代表取締役が自己破産すると、会社も自己破産させなければいけない?

2019年03月05日
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代表取締役が自己破産すると、会社も自己破産させなければいけない?

会社経営をしていると事業の運転資金などのために借入をして、社長個人の借金が膨れあがってしまうケースが多々あります。
そのようなとき、経営者個人だけが自己破産して会社倒産を避けることはできるのでしょうか?
また会社の代表者が破産した場合、再度代表取締役に就任できるのか、社長個人にどういった法的責任が発生するのかなど押さえておきましょう。
今回は会社経営者の自己破産に伴う問題について、弁護士が詳しく説明いたします。

1、代表取締役個人のみの自己破産は可能?

そもそも会社の代表取締役のみが自己破産し、会社自身は破産させずに存続させるなどということが可能なのでしょうか?

  1. (1)代表取締役のみが破産できる

    法律上、法人と個人(代表取締役)が同時に自己破産手続きをしなければならないというルールはありません。なぜなら法人と代表者は別人格だからです。会社経営者や会社役員のみ破産することは可能ですし、その逆(会社のみが破産する)もできます。代表取締役が破産した場合、失われるのは社長の家などの個人資産のみであり、会社名義の資産は維持できることになりそうです。

    会社の負債についても同じであり、代表取締役が会社債務の連帯保証人となって個人保証している場合、代表者の自己破産によって保証債務はなくなります。しかし会社の負債そのものは残るので、会社は返済を継続せねばなりません。

  2. (2)実際には会社も破産するケースが多い

    しかし、実際には、会社だけを存続させて、代表者のみ破産するということは不可能です。
    会社代表者が会社に対して貸付をしている場合には、貸付金が代表者の資産としての「債権」となるので、代表者の破産管財人が会社に対して貸付金の請求をします。未払いの役員報酬があるケースでも同様です。このように貸付金や未払金が多額になっている場合、会社が支払えなければ破産せざるを得なくなる可能性があります。

    また会社の代表取締役が破産すると会社との委任契約の効果が失われるので、会社には代表者がいない状態となってしまいます。会社が負債を抱えている場合には代表者がいない状態になると清算手続きを進められず不都合があるため、裁判所としても会社代表者に対し「会社も同時に破産してはどうか?」と促します。

    今は多くの裁判所で「少額管財」という簡易な自己破産手続きの制度運用が行われています。少額管財を利用すると、会社と代表者の自己破産の事件をセットで扱ってくれて、予納金も「まとめて20万円」などで済みます(一般管財の場合、それぞれについて50万円や100万円以上かかるケースもあります)。このように代表者と会社がセットで破産すると、簡易でコストもかからないのでメリットが大きくなっています。

    以上のような事情があるので特に個人事業に近い中小企業などの場合、現実的には「代表者だけを自己破産させる」ケースは少なく、たいてい会社とセットで破産しています。また、裁判所も、運用として、代表者と会社の両方を破産申立てさせなければ、申立てを受理してくれません。

    ただし会社には負債がなく、代表者が完全な個人債務による支払いに苦しんでいる場合などには、会社には破産の要件がありません。そういった特殊なケースの場合、代表者のみが破産する事例も考えられます。

2、代表取締役が破産になった後、再び代表取締役になることは可能?

もしも会社を破産させずに代表取締役のみが破産したら、その後代表取締役の職務を継続できるのでしょうか?

まず代表取締役が自己破産すると、会社と代表取締役との間の委任契約が終了します。破産は委任契約の終了事由となっているからです。その後の取扱いについて、従前の商法では自己破産の最中は会社役員になることができなくなっていましたが、平成18年に新たな会社法が施行されたことにより、制限がなくなりました。
そこで現在では、いったん自己破産で委任契約が終了してもすぐに再度同じ人を代表取締役として選任できるようになっています。

つまり会社の代表取締役が自己破産申立てをした場合、いったんは代表取締役を退任しなければなりませんが、破産手続き開始決定後に再度選任されればまた元通り代表取締役としての地位に戻れるということです。
この方法を使えば、代表取締役の借金や保証債務などの個人名義の負債だけを消して会社はそのまま残し、代表者も会社に残って事業を継続できることになります。会社に負債がなく代表取締役の個人的な負債のみがある場合などには検討価値がある方法です。

3、会社が破産した場合、代表取締役の法的責任は?

  1. (1)会社が破産しただけでは法的責任が発生しない

    そうはいっても現実には、会社の代表取締役が自己破産するとき会社も一緒に破産することが多いです。その際、代表取締役にはどのような法的責任が発生するのでしょうか??

    まず代表取締役は会社との間で「委任契約」を締結しており、適切に経営判断を行って業務執行を進めるべき義務を負っています。会社を破産させたということは経営に失敗したということですから、委任契約違反になるようにも思えます。
    ただ、経営にはいろいろと難しい判断も要求されますし時世の流れや経済情勢などの役員自身にはコントロールできない事情にも左右されます。そこで「単に経営に失敗した」というだけでは代表取締役や役員個人の責任を問われることはありません。

  2. (2)会社に対する責任が発生するケース

    ただし、ケースによっては会社に対する損害賠償義務が発生する可能性があります。代表取締役を含む会社の取締役は、会社に対して「忠実義務」「善管注意義務」という法的義務を負っているからです。これらの義務に反して会社に損害を与えると、その取締役は会社に損害賠償をしなければなりません。

    忠実義務、善管注意義務違反となるのは、たとえば代表取締役がその地位を利用し自分の家族や親族に会社のお金を不当に貸し付けたり会社資産を与えたりしたケース、会社のお金を私的に使い込んでしまったり違法行為をして損害を与えたりしたようなケースです。

    代表取締役にこうした行為があったことが明らかになると、会社の破産管財人が元の代表取締役や役員に対して損害賠償請求を行い、損害賠償金は会社の各債権者への配当にまわされます。

  3. (3)会社の債権者に対する責任について

    会社が破産すれと金融機関や取引先などの債権者は、会社から債権を回収できなくなってしまうので損害を受けます。そのような事態になったのは、代表取締役の経営判断に問題があったからですから代表者に損害賠償請求できるとも思えます。
    ただ前述のように経営判断には裁量が認められるので、必ずしも損害賠償債務が発生するわけではありません。また代表取締役は株主や会社とは委任関係がありますが、債権者などの第三者との間では直接の委任関係はありません。

    代表取締役や会社役員が債権者に損害賠償責任を負うのは、取締役の職務執行上「悪意」や「重大な過失」があった場合に限られます。通常一般の不注意(過失)があった程度では損害賠償責任が発生しません。
    たとえば代表取締役が経営を進める際、このまま進めると会社が倒産することが明らかなのにあえて問題のある施策を進めた場合や明らかに過大な設備投資をした場合、回収可能な債権回収をあえてしなかった場合などには第三者への損害賠償義務が発生する可能性があります。

  4. (4)破産手続き上の違法行為について

    会社が破産するとき、代表者が会社の資産を隠すと会社の破産管財人からその行為を否認されて、財産の返還を請求される可能性が高くなります。
    財産隠匿などの行為が悪質な場合には「詐欺破産罪」を始めとした破産犯罪が成立し、刑事的な責任を追及されるケースもあります。

4、まとめ

零細な個人経営、中小企業の法人・会社の社長が債務整理をするときには、会社と社長個人の両方について債務整理手続きを検討する必要があります。
会社代表者のみが借金を整理するとき、自己破産を避けて個人再生を利用できるケースもあります。弁護士であれば、御社の状況に応じて適切なアドバイスを行うことが可能です。債務整理でどういった手続きをとれば良いか不安な場合や迷いがある場合、一度弁護士に相談してみて下さい。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています