残業代請求は裁判で行うもの? 裁判になった場合に知っておくべきこと

2019年04月23日
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残業代請求は裁判で行うもの? 裁判になった場合に知っておくべきこと

川崎市は政府が推し進める働き方改革を受けて、公務員の残業時間の削減の取り組みを進めています。午前11時半と午後4時50分に定時退庁日を知らせる放送を流した上で、定時を過ぎると所定の時間に庁内の電気が一斉に消灯されるというのです。

もちろん手動で電気をつけることはできます。残業を強いられている方であれば「会社が帰ってくれ」と言ってくれるなんて羨ましいと思うかもしれません。しかも、残業時間を減らすどころか、残業代を支払わない会社もいまだに多数存在します。

そこで、今回は残業代を裁判で請求しようと考えている方のために、残業代の請求方法や裁判での残業代請求のメリット・デメリットを、ベリーベスト法律事務所・川崎オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代を請求するためには裁判が必要?

残業代請求は、裁判を起こさなくても請求することができます。裁判は残業代請求方法の1つにすぎないのです。
裁判以外にも様々な残業代請求方法があります。それぞれの方法を検討した上で、最適な請求方法を選択しましょう。

2、残業代を請求する5つの方法

残業代の請求方法は大きく分けると以下の5つになります。それぞれの請求方法を解説しますので、あなたの状態に適した請求方法を選びましょう。

  1. (1)直接請求

    まずは、会社に残業代を直接請求する方法です。電話やメール、人事担当者や上司との面談などの方法で請求します。ただし、すでに会社を辞めている場合は、直接請求は行わず、次項の内容証明からスタートしてもよいでしょう。

    働きながら請求する場合は、最初に直接請求した上で、支払ってもらえる見込みがなければ次のステップに移行することになります。

  2. (2)内容証明郵便で請求

    直接請求しても支払う余地がなさそうな場合、すでに退職している場合は、内容証明郵便を用いて残業代を請求します。

    内容証明郵便には残業代の総額や支払い期日、振込先などを明記しておきましょう。受け取っていないなどの言い訳を防ぐためにも、残業代請求を行う内容証明郵便には、配達証明を付けることをおすすめします。

    ただし、残業代を直接請求して支払わない会社であれば、内容証明郵便を用いた請求にも応じない可能性は高いと考えられます。それでも内容証明を送付することで、時効のカウントダウンを停止することができるため、必ず送っておきましょう。

    残業代の請求時効は2年です。請求しないでおくと毎日時効が完成してしまい過去の残業代が消滅してしまいます。つまり、受け取れるはずの残業代が失われてしまうのです。

    内容証明郵便を送付することで、時効の完成を6ヶ月間阻止することができます。さらに内容証明郵便を送付してから6ヶ月以内に裁判を起こせば、時効はカウントダウンされません。

    裁判を見据えて残業代請求をするのであれば、内容証明は欠かせないステップです。

  3. (3)労働基準監督署へ申告

    内容証明を請求しても反応がなければ、労働基準監督署に申告しましょう。内容証明の送付と同時でも構いません。

    労働基準監督署は労働基準法をはじめとする労働関連法を、企業が遵守しているかどうかを監視する機関です。残業代を従業員に支払うことは、労働基準法に明記されていますので、残業代未払いは違法状態であるといえます。そこで労働基準監督署は、詳しく調査した上で企業に指導や是正勧告を行います。

    残業代請求についても、あなたの言い分を聞いた上で「仲介」をしてくれます。ただし、労働基準監督署は、労働者の代理人となって交渉するわけではありません。また、指導などに法的拘束力はないので、会社に残業代の支払いを強制することはできないため、無視をする企業もあります。

    確実に残業代を請求したいのであれば、労働基準監督署とともに弁護士に相談することをおすすめします。

  4. (4)労働審判

    内容証明や労働基準監督署への申告、弁護士による交渉を行っても残業代を支払わない場合は「労働審判」を行います。

    労働審判は原則として3回以内に審理が完了するスピーディーな手続きです。労働審判は、「審理」という裁判官や労働審判員、双方の弁護士と当事者が参加して話し合う場を経て、「調停」が成立しなければ、解決案が提示されます。

    解決案に双方が納得すれば一件落着です。解決しない場合は訴訟に移行します。労働審判は、3回という短い回数で行われますので、証拠をあらかじめ準備して的確に主張していかなければなりません。

    個人でも行うことはできますが、弁護士に依頼して対応してもらったほうがあなたの主張がしっかりと伝わるでしょう。

  5. (5)裁判

    裁判には通常の訴訟と、少額訴訟の2種類があります。少額訴訟は1回で完了するので手軽ですが、少額訴訟で請求できる上限金額が60万円までと定められています。長期にわたる未払いの残業代を請求する際には不向きかもしれません。

