特別背任罪とは? 法定刑や時効などについて弁護士が詳しく解説
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最近、日産の前会長であるゴーン氏の刑事事件がニュースとなって世間を騒がせていますが、ゴーン前会長の被疑事実の1つが「特別背任罪」です。これは、会社の取締役などの一定の権限を有する者が「不正融資」や「不良貸付」を行っていた場合などに成立する犯罪です。
具体的にはどういったケースで「特別背任罪」が成立し、刑罰はどのくらいになっているのでしょうか?
本コラムでは、特別背任罪について弁護士が詳しく解説いたします。
1、特別背任罪とは?
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(1)特別背任罪の成立要件
そもそも「特別背任罪」とはどのような犯罪なのか、確認しましょう。
特別背任罪は、刑法の「背任罪」の特別類型です。通常の背任罪を「株式会社の取締役などの一定の人」が行った場合に「特別背任罪」となります。
背任罪が成立するのは、以下の要件を満たすケースです。
- 自分や第三者の利益を図る目的、あるいは会社に損害を加える目的を持っている
- 任務に背く行為をする
- 会社に財産上の損害を与えた
これを取締役などが行うと特別背任罪となってより重く処罰されます。
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(2)特別背任罪が成立する典型的なケース
特別背任罪が成立するのは、典型的に以下のようなケースです。
- 不正融資、不正取引
- 不良債権の貸付
- 不正な会社と取締役間の取引
- 粉飾決算
たとえば役員が会社の承認を得ずに支払い能力のない相手や取引先などに多額の資金を貸し付けた場合、代表取締役が会社から不正に借入をしたり贈与を受けたり会社の財産を勝手に使ったりした場合、会社に利益が出ていないのに株主に配当を行った場合(蛸配当)、不正に経費を水増ししたりして粉飾決算を行い会社に損害を与えた場合などに特別背任罪が成立します。
会社の金銭、資産や商品などを横領した場合にも会社に損害を与えることとなりますが、その場合には業務上横領罪も成立します。 -
(3)特別背任罪が成立する人
特別背任罪が成立する「人」は、株式会社に関連する一定の範囲の人に限定されています。具体的には以下の通りです(会社法960条)。
- 発起人
- 設立時取締役又は設立時監査役
- 取締役、会計参与、監査役又は執行役
- 支配人
- 会社から特別な委任を受けた使用人
- 検査役
会社社長、代表取締役、一般の取締役や監査役などの役員、支配人など特に権限を与えられた人に成立する犯罪と理解しましょう。これらの人は特に権限が強く、任務に背く行為をしたときに会社の債権者や株主に与える損害が大きくなるので通常より厳しく処罰されます。
上記以外の一般の従業員や社員などは特別背任罪に問われることはなく、任務違背行為をした場合には通常の背任罪が成立します。 -
(4)ゴーン氏の特別背任について
今回日産のゴーン氏は、自らの役員報酬額を有価証券報告書に正確に記載しなかったことを「金融商品取引法違反」として立件されていますが、それ以外に自らの個人的な投資にもとづく損失を日産(会社)につけかえたことが「会社法違反」の「特別背任」にあたるのではないかとして、逮捕起訴されてします。
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(5)特別背任罪の捜査方法
一般の窃盗や傷害などの刑事事件では、警察が主に捜査に当たるケースが多くなっていますが、企業経営者による特別背任罪などの経済犯のケースでは、いわゆる特捜(検察庁特捜部)が担当することが多くなります。それだけ専門性を必要とする捜査だからです。特捜部は、東京地検と大阪地検、名古屋地検に特別に設置されている専門捜査を行うための部門です。
2、特別背任罪の法定刑は? 量刑を判断する際の要素は?
特別背任罪が成立すると、どの程度の刑罰を与えられるのでしょうか?
会社法960条によると、特別背任罪の刑罰は10年以下の懲役刑または1000万円以下の罰金刑です。これらが併科される可能性もあります。
参考までに一般の刑法の背任罪の場合には、5年以下の懲役または50万円以下の罰金刑となっています。
特別背任罪と一般の背任罪を比べると、特別背任罪の刑罰が非常に重くされていることがわかります。会社の事業執行について大きな権限を持っている取締役などの人が任務違背行為や自分を利する行為をすると、会社に多大な損害を与える危険性が高くなることが重視されているからです。
実際今回の日産のゴーン容疑者の事件でも、報道されている情報によると報酬虚偽記載額は50億円などという単位ですし、投資損失の付け替えについても17億円などという単位になっており、その規模や影響の大きさが見て取れます。
3、特別背任罪の共同正犯について
特別背任罪の成立については「共同正犯」も問題になりやすいです。
共同正犯とは、犯罪を共同で行うことです。教唆(そそのかし)や幇助(手伝い)ではなく、2人以上の人がそれぞれ自ら主体的に犯罪を行うと、共同正犯になります。
共同正犯が成立すると犯罪者は両方とも「主犯」となるので、従犯の減刑を受けられず主犯と同じだけの重い刑罰を科されます。
ところが特別背任罪は「株式会社の業務執行について一定に権限を持っている人」に限定される犯罪です。このように、成立する人が限定される犯罪を「身分犯」と言いますが、身分犯の場合「身分のない人が手伝うとどのような犯罪が成立するのか」が問題となります。たとえば会社の取引先と会社社長が結託して不正な契約を締結し、会社に損害を与えたら取引先には何罪が成立するのか、ということです。
身分犯の取扱いについては、刑法65条に規程があります。
刑法65条
「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」
「身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。」
つまり「身分犯に加担した人は、身分がなくても共犯(共同正犯)とする」と書かれているので、特別背任罪の身分のない取引先であっても特別背任罪で処分されることとなります。そのような趣旨の判例も出ています(最高裁平成15年2月18日、最高裁平成20年5月19日など)。
4、特別背任罪の時効は何年?
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(1)刑事時効について
特別背任罪には時効があります。今回ゴーン氏はすでに逮捕起訴されているので時効にはなっていませんが、今後別の理由で処罰するためには時効成立前に起訴する必要があります。
特別背任罪は犯罪ですので、刑事時効があります。刑事時効とは、その期間内に起訴しないともはや刑事訴追できなくなる期間制限です。
特別背任罪の場合、犯罪行為が行われてから7年が刑事時効となっています。 -
(2)民事責任の時効について
一方特別背任行為は会社に対する重大な裏切りです。取締役は会社と業務執行についての契約を締結しており、適切に業務を執行する代わりに役員報酬を受けとることとなっています。それにもかかわらず、自分や他人の利益を図ったりして会社に損害を与えるのは契約違反です。そこで会社は当該取締役や役員などに対し、債務不履行として損害賠償請求を行うことができます。
判例によると、この場合の損害賠償請求の時効には、商法の定める早期の商事時効が適用されず、一般的な民事時効が適用されると判断されています(最高裁平成20年1月28日)。
そこで会社としては、役員による違法行為後10年間は損害賠償請求できます。
また不法行為にもとづく損害賠償請求も考えられますが、その場合には基本的に不法行為があったことを知ってから3年間の時効となりますので、債務不履行を理由とした方が長く請求権を維持できるでしょう。
5、まとめ
特別背任罪は、大きな法人などで起こりやすいのでニュースで大々的に報道されるケースも多く、大事件になりやすい傾向があります。
社員や株主などが告訴告発するケースであっても、役員が疑われて被疑者被告人となるケースであっても、専門知識を持った刑事弁護人によるサポートが不可欠です。
特別背任罪は日本の法律ですが、ゴーン氏の例を見てもわかるように外国人にも適用されます。特別背任について疑問がある場合、まずは弁護士までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています