忘れ物や落とし物を自分のものにしたら犯罪? 置き引きで問われる罪

2023年08月31日
  • 財産事件
  • 置き引き
忘れ物や落とし物を自分のものにしたら犯罪? 置き引きで問われる罪

川崎警察署のサイト内「事件発生状況」ページによると、令和5年は5月末の時点で17件の置き引き事件が発生していることが公表されています。

たとえ忘れ物や落とし物であっても、勝手に他人の物を自分のものにすれば「置き引き」と呼ばれる犯罪行為にあたります。当然、罰則が科される可能性があるといえるでしょう。

では、忘れ物や落とし物を拾った後に、うっかり届け忘れてしまっていた場合にはどうなるのでしょうか。

本コラムでは、置き引きの概要や問われる罪について、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。

1、置き引きとは

置き引きとは、置いてある他人の物を自分のものとして持ち去る行為を指します。 たとえば、次のような物を故意に持ち帰って自分のものにしてしまうと置き引きと呼ばれ、犯罪になります。

  • 電車内の網棚に置いてある荷物
  • 道端に落ちていた財布、クレジットカード
  • 所有者が置き忘れたスマートフォン
  • 自動販売機に残っていた現金
  • 駅の駐輪場に置いてある自転車


逮捕されるケースとしては、周辺を監視していた警備員に逮捕される(私人逮捕)ことや、パトロール中の警察官に逮捕されることがあります。

あるいは、所有者が警察に遺失届を提出し、防犯カメラの映像などを確認した結果、あとに置き引きをした犯人が特定されて逮捕にいたることもあります。

2、置き引きをして問われるのは窃盗罪?

置き引きをして具体的に問われるのは、刑法第235条の「窃盗罪」か、もしくは刑法第254条にあたる「遺失物等横領罪」(占有離脱物横領罪、拾得物横領罪とも通称されています)です。

「置き引き」という犯行は、強盗や車上荒らし、ひったくりのような行為と比較すれば凶暴性が低いことから、罪の意識が薄くなってしまう方もいるかもしれません。しかし、人の所有物を勝手に自分のものにしてしまう行為に変わりはなく、れっきとした犯罪です。

逮捕されて有罪になるおそれは十分にありますし、その罰も非常に重いものとなっています。そして、有罪になれば、当然前科がついてしまうことを忘れてはなりません。

3、置き引きの刑罰は?

窃盗罪の刑罰は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。他方、遺失物等横領罪に設定された刑罰は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料」となります。

窃盗罪で有罪になれば10年以下、遺失物等横領罪であれば1年以下と、同じ懲役刑であっても両者の罰則には重さに大きな差があることに驚いた方もいるでしょう。事実、しばしばどちらの罪に問われるのかが争点となることがあります。

窃盗罪と遺失物等横領罪の大きな分かれ目となるのが、持ち去った物に対する所有者の支配が及んでいたか否かです。たとえば、所有者が公園のベンチの上にポシェットを置き忘れ、約200メートル離れた駅改札付近まで行く間にポシェットを持ち去ったケースでは、窃盗罪が認められています。また、施設内にあった忘れ物について、所有者が完全に置き去ったとしても、施設管理者の支配が及んでいるとして窃盗罪になることがあります。

この点、個別の事例について総合的に判断されており、明確な基準があるわけではありません。そのため、どのような状況であれば窃盗罪を免れるのかと、一概に述べることはできません。
                                  
自らの行為がどちらに該当するのかが気になるのであれば、刑事事件に関する知見が豊富な弁護士に相談をするようにしましょう。状況の見通しなどについて判断するとともに、あなたのケースに適したアドバイスを行います。

4、落とし物や忘れ物を拾っても罪になるのか

子どもの頃、大人たちから「お金を拾ったらお巡りさんに届けようね」と教えられた方は多いはずです。この教えは、単に道義上の教えのみに限らず、法的根拠があります。

遺失物法第4条では、「拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない」と定められています。
                                  
落とし物や忘れ物を手に取ったからといって、罪にはなりません。しかし、落とし物や忘れ物を拾い、いわゆる「ネコババ」してしまったら話は変わります。つまり、手に取ったあと、落とし物や忘れ物をしかるべき場所へ届け出なければ、窃盗や遺失物等横領の罪に問われてしまう可能性があるのです。

5、忘れ物を持ち帰ってきてしまった! 何日で犯罪成立?

忘れ物を警察へ持っていこうとしたけれど、そのまま忘れて持ち帰ってしまったという場合はどうすればよいのでしょうか。

結論から言えば、気づいた時点で速やかに警察に届け出ることが最善の方法です。店舗や施設の中や駐車場で拾った場合は、店舗や施設の管理者に届け出ます。

しかし、夜遅くになっている、手が離せない用事があるなどで、すぐに届けることが難しい場合もあるはずです。このとき、いったん家に持ち帰ってしまったことをもって、直ちに罪になるわけではありませんので、落ち着いて行動しましょう。忘れ物を届け出ようと思っていたのであれば、持ち帰ってしまった時点では罪にあたらないと考えられることが通常です。

とはいえ、いつまでも放置しておけば、犯罪とみなされるおそれが高まります。「拾ったものを○日届けない場合に犯罪が成立する」など、具体的に法律で明記されているわけではありません。しかし、「拾得者の権利」が消滅する期間がひとつの目安となります。

拾得者の権利とは、報労金や落とし物を受け取る権利、落とし物の保管などに要した費用を請求できる権利のことです。

拾得者は以下の期間内で権利を失うとされています。

  • 店舗や施設で拾った場合は24時間以内
  • 道端などで拾った場合は1週間以内


つまり、少なくとも上記の時間内には届け出た方がよいと言えます。

警察署や交番は拾った場所の最寄りでなくても構いませんので、通常は届け出ることができるはずです。

もっとも、すぐにでも警察に届け出ることが可能なのに届け出なかったのであれば、犯罪を疑われる可能性は否定できません。それでも、落とし物や忘れ物の届け出をせずに放置しておき、後日になって逮捕されるよりはずっとよいでしょう。

上記の日付を過ぎてしまった場合でも、悪意がないとみなされれば罪に問われることなく、厳重注意で済むこともあります。

6、置き引きで逮捕されてしまったあとの流れ

置き引きで逮捕されてしまうと、逮捕後48時間以内に警察による取り調べを受け、事件や身柄が検察に送致されます。

その後、検察での取り調べを経て、引き続き身柄の拘束を行う「勾留(こうりゅう)」の必要があると判断されれば、24時間以内に勾留請求、勾留へと進みます。万が一、勾留されてしまうと、最長で23日もの間、身柄を拘束されることになります。日常生活への影響は計り知れません。

しかし置き引きの場合は、単独犯であることが多く、暴行や脅迫などがない犯罪であるため、身柄の拘束を受ける可能性はあまり高くないと考えられます。再犯や証拠隠滅、逃亡の危険性がないなどと判断され、身元引受人などがいれば、そもそも逮捕を受けずに取り調べだけを受けるケースや、逮捕されたとしても事件のみが検察へ送致され、在宅事件扱いとして日常生活を送りながら呼び出しに応じて取り調べを受けるケースもあるでしょう。

いずれにしても、実際に置き引きをしてしまったのであれば、速やかに認めて反省し、被害者に対して示談を成立させることが非常に重要なことになります。

7、置き引きによる逮捕が不安な場合は、弁護士へ相談を

何日も前に落とし物を拾って届け出ようと思っていたけれど、そのこと自体をうっかり忘れていたような場合、警察に届け出ることで罪に問われてしまうのか不安に感じることもあるでしょう。むしろ、黙っていた方がよい選択肢のように思えるかもしれませんが、後日逮捕されることがありますので、ご自身の首を絞める行為になりかねません。

そのときは、弁護士へ相談することがひとつの方法です。まずは逮捕のおそれがどの程度あるのか、今後はどのようにすればよいのかについて、アドバイスを受けることができます。

法律問題の専門家である弁護士からの助言は、何よりの安心材料となるでしょう。また、拾得から日が経過した際の届け出た場合、あなたひとりではうまく説明できず、警察からあらぬ疑いをかけられてしまうおそれがあります。

弁護士に依頼すれば、警察署まで同行することが可能です。今後の事態に備え、弁護士と警察署へ出向くという手も有効でしょう。

8、まとめ

置き引きは、窃盗罪や遺失物等横領罪に問われる可能性がある犯罪行為です。忘れ物や落とし物を拾った場合でも速やかに届け出なければ、罪に問われかねません。軽い気持ちで拾ったものを持ち帰って、そのまま自分のものにしてしまわないように気をつけてください。万が一、「出来心で置き引きをしてしまった」「落とし物などの拾得物を届け忘れてしまった」などの事態に陥ってしまっていたら、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士は、過剰に重い罪に問われることがないよう、力を尽くします。実際にトラブルが発生していたり、不安があったりする際には、まずは一度ご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています