なくないのが現状です。
-
(1)養育費は離婚の際に取り決める
さまざまな理由により離婚に至りますが、養育費については、離婚する際に取り決めるのがもっともよいでしょう。たとえ離婚の際は「いらない」と言ってしまっていても、あとから請求することは可能です。しかし、話し合うことそのものが困難となり、交渉がまとまりにくくなることも多い傾向があります。
-
(2)養育費の決め方とは
●話し合いで決める
話し合いでお互いに納得して決めることができれば、それに越したことはありません。親権者を決めることと並行して、養育費の金額や支払う時期や期間、その方法など、細かく取り決めましょう。
最終的に互いに合意できたときは、きちんとその内容をまとめて「離婚協議書」と呼ばれる書面にしておくことをおすすめします。あとで、お互いに「言った」「言わない」などのトラブルになることを防ぐことができます。
さらに、養育費の不払いが起きた際もスムーズな対応ができるようにするためには、離婚協議書に「強制執行認諾約款」を入れたうえで、公証役場へ足を運び、公正証書にしておくとよいでしょう。「強制執行認諾約款」を入れた公正証書があれば、万が一不払いが起きたときは素早く強制執行することができます。
●家庭裁判所の調停や審判で決める
話し合いで養育費の額などが決められないときは、離婚調停を通じて決めることもできます。離婚そのものについて調停を行っている際には、一般的に養育費の取り決めも並行して行うことになるでしょう。万が一、調停で決まらない場合は、家庭裁判所の審判や裁判で決めることになります。
調停や審判で離婚時に必要な取り決めとともに、養育費について決定したときは、離婚調書にその内容が記載されます。養育費などの取り決めについての記載が含まれた離婚調書があれば、万が一不払いが起きたときは、すみやかに強制執行が行えます。
●家庭裁判所の裁判で決める
離婚の際に家庭裁判所での裁判になった場合は、離婚と同時に養育費についても、判決で決定することになります。裁判では、和解することや判決が下りることもありますが、ここで決定したことには法的な効力を持ちます。万が一、養育費が不払いとなったときは、判決書や和解書をもとに強制執行をすることができます。 -
(3)離婚後でも養育費は請求できる
離婚の際に養育費についての取り決めをしていなかった場合でも、離婚後に養育費を請求することはできます。たとえ「養育費はいらない」と伝えていた場合でも同様です。
ただ、経済状況や家庭環境など、相手の環境はさまざまな理由から変化していることは多々あります。請求したとしても、スムーズに支払ってもらえることはあまり多くはないでしょう。特に、離婚時の話し合いで「いらない」と伝えていたり、養育費は不要として署名押印したりしていたら、相手の態度が硬化する可能性も考えられます。話し合いによる請求が難しいときは、家庭裁判所で養育費請求のための調停や審判を行うことができます。 -
(4)養育費請求調停とは
養育費請求調停では家庭裁判所の調停委員が立ち合って、養育の費用や収入など、申立人や相手方のさまざまな事情を聴いたり、資料を提出してもらったりします。そのうえで、養育費の支払いについて、適切な解決策の提示や助言を通じ、話し合いを仲介して合意に導いてもらえる制度です。
養育費請求調停が行われるケースは以下のとおりです。- 離婚後に、養育費の支払いについての話し合いがまとまらない場合
- 離婚後に、養育費の支払いについての話し合いができない場合
- 支払う側の事情で、養育費の支払い額を減らしてほしい場合
- 受け取る側の事情で、養育費の支払い額を増やしてほしい場合
- 養育費の不払いが続いている場合
なお、養育費請求調停で決められることは、主に以下の内容となります。
- 養育費を支払うのかどうか
- 養育費の金額
- 養育費を、短期間でまとめて支払うのか、定期的に長期間支払っていくのかなど、具体的な支払い方法
- 養育費を子どもが何歳になるまで支払うのか
3、公正証書と審判について知っておくべきこと
離婚の際に養育費の取り決めをして、公証役場で公正証書を作成しておくことは、さまざまなメリットがあります。費用や時間がかかって、面倒に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、検討する価値は大いにあるでしょう。すでに離婚しているが公正証書を作成していない場合でも、公正証書の作成は可能です。
-
(1)公正証書を作成するメリット
公正証書とは、法律の専門家である公証人がその内容を認めて証明し、作成してもらう書類です。作成手順などは公証人法で厳格に定められているため、公正証書として作成した書類は、一般的な書類と比べ、法的にも強い証拠力を持たせることができます。
よって、離婚協議書を公正証書に残しておくことで、公文書としての信頼性が高くなり、裁判となった場合でも、その内容には高い証拠能力が認められます。さらに、離婚協議書をなくしてしまった場合でも、公正証書は公証役場に原則として20年間保管されるため、万が一に備えることができるでしょう。
前述のとおり、公正証書を作成する際、執行受諾文言を入れておけば、もしも養育費の不払いが起こった場合、裁判所での手続きを経ることなく、強制執行(給料の差し押さえなど)が行えます。強制執行について支払う側が理解していれば、そもそも不払いが起こる可能性も低くなりことが期待できます。
離婚後に、ひとりで子どもを育てていくうえで、経済的不安を感じる方は多いものです。しかし、離婚の際にきちんと公正証書を作成しておくことで、その不安が少なくなります。もしも、養育費の不払いが起こった場合も、強制執行力があるので、万が一のときは対応することができます。 -
(2)公正証書がなくても養育費は請求できる
離婚時に公正証書を作成しておくのには、前述のとおりさまざまなメリットがありますが、多くの元夫婦は、公正証書を作成していないのが現状です。
すると、養育費の不払いが起こったときに、「公正証書がないから強制執行できないのでは?」と思うかもしれません。しかし、時間はかかりますが、養育費の請求自体は可能です。状況によっては調停や審判を行うことができます。 -
(3)養育費の不払いが起きたら取るべき手順
養育費の不払いが起こった場合、まずは相手に電話やメールなどで連絡を取って、支払いを促すことからはじめます。
相手に連絡しようとしても電話やメールを無視するなど、連絡が取れなかったり、話し合いに応じなかったりする場合、内容証明郵便を送ることができます。内容証明郵便は、手紙の内容を郵便局が証明してくれる郵便で、証拠能力があり、相手にプレッシャーを与えることもできます。今後の交渉で不利にならないよう、可能な限り、弁護士に相談して内容証明郵便の内容を確認しておくことをおすすめします。
当事者同士の話し合いでまとまらなかったときは、養育費請求調停を行うことができます。養育費請求調停は、原則、相手の住所地の家庭裁判所などで行われます。それでもまとまらなかった場合や、そもそも相手が調停に応じなかった場合などは、審判の手続きを行います。
審判は、子どもの住所地の家庭裁判所で行うことができます。審判では、裁判所が養育費の金額や支払い方法を決めて、相手に養育の支払い命令を行います。その内容は「審判書」に記載され、当事者に送られます。審判書には強制執行力があるので、その後に養育費が支払われなかった場合、給料や財産などを差し押さえることができます。
4、弁護士に手続き代行を頼むべきか?
