未払いの残業代を請求したいなら知っておくべき残業代請求の基礎知識と方法
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政府の働き方改革が進む中、各団体で残業を減らす取り組みがなされていることを、ニュースや新聞報道で見聞きしたことがあるでしょう。たとえば川崎市では職員の午後8時以降の残業を原則禁止しており、ノー残業デーの徹底や一斉消灯などの工夫によって、長時間労働の削減を促しています。
一方で、こうした取り組みの実施は一部の自治体や企業に限られており、いまだに「サービス残業」や「残業代の未払い」が横行しているケースが少なくありません。ご自身の勤め先で残業代が発生しているはずなのに未払いになっており、お困りの方は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、残業代請求における基本的な知識と請求方法について、川崎オフィスの弁護士が解説します。
1、残業代の基本的な知識
労働基準法の大原則として、1日8時間、1週40時間を超える労働は禁じられています。(特例措置事業場においては1日8時間、1週44時間まで)
これが「法定労働時間」です。まずは、この法定労働時間と残業代の関係など、基本事項を知る必要があるでしょう。
大前提として、使用者は法定労働時間を超えた時間労働させる場合、労使協定の締結、届け出をしたうえで、2割5分以上の割増分を含めた賃金を支払わなければなりません。さらには1ヶ月60時間を超える時間外労働については、適用猶予期間中の中小企業を除き、5割以上の割増分を含めた賃金を支払う必要があります。また、午後10時〜午前5時までの深夜労働および休日労働に関しても、使用者にはそれぞれに割増賃金の支払い義務があります
一般的には、これらを総称して「残業代」と呼ばれています。
残業代の請求を行うときは、会社に対して実際に行動を起こす前に、ご自身の雇用契約、就業規則などの内容を確認します。そのうえで、実際の状態を照らし合わせ、請求可能かどうかを判断する必要があるでしょう。
なお、残業代請求の時効は2年ですが、時効が中断されるケースや、残業代ではなく損害賠償として請求し、認められるケースもあります。
2、残業代の請求ができないケース
法定労働時間を超えているにもかかわらず未払いとなっている残業代については、基本的に請求が可能です。しかし、一定の条件において残業代の請求ができないケースがあります。ここでは、主に問題となるケースを紹介します。
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(1)労働基準法の管理監督者に該当する
労働基準法では、「管理監督者」について、労働時間、休憩、休日の制限を受けないと定められています。職務内容、責任と権限、勤務様態、待遇などを総合的に勘案し、管理監督者に該当すると認められた場合には、残業代(深夜割増は除く)の請求はできません。
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(2)みなし労働時間制が採用されている
実際の労働時間にかかわらず、ある一定の時間を労働したものとみなす制度です。労働基準法では次のふたつの制度があり、みなし時間の範囲内において残業代の請求ができません。
●事業場外みなし労働時間制
全部または一部の時間を事業場外で業務に従事することで、労働時間の算定が困難である場合に、所定労働時間働いたものとみなす制度です。たとえば、1日の多くを外回りに費やす営業職や、雇用されながら完全在宅ワークに従事している場合などが該当します。
●裁量労働制
業務の性質上、業務の遂行方法や手段、時間配分などについて労働者の裁量に委ねる必要がある場合に、あらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。専門業務型と企画業務型があり、前者には労使協定の締結が、後者には労使委員会の決議がそれぞれ必要です。 -
(3)変形労働時間制が採用されている
一定期間を平均し、1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲で、特定の日、期間について法定労働時間を超えて労働することができる制度です。
日や季節における繁閑の差があるなど、1日および1週間単位で一律的に時間管理をすることになじまない場合に採用されます。1週間、1ヶ月、1年単位において行われるほか、フレックスタイム制度も含まれます。しかし、変形労働時間制が採用されていても、1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えるときは、使用者は残業代を支払わなければなりません。 -
(4)固定給に残業代が含まれている
いわゆる固定残業代とは、あらかじめ一定の時間残業することが想定される場合に、固定給に残業代を含めたうえで支給する方法です。みなし残業や年俸制など、呼び名は何であれ、同じような制度を導入している企業は多くあります。雇用契約にもとづき、固定給に含まれた残業代については請求することができません。
ただし、実際の労働時間が想定残業時間を超えた場合には、その分の残業代は支払われなければなりません。固定給に何時間分の残業代が含まれているのかを確認する必要があります。 -
(5)あきらめる前に確認を!
ここまで紹介した制度は、採用にあたり厳格な条件が定められており、実態に即した運用が求められるものです。
しかし、使用者が制度を悪用あるいは誤解し、残業代が支払われていないケースが散見されます。実際のところ、制度の条件を適切に満たしたうえで採用しているケースはそう多くありません。そもそも適用条件に該当しないことを争ったうえで未払い残業代を請求することがあると知っておきましょう。自分が実際に残業代を請求できるかどうかがわからないときは、自己判断せず、弁護士に雇用契約書やタイムカードなどを見せて、相談してみることをおすすめします。
3、残業代請求に必要な証拠の種類
残業代の請求は、残業代が支払われていない事実と、その証拠が必要です。証拠がない状態では請求が難しくなります。具体的には、次のような証拠があるとよいでしょう。
●勤怠情報
タイムカード、出勤簿、業務日誌のコピーなどです。あわせて同月の給与明細を提示し、未払いであることを主張します。ただし、そもそも未払い残業代が発生しているような企業です。こうした勤怠情報は操作されているおそれもあるでしょう。
●勤務実態を示す記録
ICカード型定期の通過履歴、タクシーの領収書などがあれば、帰宅時間を推測できます。パソコンのログ、パソコンからメール送信した際の記録、社内の時計を撮影したものなども、その時間まで社内にいたことの証明となるでしょう。
●労働条件を示す資料
雇用契約書、就業規則、シフト表などです。どのような契約、規則で働いているのかを示す基本資料となります。
●そのほか
残業をするように指示を受けたLINE、メール、残業指示書などがあれば、上司の指示のもと残業させられたことの証拠となります。勤務実態や時間を示した日記なども、整理されたものであれば証拠能力を有することがあります。
4、未払い残業代を請求する方法は?
証拠がそろったら企業に対して実際に請求をしていきます。具体的にどのような方法があるのかを確認しましょう。
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(1)企業に直接交渉する
要求内容や未払い残業代の金額、回答期限などを具体的に明記した文書を提示し、交渉を開始します。使用者から何の反応もなかった場合には、配達証明を付けた内容証明郵便にて送付します。
直接交渉はすぐに取り掛かることができ、費用もかかりません。しかし、職場にいづらくなるなどのデメリットがあります。穏便かつ早期解決のためには、この時点で交渉力のある弁護士を介入させることが有効です。 -
(2)労働基準監督署へ相談する
証拠をもとに労基署へ相談することも方法のひとつです。未払いが認められれば企業への指導、勧告を行ってくれます。
強制力をもたない点がデメリットではありますが、企業としては労基署が介入することで問題が大きくなるリスクがあります。指導・勧告が入った時点で応じることが少なくありませんので、相談する価値はあるでしょう。 -
(3)労働審判
未払い残業代請求については、本格的な訴訟を提起する前に、労働審判を利用することが一般的です。原則3回以内の審理で行われ、裁判官と労働審判員が間に入って紛争解決を目指すため、自分一人で交渉するよりも安心感があります。非公開によってプライバシーが守られる点もメリットでしょう。
ただし、審理の回数が少ない分、念入りな準備や証拠が必要です。この段階になるときは弁護士に依頼することをおすすめします。 -
(4)訴訟
審判でも解決しないときは、最終的には訴訟を提起します。長期化しやすく、公開で行われる点がデメリットと思うかもしれません。しかし、勝訴すれば未払いの残業代だけでなく、付加金や遅延損害金も併せて請求可能です。
一般の方が単独で訴訟を提起することは難しい面がありますので、弁護士への依頼が必要不可欠といえます。
5、まとめ
今回は、未払いの残業代請求について、残業代を請求できる基本的なケースと例外、請求方法を紹介しました。
未払いの残業代請求は、在籍中の身であること、相手が組織であることなどを理由にためらう方が多くいらっしゃいます。しかし、働いた分の賃金を得ることは労働者の正当な権利です。しかも、時効があるため、悩んでいる間に請求ができなくなってしまうこともあります。弁護士のサポートによって穏便な解決に期待できますので、一度相談されるとよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士も尽力します。未払いの残業代を請求したいと考えているときは、できるだけ早めにご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています