ボーナスに残業代が含まれるというのは違法? 未払いの残業代を請求する方法
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2018年9月、埼玉県の公立小学校教諭が、所定労働時間を超える長時間の残業が常態化しているのに残業代が支払われないのは不合理とし、県に240万円を請求する訴訟を提起しました。残業代未払いに対する労働者や社会の目は日増しに厳しくなってきているのが現状である中、残業代について会社から、「ボーナスで支払う」などと言われて疑問を持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。残業代とボーナスはそもそも性質上異なるものであり、厚生年金保険料などのようにボーナスから差し引いたり、相殺したりできるものではありません。
ここでは、ボーナスと残業代の法的な位置づけや、ボーナスに残業代が含まれるとされている場合の未払いの残業代請求について、川崎オフィスの弁護士が解説します。
1、ボーナスの中に未払いの残業代が含まれるのは違法!
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(1)賞与とは
労働基準法第11条において、賞与は、給与その他の手当同様に「賃金」と定められていますが、その性質上、給与その他手当とは取り扱いが異なるものです。たとえば、労働契約法第9条は、労働者との合意なく労働条件を不利益に変更することはできないと定めており、これにより使用者が一方的に給料を減額することはできません。一方、賞与については、判例も「企業の営業実績や労働者の能率など諸般の事情により支給の有無およびその額が変動する性質のものである」としていて、次の2点で企業にある程度金額算定についての裁量が認められます。
- ①賞与を、会社の業績によって、不支給とするまたは支給額を減らすこと。
- ②賞与を、社員の勤務実績(評価)に応じて、不支給とするまたは支給額を減らすこと。
なお、賞与に会社の裁量が認められるとしても、例外もあります。就業規則や雇用契約書において、賞与は「基本給の●ヶ月分」や、「売り上げの●パーセント」などというように、賞与の計算方法を約束している企業は、最低限その約束した金額は支給する必要があります。
また、企業に裁量が認められている賞与の査定ですが、企業が完全に自由に賞与を決めることができるわけではなく、企業が決めた賞与について裁判所で不当査定と判断されて損害賠償義務が発生するケースもあります。不当査定とされる場合は、特定の従業員について、他の従業員よりも特に低い査定をしているにもかかわらず、査定の理由を合理的に説明できないケースなどがあります。 -
(2)ボーナスの中に未払いの残業代が含まれるのは違法!
企業が賞与額の決定について裁量を認められているとしても、それはあくまで上記2つの理由によるボーナス(賞与)の算定についてです。従って、未払いとなっている残業代とボーナスを相殺するとことはできず、ボーナスに残業代を含める行為は実質的にボーナスを減らすことにつながり違法です。この場合、ボーナスとは別に残業代を請求することができます。
また、ボーナスとは別に正当に算出した残業代の支払時期をボーナス月にする、ということも原則認められず、仮に残業代をまとめて支払う場合は、後払いについて遅延損害金や遅延利息が発生します。というのも、労働基準法第24条は、賃金を毎月1回以上一定の期日を定めて支払うべきと定めており、毎月発生する基本給だけでなく、残業代、休日手当、深夜・早朝手当も、月に最低1回必ず支払われなければならないためです。このルールは、年俸制にも適用され、年俸も月払いで支払う必要があります。
2、残業を理由にボーナスを減らされるのは?
ボーナスをどのように支払うのかについては、法律上の取り決めはなく、各社の就業規則などに定められるのが通常です(会社によっては雇用契約の場合もあります)。従って、ボーナスについては、就業規則に書かれた条件に従って支払われているかを確認する必要があります。すでにご紹介したとおり、ボーナスの査定には会社側に裁量が認められ、従業員の勤務実績に応じてボーナスを減らすことも可能ではありますが、残業をしたことのみをもってその分を減額できるとすれば、残業代を法で定めている意味がなくなりますので、そのような取り扱いは認められないと言ってよいでしょう。
3、残業代を請求する際の相談先は?
残業代の未払いがある場合の相談先として、次のような相談先があります。
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(1)法律事務所
弁護士事務所へ相談することのメリットは、残業代請求ができるかどうかの可能性の見極めや回収額の予測から、会社との交渉に向けて必要な準備、会社との交渉、和解手続き、和解できないときの訴訟対応まで、幅広く依頼できるところです。
一度弁護士に相談して必要な証拠等を準備しておくことにより、その後会社との交渉がどのような展開になったとしても、柔軟な対応ができます。また、残業代請求を含め労働問題に関しては、会社の経営者や人事部は問題に精通していることが多いため、労働者側が対等に交渉するためにも弁護士に依頼することには意味があります。
一方、相談する弁護士については、労働事件には高度な専門性が必要になる観点から、労働問題を数多く扱っている弁護士に依頼することをおすすめします。初回相談は無料としている事務所も多いため、まずは気軽に相談してみるとよいでしょう。 -
(2)労働基準監督署
労働基準監督署とは、労働基準法その他の関連する法令に基づき、事業場に対する監督や労災保険の給付などを行う厚生労働省の機関です。労働基準監督署は、事業場に関連法令違反がある場合に対応する機関ということになります。従って、労働基準監督署に相談し、残業代の未払いという労働基準法違反があれば、指導・是正勧告などが出されます。指導・是正勧告の効果として、会社が自主的に未払いの残業代を支給することもあります。ただし、労働基準監督署の指導・是正勧告に会社への強制力はなく、また、労働基準監督署は弁護士のように労働者に代わって積極的に残業代を回収することまでしてくれるわけではない点は注意が必要です。
4、残業代が正当に支払われない場合の対処方法
残業代請求の進め方として、まずはご自身が会社との話し合いによる解決を目指したところ、会社に相手にしてもらえず交渉に至らない状況や、交渉が難航し解決できそうにない状況になる場合もあり得ます。そのような場合は、時間が経過しさらに事態がこじれる前に、早めに弁護士などに相談するのがよいでしょう。ここでは、弁護士に依頼した場合の解決までの一般的な流れを、簡単に説明します。
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(1)弁護士への相談から依頼
弁護士に相談する際は、可能な限り多くの自ら収集した証拠(労働契約書、就業規則、タイムカード、給与明細など)を持参しましょう。証拠が多ければ多いほど残業代請求が可能かどうかや回収額などの見込みを判断しやすくなります。会社が、ボーナスに残業代が含まれると主張する場合には、ボーナスと残業代を算出する根拠とするための資料が重要になります。
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(2)弁護士による交渉準備
依頼を受けた弁護士は、まずは内容証明郵便で相手方となる会社に残業代の請求を行うことにより、時効の進行を一時的に中断します。この請求(催告)による時効の中断は暫定的なものであり、6ヶ月間のみとなりますので、この間に会社との交渉を完了させるか、必要であれば訴訟に移行できるよう交渉をすすめることになります。
内容証明郵便で残業代の請求を行った後、弁護士は正確な残業代の算定を行います。残業代算定に必要な情報が依頼人の手元にあまりなく、正確に残業代を算定できないような場合には、相手方である会社に証拠となる資料を提出するように求めますので、未払いの残業代を請求することを希望するけれど、手元に証拠があまりないというような場合でもご心配はいりません。 -
(3)交渉開始から解決へ
交渉準備を終了後、弁護士は、残業代の支払いについて会社と交渉を開始します。会社との交渉がまとまれば、弁護士が代理して和解契約書を締結して終了となりますが、交渉が難航した場合は、訴訟ないし労働審判において、残業代を請求していくことになります。
訴訟や労働審判に移行することで、新たな法的手続きが開始することになり、専門知識や経験を必要とする手続きにはなりますが、この点に関しても、引き続き弁護士が対応しますので問題はありません。
5、まとめ
残業代請求については複雑な争点を含む場合も多く、労働審判や訴訟などの手段が必要になってくる可能性もあるため、早めに労働問題に詳しい弁護士などの専門家に相談することも一案です。
ボーナスと相殺されて正当な残業代を支払われていない可能性がある、残業代の請求を求めてご自身で会社との交渉を試みたが難航している、などお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスまでご相談ください。川崎オフィスの弁護士が、ボーナスの取り扱いを含め、適切な残業代の請求に全力を尽くします。
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