養育費の不払い分を子どもの父親に請求したいと考えたとき、弁護士に依頼すべきか迷う方もいるでしょう。弁護士は、交渉のプロでもあります。交渉を任せることで、状況によっては調停や審判、裁判になる前に支払いをしてもらえるようにできることもあるでしょう。
それ以外にも、弁護士に依頼するメリットは以下のとおりです。
●非弁行為にならない
インターネットを見ると、行政書士・司法書士が「街の法律家」を自称して、離婚相談をしていることがあります。しかし、行政書士・司法書士が財産分与や養育費等の相談や交渉をすることは違法なのです!
弁護士でない者が法律事務を扱うのは、弁護士法で非弁行為として禁止されています。これに違反すると、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金になります。また、せっかく離婚や養育費について合意が成立しても無効になる可能性もあります。安心して離婚相談をしたいのであれば、必ず弁護士に相談しましょう。
●養育費請求調停から審判に移行したとき、有利に話を進められる
基本的に「調停」とは、当事者間の話し合いを仲介するものです。よって、調停の段階で弁護士に頼むメリットはありますが、個人でも対応は可能です。
しかし、調停を経て行われる審判では、調停での話し合いの内容が重視されます。あらかじめ、弁護士のアドバイスを得ながら、養育費請求調停を進めておけば、有利な審判が下される可能性を高めることができるでしょう。
●養育費請求調停はせず、審判を申し立てることができる
相手に話し合いに応じる姿勢が見られない場合や、相手に養育費を支払えるだけの収入があるという証拠があるような場合、話し合いの場である「調停」に意味はないと考えるかもしれません。
すでに離婚は成立していて、養育費についてのみ払ってほしいというときは、調停はしないで、即座に審判を申し立てることもできます。ただし、個人が裁判所に審判の手続きをしようとすると、裁判所の書記官には、調停を経るように促されてしまうことが多いようです。手続き代行を弁護士に依頼したほうが、確実に審判の申し立てができます。
5、経済的に支払いが難しい元配偶者への対処
元配偶者が、経済的に養育費を支払うのが難しいこともあります。しかし、養育費は子どもが育つために必要なお金というだけではなく、子どものそばで見守ることができない親が、「子どもにも見える形で示せる愛情」でもあるのです。
以下のようにして、少しでも支払ってもらえるようにすることはできるかもしれません。あきらめず、相談してみるとよいでしょう。
●金額を下げる
相手が支払える範囲の金額を設定することで、不払いが起こらなくなる可能性が高まります。教育費などの関係で「ずっとこの金額では困る」というケースでも、相手の収入が増えたときや必要なときに、再び養育費請求調停を行うことができます。
●ボーナスでまとめて支払ってもらう
月々の支払いは難しくても、ボーナスでまとめて支払える可能性もあるかもしれません。場合によっては、検討してみてもよいでしょう。
●祖父母に支払ってもらうこともできる
祖父母にも、孫への扶養義務はあります。ただし、当然のことながら子ども自身の父母のほうが、優先順位が高いため、祖父母の生活に余裕があった場合に限られると考えてください。また、直接支払ってもらうわけではなくとも、養育費の取り決めをしたときに、連帯保証人になってもらうこともできます。連帯保証人になってもらっておけば、養育費の不払いが起こったとき、連帯保証人である祖父母に請求することができます。
6、まとめ
両親には子どもを養育する義務があり、たとえ離婚してもその義務がなくなるわけではありません。しかし、日本では、離婚後に養育費の不払いがまかりとおり、貧困に陥るひとり親世帯が多いという現状があります。そのようにならないための法改正は進められていますが、まだまだ道半ばです。
大切なお子さんのためにも、養育費の不払いが起こったら、あきらめて泣き寝入りすることなくきちんと支払ってもらえるよう立ち向かいましょう。そのためには、弁護士に依頼することも視野に入れてみることも一案です。
川崎市にお住まいで養育費不払いについて悩んでいるときは、ベリーベスト法律事務所の川崎オフィスへ相談してください。川崎オフィスは家庭裁判所や公証役場に近く、離婚や養育費に関する問題に数多く対応した弁護士が、経験に基づいた適切なアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています