山で勝手にマツタケを採ると森林窃盗罪に? その理由を弁護士が解説

2021年05月31日
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山で勝手にマツタケを採ると森林窃盗罪に? その理由を弁護士が解説

夏休みには子どもの自由研究のために、近所の山に出掛けて昆虫採集をしたり、草花を摘んだりすることもよくあるでしょう。しかし、そういった行為によって「森林窃盗罪」という犯罪が成立してしまうことがあります。

森林窃盗罪とはどのような罪なのでしょうか。またどのようなときに成立するのでしょうか。ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。

1、森林法とは

森林窃盗罪とは、森林法の罰則規定の中に定められている犯罪のひとつです。森林窃盗罪とは何かを知る前に、そもそも森林法とはどのような法律なのかを知っておきましょう。

  1. (1)森林法は自然保護のための法律

    森林法とは、むやみな森林伐採を防ぐことで生態系や自然を守り、ひいては地球環境を保全することをねらいとした法律です

    この法律では、災害で緊急を要する場合や立ち入り調査を行う場合などをのぞき、伐採作業をする際には森林所有者が伐採の届け出をしなければならないと定められています。また、1ha以上の面積を超える森林伐採を行う際には、行政の許可以外に都道府県知事の許可も必要です。伐採する予定地やその面積、かかる期間などの情報のほか、伐採後の造林方法についても記載しなければなりません。

  2. (2)森林法はどのような罪を定めているのか

    森林法は、以下のような行為が罪となることを定めています。

    ● 森林法第197条:
    森林においてその産物(人工を加えたものを含む。)を窃取した者は、森林窃盗とする

    ● 森林法第202条:
    他人の森林に放火した者は、2年以上の有期懲役
    自己の森林に放火した者は、6か月以上7年以下の懲役。他人の森林に延焼した場合は6か月以上10年以下の懲役。

    ● 森林法第206条:
    都道府県知事の許可なく開発行為をした者は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金

    上記のとおり、環境保護という観点から、森林法違反は比較的重い罰則が用意されていることが見て取れるでしょう。

2、山に入ってキノコを採取したら森林窃盗罪に?

山に入ってキノコや山菜、タケノコなどを採っていたら、通行人に警察に通報されたというニュースをたまに見かけます。先ほど見た森林法の罪の中にもあったように、山でキノコなどを採取すると森林窃盗罪という犯罪が成立してしまう可能性があります

  1. (1)森林窃盗罪の要件

    森林窃盗罪として、犯罪となる行為は条文上、「森林」の中で「産物」を「窃取」することと定められています。
    まず、「森林」については、森林法第2条1項で以下のように定義されています。

    (定義)第2条
    この法律において「森林」とは、左に掲げるものをいう。但し、主として農地又は住宅地若しくはこれに準ずる土地として使用される土地及びこれらの上にある立木竹を除く。
    一 木竹が集団して生育している土地及びその土地の上にある立木竹
    二 前号の土地の外、木竹の集団的な生育に供される土地


    次に「産物」とは、植物や昆虫などの有機的産物であるか、岩石などの無機的産物であるかどうかを問いません。森林の中に生育する果実・竹木・キノコ・山菜・草花だけでなく、昆虫や岩石や鉱石、砂利なども、許可なく持ち帰ると森林窃盗罪が成立する可能性があります
    さらに、「窃取」とは、占有者の意思に反して物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己又は第三者の占有に移すことをいいます。森林の所在する土地の所有者の許可を取らずに、産物を持ち出すことは、「窃取」にあたる可能性があります。

    加えて、森林窃盗罪には、条文には書かれていない要件として「故意」および「不法領得の意思」が必要とされています。
    このうち、「故意」とは、行為者が犯罪事実について認容していることをいいます。
    これは、森林窃盗罪の場合、犯罪の対象となる産物を、森林外に持ち出すことを認識しているだけで該当する可能性があります。
    「不法領得の意思」とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い利用、処分する意思をいいます。
    「不法領得の意思」については、相当に幅広く認められるもので、森林窃盗罪の場合、キノコや山菜を食べる目的だけでなく、珍しいから、森林の外に持ち出して観察してみよう、といった程度の意思でも、これに該当する可能性があります

    過去には、森林窃盗罪のことを知らずに県道のわきに生えているもみじの木を持ち帰り、書類送検されてしまった衆院議員もいます。森林の中で珍しい植物や昆虫、鉱石などを見つけるとつい「記念に」と思って持ち帰りたくなってしまいますが、悪気があってしたことではなくても犯罪となりうる点に注意が必要です。

  2. (2)森林窃盗罪の法定刑は?

    森林窃盗罪の法定刑は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金です。森林窃盗をしたのが保安林の区域内だった場合は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

  3. (3)軽犯罪法違反が成立することもある

    森林窃盗罪と同時に、軽犯罪法が成立してしまうこともありえます。軽犯罪法には以下のような規定があるからです。

    軽犯罪法第1条
    左の各号の一に該当する者は、これを拘留または科料に処する。
    (中略)
    三十二 入ることを禁じた場所または他人の田畑に正当な理由がなくて入った者


    たとえば、森林のそばに「立ち入り禁止」と書かれた看板が立っていて、所有者その他許可を受けた者以外の人物の立ち入りが禁止されている場所があったとします。そのような場所に無断で立ち入った場合は、軽犯罪法違反となってしまうのです。

  4. (4)器物損壊罪にもなりうる

    私有地であるか国や自治体の所有地であるかを問わず、土地の所有者に無断で草木を傷つける行為は器物損壊罪(刑法第261条)にもなりえます。たとえば、桜の咲く時期に「撮影のため」と言って桜の枝を折る行為がこれにあたります。器物損壊は親告罪なので、所有者の告訴が必要ですが、が3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料に処せられる可能性があります。

3、森林窃盗罪と窃盗罪との違いは?

「ものを盗る」という意味では、森林窃盗罪よりも「窃盗罪」のほうが一般的ですが、森林窃盗罪と窃盗罪はどのような違いがあるのでしょうか。

  1. (1)窃盗罪とは

    窃盗罪(刑法第235条)とは人の財物を窃取することをいいます。
    窃盗罪が成立すると、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

  2. (2)森林窃盗罪と窃盗罪の相違点

    森林窃盗罪と窃盗罪には以下のような違いがあります。

    ● 犯罪が行われる場所が「森林」であるかどうか
    森林窃盗罪と窃盗罪は、窃盗が行われる場所に違いがあります。
    窃盗罪は場所が限定されていませんが、森林窃盗は森林法で定義されている「森林」で行うことと限定されています

    ● 窃取されたものが森林の産物であるかどうか
    森林窃盗罪は森林で自然的に生まれた有機的産物・無機的産物を窃取することですが、窃盗罪はそれに限らず、広く他人の所有物を窃取すると成立する点に違いがあります。

4、森林窃盗罪で逮捕・処罰されるときの流れ

森林窃盗罪は軽微なものにとどまることも少なくありませんが、損害の金額や規模によっては、犯人が逮捕されて処罰を受けることもあります。一般的な刑事事件の手続きはどのような流れで進むのかをみていきましょう。

  1. (1)逮捕・捜査

    犯罪行為を行った結果逮捕されることがあります。犯罪行為を現に行いつつある、または行った直後を警察等に発見されれば、現行犯逮捕となりますし、後日犯罪行為が発覚すれば通常逮捕(後日逮捕)となることもあります。

    警察に逮捕されると、48時間以内に警察署で取り調べを受けます。被害がきわめて軽微な場合で、被害弁償も済んでいる場合などは微罪処分となり検察庁に送られることなく釈放されることもありえます。一方、それ以外の案件はすべてそのまま検察庁に送致されると言えるでしょう。

    刑事事件は初動が早ければ早いほど早期釈放できる可能性がありますので、逮捕されそうになったら、もしくは実際に逮捕されたら、なるべく早く弁護士に相談することが重要です。

  2. (2)検察庁へ送致(送検)、勾留決定

    逮捕後の警察署での取り調べや捜査が終了すると、被疑者の身柄が検察庁へ送致(送検)されます。検察庁では、24時間以内に検察官による取り調べを受けることになります。検察官は勾留請求をするかどうかを検討し、勾留が必要と判断した場合は裁判所へ勾留請求をします。請求を受けた裁判官は、被疑者に勾留質問を行って被疑者の言い分も聞きながら勾留の要・不要を決定します。

    勾留の必要があると判断されるのは次のいずれかがに当てはまる場合です。

    • 罪を犯したことを疑う相当な理由があること
    • 住所不定なこと
    • 証拠隠滅のおそれがあること
    • 逃亡のおそれがあること


    裁判官が勾留の必要があると決定すると、被疑者は勾留請求の日から最長10日間留置場で勾留されます。その間にも捜査や取り調べが続きますが、共犯者がいる可能性のある場合や犯罪が悪質な場合、複雑な要素がからむ場合など、10日間で捜査を終えるのが難しいと判断された場合は、勾留期間がさらに10日間延長されることも少なくありません

    勾留決定となると、長期間にわたって身柄を拘束される被疑者の社会生活にも大きな影響が及びます。そのため、弁護士を通じて被害者と示談交渉を行い、被害弁償をするなど、勾留決定されるまでに釈放されるよう尽力することが重要です。

  3. (3)起訴・不起訴の決定

    被疑者を勾留している間に、検察官が起訴・不起訴を決定します。犯罪の疑いがない場合は嫌疑なし、有罪の証明をすることが難しい場合は嫌疑不十分、初犯で犯罪の程度が軽い場合などは起訴猶予として、不起訴処分となります。一方、日本の刑事裁判ではいったん起訴されると有罪判決を受ける可能性が約99%あり、前科がつくことはほぼ免れません。そのため、送致され勾留されている間に不起訴処分を得ることが非常に重要となります。

  4. (4)公判

    起訴が決定すると、約1か月後に公開の法廷で刑事裁判が行われ、有罪・無罪、量刑について判断されます。量刑が100万円以下の罰金または科料となる犯罪の場合は、略式起訴を行うことで正式な裁判が不要となることもあります。また、保釈金を支払うことで公判までに保釈されることもあります。

    裁判では、無実を勝ち取ることが第一ではあります。しかし、罪を犯したことに疑いの余地がない場合は、できる限り執行猶予付きの判決を得られる、もしくは量刑を考慮してもらうような弁護活動を行うことが重要です。

5、まとめ

悪気がなくても、山の中など森林とされる場所でキノコやタケノコなどを採集したり、石を拾ったりすれば森林窃盗罪で逮捕されることがあります。被害の程度や金額が少ない場合は微罪処分ですむことも少なくありません。犯罪となることを知らずに自分自身や身近な方が逮捕されてしまった場合はベリーベスト法律事務所 川崎オフィスまでご相談ください。早くご連絡をいただければ、その分弁護士が早く対応することができるので、早期釈放を目指せる可能性も高くなります。
森林窃盗罪の疑いで逮捕もしくは逮捕されそうな方は、お気軽にお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています