無銭飲食による罰則とは? 逮捕された場合の流れや対処法
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令和4年3月、川崎市の飲食店で中学生らの集団による「無銭飲食」事件が起きました。犯行を行った中学生らは、一度店外へと逃走を図ったものの、後日に詐欺罪の容疑で数名が逮捕されています。
当然、無銭飲食は犯罪です。しかし、飲食店で食事を済ませてから財布を忘れていることに気づいた、会計の際に所持金が足りなかったなど、思いがけず支払いができない事態が起きる場合もあります。このようなケースでも、無銭飲食になってしまうのでしょうか?
本コラムでは、無銭飲食で問われる罪や科せられる刑罰、逮捕されてしまった場合の流れや解決法について、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。
1、食い逃げをしたら詐欺罪! 無銭飲食で問われる罪
まずは、無銭飲食がどのような行為で、どんな罪に問われるのかを法的な角度から確認していきましょう。
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(1)無銭飲食とは? 一般的な考え方と法的な解釈の違い
無銭飲食とは、飲食店で料理や飲み物などを注文して商品の提供を受けたのに、その代金を支払わない行為を指します。
一般的な会話では、無銭飲食を食い逃げと呼ぶこともありますが、飲食店で「逃げる」という行為があっても犯罪が成立しないこともあれば、「逃げていない」のに犯罪が成立する場合もあります。
たとえば、無銭飲食をするつもりがなかったのに、あとから代金の持ち合わせがないことに気づいて、逃げることなく素直にその事情を伝えたとしても、店側から無銭飲食ではないかという疑いをかけられることもあるでしょう。
実際のところ、法律に照らして無銭飲食は、刑法の詐欺罪(ごくまれに窃盗罪)に該当することとなります。
無銭飲食と近い行為に万引きが存在しますが、万引きは店舗に並んでいる商品の代金を支払わないまま盗む行為であり、適用されるのは窃盗罪です。
財布を忘れてしまったなど、事情があって支払いができないようなケースでは詐欺罪が成立しない可能性が高いので、一般的な考え方と法的な解釈との間には、大きな差があるといえます。 -
(2)詐欺罪が成立する要件|無銭飲食に照らした考え方
詐欺罪といえば、振り込め詐欺をはじめとした特殊詐欺や結婚詐欺、不動産詐欺といった犯罪が想起されるでしょう。
これらは、刑法第246条1項の「人を欺いて財物を交付させた者」による犯罪行為ですが、同条2項には同じ方法で「財産上不法の利益を得た、または他人にこれを得させた者」も詐欺罪とするという規定があります。
前者を「1項詐欺」、後者を「2項詐欺」や「詐欺利得罪」と呼んで区別することもあります。
無銭飲食は、1項詐欺に該当する場合もあれば、2項詐欺に該当する場合もあるので、どのようなケースについてどの犯罪が成立するのかそれぞれ見ていきましょう。
1項詐欺も2項詐欺も、成立するために共通して必要な要件は次の3つです。- 嘘をつく「欺罔(ぎもう)」行為があること
- 欺罔を受けた相手がその嘘を信じて「錯誤」に陥ること
- 錯誤に陥った相手が自ら財産を差し出したり、代金支払いの免除など「財産上不法の利益」を得ていたりすること
飲食店で上記に当てはまることがあれば、無銭飲食という詐欺罪が成立する可能性が大いにあるといえます。
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(3)詐欺罪で科せられる刑罰と時効
詐欺罪を犯すと、10年以下の懲役が科せられます。罰金の規定がないため、有罪判決を受けると必ず懲役となるうえに、最長で10年にわたって刑務所に収監されてしまう重罪です。
刑事上の公訴時効は7年なので、お店から逃げることができても犯行から7年間は罪を問われる状態が続きます。
また、刑罰とは別に民事上の時効もあり、3年間は代金支払いなどを含めた損害賠償請求を受けるおそれもあることを覚えておきましょう。
2、これって詐欺罪? 犯罪になるケースとならないケース
刑法に定められている犯罪のなかでも、特に詐欺罪は、成立するか否かの判断が難しいものといわれています。無銭飲食を疑われるケースでも、状況次第では詐欺罪に問われないかもしれません。
ここからは、詐欺罪が成立するケースと成立しないケースを確認していきましょう。
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(1)お金がないことを注文時点で自覚していた場合
お金がまったくない、あるいは足りないことを最初から自覚していたにもかかわらず、それを隠して飲食物の注文を行い、実際に飲食した場合は、1項詐欺罪が成立します。
お店としては、本来、客にお金を払うつもりがないことをわかっていれば、飲食物を提供しなかったはずなのに、だまされて飲食物を提供してしまった、ということになります。
逆にいえば、本来得られるはずのなかった飲食物を、お店をだますことによって取得した、ということになるのです。したがって、飲食物という「財物」をだまして取得したと評価でき、1項詐欺が成立します。 -
(2)クレームなどで支払いを拒否した場合
接客態度が悪い、提供された食べ物に異物が混入していたなどの理由からクレームを申し立てたうえで、「これでは代金を支払えない」と支払いを拒否したケースでは、詐欺罪は成立しません。
当初からお金を支払うつもりがなかったわけではないため、「相手をだます」という行為が存在しないといえるからです。
ただし、クレームを申し立てたとしても必ずしも支払いが免除されるわけではないため、民事上のトラブルにつながる可能性が高いことには注意が必要です。 -
(3)食事後に所持金が足りないことに気づいた場合
食事を終えたあとに、所持金が足りなかったことに気づく場合もあるでしょう。詐欺罪が成立するのかどうかを、3つのパターンに分けて解説します。
①「あとで支払うから」などと店員に告げたものの、そのまま逃亡した
飲食をしたあとに初めて所持金が足りないことに気づいたため、実際には支払う意思がないにもかかわらず、店員に「あとで必ず支払うから」などと告げて店外に出て、その後店に戻らずに支払いをしなかった場合、2項詐欺が成立します。
このケースは、注文時点ではだます意思がないため、1項詐欺は成立しません。
しかし、最終的には店員をだまして代金の支払義務を猶予または免除させることになるため、犯人は代金の支払いを免れるという「財産上不法の利益を得る」こととなり、2項詐欺が成立するのです。
② 所持金が足りず「すぐに支払う」と告げて後日支払いをした
所持金が足りず「家に財布を忘れたので取りに帰ってすぐに支払う」などと告げたあとで、約束を破ってその日は支払いをせず、後日支払いをした場合も2項詐欺罪が成立します。
結果的に支払いをしても、「すぐに支払う」という嘘をついて、その場の代金支払いを免れて店外へ出る、すなわち支払いの猶予を得るという「不法の利益」を得ているからです。
もちろん、後日だったとしても「来週の○日に支払う」といった期日の約束があり、その期日を守れば、時間がたっても詐欺罪は成立しません。
また、支払いを約束した時点では約束を守るつもりだったにもかかわらず、家に財布を取りに帰る途中で交通事故に遭いそのまま入院してしまったなど、何らかの不可抗力によって約束を守れなかっただけの場合も、故意がないため、やはり詐欺罪の成立は否定されます。
③ 何も言わずに逃亡した
店員に何も告げず逃亡するようなケースでも、①や②の場合と同様に、1項詐欺は成立しません。
代金の支払いを免れているという結果は同じですが、そのために店員をだますという行為はしていいません。店員も、代金の支払いを免除したり、猶予したりするという意思表示を行っているわけではありません。
そうすると、2項詐欺も成立しないことから、無罪ということになります。
日本の刑法では、「財物」をこっそり奪う行為は刑法235条に則り窃盗罪として処罰されますが、「利益」をこっそり奪う行為は処罰する規定が存在しないのです。
「所持金が足りないことにいつ気が付いたのか」という点の証拠次第で、実際に処罰されるか否かは変わってきます。自分がいくら「飲食のあとに気づいた」と主張しても、証拠次第では、その主張が認められない可能性があることに注意が必要です。
3、無銭飲食するとどうなる? 逮捕されるケースとされないケース
冒頭で紹介した事例のように、無銭飲食をはたらくと警察に逮捕されるおそれがあります。無銭飲食が発覚したら、必ず逮捕されるのでしょうか。
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(1)悪質なケースでは現行犯逮捕される可能性が高い
被害額が大きい、過去にも同じ店で同様の行為をしていたなどのように悪質性が高いケースでは、通報により駆けつけた警察官によって逮捕される可能性が高いでしょう。
また、店員が素性を尋ねているのに名前や住所、連絡先などを素直に言わない、定まった住居がない状態であるといった場合も、逃亡のおそれや出頭が確保できないといった点から逮捕の可能性があります。 -
(2)逃亡した場合も後日逮捕の危険が高い
嘘をついて代金支払いを免れ、その場を切り抜けた場合は、犯罪のそのとき・その場から離れるので現行犯での逮捕はされません。ただし、店舗関係者や目撃者からの供述、防犯カメラの映像、車のナンバーなどの情報から容疑者として特定されれば、逮捕状にもとづいて、後日に通常逮捕される事態も考えられます。
特に「財布を取りに帰ってすぐに支払う」などの嘘をついて逃げた場合は、逮捕状が発付される要件である「逃亡または証拠隠滅を図るおそれ」を満たすので、通常逮捕される可能性があるといえるでしょう。 -
(3)素直に罪を認めて謝罪すれば在宅事件になることもある
無銭飲食をしたことが事実でも、被害額が少額で素直に罪を認めて謝罪している、定まった住居があり家族などがすぐに代金を支払ったといった事情があれば、逮捕されず在宅事件として処理される可能性が高まります。
法務省が公開する「令和3年版 犯罪白書」によると、令和2年中に全国の検察庁で詐欺罪として処理された1万3364件(逮捕関係)のうち、5913件は逮捕されない在宅事件でした。
このことから、詐欺事件のおよそ半数弱は「逮捕されない」という状況がわかります。
在宅事件になった場合は、必要の都度、警察や検察官から呼び出されて取り調べを受けなければなりません。しかし、捜査中でも身柄拘束を受けないため、家庭・仕事・学校といった日常生活から隔離される事態を回避できるという点では、有利な扱いだといえるでしょう。 -
(4)逮捕されると最大23日間の身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内、合計で最長72時間にわたる身柄拘束を受けます。自由な行動の一切が制限されるので、自宅へ帰ることも、会社や学校へ行くことも、家族や友人に連絡することも許されません。
さらに検察官が勾留を請求して裁判官が許可すると、釈放されないまま10日間の身柄拘束を受けます。勾留が決まると容疑者の身柄は警察に戻され、検察官の指揮のもとで警察が捜査を進めていきますが、10日間で捜査が遂げられなかった場合は、さらに10日間以内の延長ができることになっています。
つまり、勾留の限界は最長20日間です。
逮捕から勾留満期までの日数は最大23日間なので、1か月弱という長期間、社会からの隔離が続きます。
さらに検察官が起訴に踏み切ると、容疑者は被告人として刑事裁判を待つ身となります。この段階からは一時的な身柄釈放を求める保釈の請求が可能ですが、保釈が認められなかった場合は実質無期限で刑事裁判が終わるまで釈放されない状態が続くので、社会生活への影響は計りしれません。
刑事裁判では、裁判官が証拠をもとに審理を進めて、最終回の日に判決を下します。
わが国の制度では、起訴に先立って検察官が証拠の精査を徹底しているので、起訴された事件のほとんどに有罪判決が言い渡されているのが実情です。
4、無銭飲食に関するトラブルは弁護士に相談を!
最初から代金を支払うつもりがなかった場合はもちろん、何らかの事情があって代金を支払えなかっただけなのに無銭飲食の疑いをかけられてお困りのときには、直ちに弁護士に相談しましょう。
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(1)被害者との示談交渉による解決が期待できる
詐欺罪は「財産犯」と呼ばれる種類の犯罪です。
無銭飲食の場合は支払いを免れた代金に相当する金額が被害額になるので、代金を支払えば被害者の実損は補填されたことになります。
当然、代金さえ支払えば罪に問われないわけではありませんが、よほど悪質なケースでない限り、被害者が最優先と考えるのは代金支払いを含めた賠償でしょう。
つまり、被害者となった店舗に対して真摯に謝罪したうえで飲食代の支払いなどの賠償を尽くせば、被害届や刑事告訴の取り下げが期待できます。
ただし、無銭飲食が発覚した直後は店舗側が強く憤っているケースが多く、加害者本人や家族が示談交渉を申し入れても相手にしてもらえないといった事態もめずらしくありません。
円滑な示談交渉を進めるには、公平中立な第三者である弁護士に対応を一任するのが最善です。 -
(2)処分の軽減を目指した弁護活動が期待できる
無銭飲食は詐欺罪にあたる行為です。
詐欺罪は最長10年の懲役が科せられる重罪なので、無銭飲食を犯したことが事実なら、できる限り処分が軽減されるための対策を尽くす必要があります。
被害者への謝罪・弁済はもちろんですが、ほかにも家族による監督強化を誓約する、就職によって経済的な安定を目指すなどの対策があれば、検察官が刑事裁判を見送って不起訴処分とする、刑事裁判の判決に執行猶予がつくといった有利な処分が期待できるでしょう。
5、まとめ
無銭飲食はあまり悪質な犯罪には聞こえないかもしれませんが、法律に照らすと、刑法の詐欺罪にあたる重罪です。「最初から所持金もなく、代金を支払うつもりがなかった」「何度も繰り返し行っている」などという悪質なケースでは、警察に逮捕されてしまう可能性もゼロではありません。
とはいえ、所持金が足りなかった、財布を自宅に忘れてしまったなど、無銭飲食を疑われてしまう状況が起きてしまうこともあるでしょう。
実際に無銭飲食を犯してしまった場合はもちろん、だますつもりなどなかったのに疑いをかけられてしまったなどのトラブルに発展した場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。
無銭飲食に関するトラブルでお悩みのときは、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスまでご相談ください。詐欺事件を含めた刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決を目指して全力でサポートします。
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