    訴訟は申し立てるだけでも非常に複雑な手続きが求められます。用意しなければならない書類も多い上に、訴訟を提起した場合は、会社側は確実に弁護士を依頼するでしょう。したがって、あなた個人では太刀打ちできず、泣き寝入りするしかないという状況になりかねません。訴訟を行うのであれば、弁護士に交渉を一任しましょう。

    裁判では、証拠が重要視され、証拠の強さによって認められる残業代が上下する可能性もあります。ただ、弱い証拠しかないからといって、全額認められないということはありません。裁判は非常に時間がかかりますが、判決には強制力があります。証拠さえあれば残業代を受け取れる可能性が高いでしょう。

3、裁判で残業代を請求するメリットとデメリット

  1. (1)裁判では付加金と遅延損害金を請求できる

    裁判で残業代を請求する最大のメリットは「付加金」と「遅延損害金」を請求できるようになる点です。

    「付加金」とは、残業代を支払わなかったことに対するペナルティです。残業代と同額を請求できますが、法定労働時間内の残業の場合は請求できません。法定労働時間は8時間ですが、企業によっては所定労働時間が6時間や7時間と定められていることもあるでしょう。その場合は8時間未満の残業代には付加金を請求することはできないということです。

    たとえば法定外労働時間の未払い残業代が100万円あった場合は、未払い残業代100万円と付加金100万円の合計200万円を請求することが可能となります。

    付加金に加え、年利6%の「遅延損害金」も請求することができます。さらには付加金にも、判決が出た日から年利5%の遅延損害金が加算されていきます。つまり、裁判にするだけで、受け取ることができる残業代が2倍以上になる可能性があるといえるでしょう。

  2. (2)請求が認められやすい

    裁判で残業代を請求するもう1つのメリットは「請求が認められやすいこと」です。労働基準法は、会社側に残業代の支払いを求めていますので、支払わないのは違法な状態ということにほかなりません。

    そのため、残業時間を証明する証拠が弱いという理由だけで、請求を全面却下することは少ない傾向にあります。ただし、裁判にかける時間や手間、訴訟費用などを考えればできる限り多く証拠を集めたほうがよいと考えられます。

  3. (3)判決に強制力がある

    裁判の判決には強制力があります。判決の内容に従わず残業代を支払わなければ、強制執行をして会社の預貯金や土地などを差し押さえることができる点も大きなメリットです。

    裁判で残業代を請求するメリットは多々ありますが、最大のデメリットがあります。それは「時間がかかること」です。判決が出るまでに2年ほど時間がかかることもありますので、すぐに残業代を受け取りたいと考えている方にとっては最適とは言えない方法です。また、法的知識や書類作成などの手間がかかる点もデメリットとなるでしょう。

    時間がかかってもよいので、きっちり請求したい方は、残業代請求に対応した経験が豊富な弁護士を依頼し、裁判を見据えて交渉してもらうことをおすすめします。

4、裁判で残業代請求を認められやすくするためには証拠が必須

裁判で残業代請求を認められやすくするためには、十分な証拠が必要不可欠です。残業時間を証明する証拠で、確実なものはタイムカードなどの会社が公式に出退勤を管理しているものです。

それ以外にも、証拠となるものは多数ありますが、証拠がしっかりしていれば会社側の反論を跳ね返しやすくなります。裁判ではあなたの弁護士が証拠をもとに残業をしていたことを証明し、残業代を請求することが正当であると主張します。対して、会社側の弁護士は、証拠の弱い部分を突いてきます。

例えば、IC系交通カードを残業時間の証拠として提出した場合は、「会社から直接駅に向かわずに食事をしていた可能性もある」などと反論します。証拠が強ければ、このような反論の余地を与えません。ただ、弱い証拠だからといって全額拒否されることは少ないですし、経験豊富な弁護士に依頼することで弱さを補強することも可能です。

つまり、証拠の強さだけでなく、経験と実績がある弁護士に依頼することも残業代請求を成功するための必要条件と考えられるでしょう。

5、まとめ

残業代は「必ず裁判で請求しなければならない」というものではありません。裁判以外にも、内容証明や労働基準監督署への申告、審判などさまざまな方法があります。まずは直接交渉するところからスタートし、請求が認めなければ次のステップに進むという形がよいでしょう。

初期の段階から労働問題に関する知見が豊富な弁護士に相談をして、証拠集めの方法や交渉のポイントなどのアドバイスをもらえればベストです。もちろん全交渉の代行を依頼することもできます。ひとりで抱え込まず、ベリーベスト法律事務所・川崎オフィスへ、まずはお気軽に相談してください。親身になって、あなたの状況に最適な証拠の集め方、交渉の進め方をアドバイスいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています