早出残業を残業代として請求する場合の計算方法や手続きの流れ
- 残業代請求
- 早出残業
- 計算
労働者が正当な権利として受け取るべき賃金は、基礎賃金のほかに残業代があります。特に残業代については未払い事案が依然として多いのですが、このときに見落とされがちといわれているのが就業時間前の残業、いわゆる早出残業です。
もちろん早出残業も残業の一種です。しかし慣例的に支払われていなければ、そもそも会社に対して支払いを請求できるのか、どのように計算し、どのように請求すべきなのか、お悩みの方も多いでしょう。
そこで、本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が、残業代の支払いを請求できるタイプの早出残業、残業代の計算方法、そして請求手続きの流れについてご説明します。
1、早出は残業と考えられる?
労働基準法第32条では、労働時間は原則として1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えてはならないと規定されており、これを法定労働時間といいます。
ただし、業務の繁忙などやむを得ない事情から、会社は労働者に法定労働時間を超過した残業または休日労働を課すことを余儀なくされることもあるでしょう。この場合、労働基準法第36条に基づいた、会社と労働組合または労働者の代表との間において残業や休日労働に関する理由などを定めた協定(いわゆるサブロク協定)が締結されていれば、会社は労働者に対して残業や休日労働を命じることができます。
ただし、労働者に残業や休日労働を命じた会社には、後述する労働基準法第37条で定められた割増賃金、すなわち残業代を支払うことが義務付けられています。この規定に明らかに違反していると認められた会社または経営者あるいは両方には、労働基準法第119条の規定により「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。
さらに、残業代不払いの行為が悪質と判断され、その会社が送検された場合は地域の労働局により「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として会社名や事案概要が公表されることになります。
このように、適正な残業代の支払いを受けることは労働者の権利です。それと同時に、残業代の支払いは会社の義務なのです。
2、早出残業は残業代として請求できるのか
残業とは、終業時刻を越えて働くことと考えられがちです。しかし、始業時刻前に早出して労働することも残業のひとつです。
たとえば、就業規則などで始業時刻が9時・終業時刻が17時と定められている会社を例に考えてみましょう。7時に出社して17時に退社した場合は、早出した2時間分について、労働者は会社に対して残業代を請求する権利が発生します。
ただし、労働時間とカウントされる残業時間は、早出出勤した理由が以下のような場合であることが必要です。
- 会社から明確に早出出勤の指示があった、あるいは黙示の指示があった。
- 早出出勤する旨の具体的な指示はなかったが、業務遂行上どうしても必要だった。
つまり、早出出勤した時間から通常の始業時刻まで会社の指揮命令下に置かれていたような場合であれば、労働基準法上の労働時間とされ残業代を請求することができるのです。たとえば、顧客対応や会議の準備のための早出残業はもちろんのこと、作業服などに着替える時間、始業前の朝礼などについても早出残業としてみなされるでしょう。
別の言い方をすると、以下のような場合であれば早出した分の残業代を請求することは難しくなると考えられます。
- 会社や上司が明確に早出残業を禁止していること。
- 客観的に、早出残業の必要がないといえる業務量あるいは業務内容であること。
このほか、あなたが労働基準法第41条第2項に定める管理監督者、あるいは裁量労働制の適用を受けているのであれば、同じように会社に残業代の支払い義務は発生しません。つまり、早出残業していたとしても会社都合の残業とは認められないということです。
3、早出出勤分の残業代の支払いを受けるためには証拠集めが重要
会社に早出出勤した分の残業代を請求しても、なかなか会社が承諾しないことも想定されます。もし会社との交渉が決裂した場合は、裁判などで訴えることも視野に入れておく必要が生じるでしょう。
会社に早出出勤した分の残業代を請求するためには、残業代が適性に支払われていない客観的な証拠を事前に集めておく必要があります。これは、あなた自身の主張の根幹となる適正な残業代を計算するうえでも欠かせません。
早出出勤した事実と実際の労働時間を証明する証拠には、タイムカード・パソコンのログイン記録・会社のパソコンから送信したEメール・業務日誌・勤務シフト表などが考えられます。これらの証拠から、実際に早出残業した時間と本来支払われるべき残業代を計算し、実際に支払われていた残業代との差額を会社に請求するのです。
もし退職したあとに請求する場合は、このような証拠を集めておくことが難しいことも考えられます。このような場合、客観性や信ぴょう性についての議論が生じる可能性はありますが、労働者が自ら記録していた日々の勤務時間の記録が証拠となる可能性があります。
早出出勤分の残業代が適性に支払われていないと気づいた段階で、証拠集めや勤務時間の記録は始めておくべきでしょう。
4、早出残業代の計算方法
早出残業の計算基礎には、法定内残業・法定外残業・深夜残業の3パターンがあります。
基礎賃金に対する割増率はそれぞれ異なります。まずは、上記3、で集めた証拠をもとに、以下の3パターンからあなたの早出残業時間を算出してみましょう。そして、適正に支払われるべき残業代を残業代チェッカーで計算してください。
-
(1)法定内残業
法定内残業とは、会社が就業規則や雇用契約などで1日あたり8時間・1週間あたり40時間の法定労働時間よりも所定労働時間を短く定めている場合に発生します。
たとえば、所定労働時間が7時間と定められている会社で労働時間が8時間となった場合、差分の1時間が法定内残業となるのです。この場合の残業代は基礎賃金と同額であり、割り増しはありません。 -
(2)法定外残業
法定労働時間を超える労働を、法定外残業といいます。法定外残業に対する割増率は、基礎賃金の25%です。
-
(3)深夜残業
場合によっては、朝5時前という早い時間帯に早出出勤をすることもあるかもしれません。
午後10時から午前5時までの深夜時間帯に労働した場合は、深夜労働として割増率は25%となります。さらに深夜労働が残業によるものだった場合は25%が加算され、割増率は合計50%になります。
5、早出残業を請求する流れ
早出出勤に関する残業代が不当に支払われていない事実と金額が確定したら、これまで支払いを受けていなかった残業代の支払いを会社に対して請求します。以下では、その手順や方法などについてご説明します。
-
(1)会社と交渉する
集めた証拠などを提示し、会社の人事担当者や経営陣に対して残業代の支払いを請求します。コンプライアンス意識のある会社であれば、この時点で残業代の支払いに応じる可能性があります。
しかし、場合によっては、あの手この手で残業代の支払いを拒んできたり話し合いにすらまともに応じなかったりすることもありえます。そのようなことが起こり得ることを前提に、会社と交渉する段階から弁護士に相談し代理人となってもらうことが望ましいといえるでしょう。 -
(2)時効を更新(中断)する
会社に対して労働者が未払いの残業代を請求する権利は、令和2年4月の民法改正を受けて、2年から3年に延長されました。ただし、令和2年4月1日以前に発生した残業代については、これまで通り2年の時効期間が適用されますので、注意が必要です。
もし会社との交渉が長期化した場合、請求した残業代がその間に時効となってしまうことが考えられます。したがって、事態の長期化が予想される場合は早めに時効を更新(中断)しておく必要があります。
時効を更新(中断)するためには、まず会社に対して残業代の支払いを求める「催告」を内容証明郵便で送付します。そして会社に内容証明郵便が送達されてから6ヶ月以内に訴訟を提起すれば時効は更新(中断)します。時効が更新(中断)している間に労働審判や裁判を起こす等の次の手を打つ必要があるでしょう。 -
(3)労働審判を申し立てる
労働審判とは、残業代の支払いなど会社と労働者間のトラブルについて労働審判員を介した調停により解決を試みる方法です。調停であるため基本的には会社と労働者による話し合いなのですが、まとまりそうにない場合は労働審判員による審理に基づく審判が出されます。
審判の結果は会社と労働者が合意に至れば強い法的効力を持ちますが、その内容に会社と労働者の両方または一方が不服を申し立てれば失効となります。なお、労働審判を経由せず訴訟を起こすことも可能です。 -
(4)訴訟を起こす
訴訟を提起すると、事案の概要や会社名が公表されます。このため、多少なりとも世間体を重視する会社であれば訴訟を起こす前に労働者に対して譲歩してくる可能性があります。
また、裁判では労働基準法第119条の規定により未払い残業代の倍額の支払い、さらに未払い分に対して退職前であれば年率最大6%の遅延損害金、退職後であれば年率最大14.6%の遅延利息を請求することができます。 -
(5)支払いを受ける
会社との話し合い、あるいは裁判における和解や判決などで残業代の支払いについて合意に至った場合は、会社と合意書を締結してから支払いを受けることが一般的です。
6、まとめ
-
会社には、早出残業に関する残業代についても支払う義務があります。もし会社が「早出出勤は残業ではないので残業代は出ない」と主張したら、それは明らかな違法行為です。法的観点を踏まえながら、正々堂々と残業代の支払いを主張すべきでしょう。
しかし、労働基準法などの労働関係法令や各種制度は、複雑かつ難解です。また、残業代の支払いはあなたの勤務先、つまり組織に対して行うわけですから、不十分な知識のままでは交渉を誤り、本来であれば受けることができた支払いが受けられなくなることもありえます。そのような事態を避けるために、もし会社に早出残業を含む残業代の支払いを請求する場合は、できるかぎり早めに弁護士に依頼することをおすすめします。
未払い残業代など、労働問題に関する会社との交渉や裁判による解決に実績豊富な弁護士であれば、あなたの代理人として会社と交渉などを行い良い方向への決着に動いてくれることが期待できます。なお、労働問題は社会保険労務士も詳しいのですが、労働審判や裁判であなたの代理人となる職権を持つのは弁護士だけです。
まずは、労働問題を取り扱っているベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士に、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています