逮捕・監禁するとどうなる? 成立要件や量刑が決まるポイントとは
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令和2年9月、神奈川県横浜市に住む男性に暴行を加えた上にマンションの一室に連行し、監禁した容疑で指定暴力団の幹部が逮捕されました。容疑者と被害者の男性は、共通の知人女性をめぐってトラブルになっていたといいます。
だれかを正当な理由なく閉じ込めたり動けなくした場合、逮捕・監禁罪となりますが、どのような場合に成立するのでしょうか。また、量刑についてはどのようなポイントで決まるのでしょうか。川崎オフィスの弁護士が解説します。
1、逮捕・監禁罪とは?
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(1)逮捕・監禁罪の成立要件とは
刑法第220条によれば、「不法に人を逮捕し、または監禁する」と逮捕・監禁罪が成立します。逮捕・監禁とは、正当な理由なく他人の身体を拘束したり身動きをとれなくして人の行動の自由を奪うことを意味します。したがって、逮捕・監禁罪は
- ①逮捕すること
- ②監禁すること
- ③逮捕または監禁が不法であること
のうち、①と③または②と③、あるいは①②③の3つの要素があると成立することになります。ちなみに、「〇〇しないと殺すぞ」と相手を言葉で脅して心理的な自由を奪うことは脅迫罪や強要罪にあたるので、逮捕・監禁罪とは異なります。
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(2)逮捕とは
逮捕とは、相手の身体を力ずくで拘束するなどして行動の自由を奪うことです。たとえば、相手を羽交い絞めにする、相手の手や足をロープでしばるといった行為がこれにあたります。行動の自由がないことが逮捕の成立要件になるので、たとえば手や足をしばられていても自分の意思で移動できるときは逮捕にあたりません。また、身体の拘束が瞬間的だった場合は、逮捕ではなく暴行罪が成立する可能性があります。
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(3)監禁とは
監禁とは、人を一定の限られた場所から出ることを不可能又は著しく困難にして、その行動の自由を奪う行為のことを指します。身体的な拘束をともなうことは必要ではなく、たとえば部屋の中での移動は自由でも、そこから出られなくするだけで監禁が成立します。
部屋にカギをかけて出られなくする以外にも、睡眠薬を飲ませて動けなくしたり、「ここを出るとどうなるかわかっているだろうな」と心理的な圧力を加えることによって出られなくするような行為も、監禁罪にあたります。また、バイクや車に他人を乗せているときに「降ろしてほしい」と言っているにもかかわらず、降りられないようなスピードで走行することも監禁罪となります。 -
(4)逮捕・監禁が不法であるとは
逮捕・監禁罪は、逮捕・監禁が不法であることも成立要件のひとつです。不法であるとは、正当な理由がないことを指します。たとえば、警察官が刑事事件を起こした人間を逮捕して身体拘束することは正当性が認められるので、逮捕・監禁罪は成立しません。
2、逮捕・監禁罪の罰則は?
逮捕・監禁罪が成立すると、どのような刑罰が科せられるのでしょうか。また、逮捕・監禁のみならずほかの要素も加わることで、量刑が重くなることがある点に注意が必要です。
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(1)逮捕・監禁罪の量刑
逮捕・監禁罪が成立すると、3か月以上7年以下の懲役に処せられます。逮捕も監禁も個人の行動の自由を奪う行為なので、暴行罪や脅迫罪(2年以下の懲役または30万円以下の罰金)といった罪よりも量刑が重くなっています。
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(2)相手が死亡するもしくは傷害を負うと罪が重くなる
逮捕・監禁したときに相手を死亡させたり傷害を負わせたりした場合は、逮捕や監禁のみの場合よりも罪が重くなります。たとえば、犯人の家に監禁された人が窓から脱出しようとしたところ、足を踏み外してケガをしたり、たまたま通りかかった車にひかれて死亡してしまったりした場合がこれにあたります。
この場合の具体的な量刑は刑法第221条には書かれていません。刑法第221条には、「前条(逮捕・監禁)の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する」とあるのみです。しかし、一般的にはケガを負わせた場合は3か月以上15年以下の懲役、死亡させた場合は3年以上の有期懲役とされています。 -
(3)職権濫用による逮捕・監禁でも量刑が重くなる
刑法第194条には「特別公務員職権濫用罪」という罪が規定されています。警察官などが正当な理由でだれかを逮捕することはもちろん認められていますが、警察官などが職権濫用をした場合は量刑が重くなります。職権を濫用した逮捕となるのは、「なんとなくあやしいから逮捕する」といったケースなどです。特別公務員職権濫用罪が成立すると、6か月以上10年以下の懲役または禁錮に処せられる可能性があります。
3、逮捕・監禁罪で処分や量刑が考慮されるポイント
逮捕・監禁罪のみならず、さまざまな犯罪で処分や量刑をどれくらいにするかを判断するポイントが大きく分けて3つあります。それは、「犯行の態様」「被害の程度」「動機・計画性」の3つです。
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(1)逮捕・監禁罪に罰金刑はない
逮捕・監禁は無理やり身体を拘束したり、どこかに閉じ込めたりして個人の行動の自由を奪う行為という事の重大性から、逮捕・監禁罪には罰金刑はありません。逮捕・監禁罪で起訴されると、懲役刑もしくは執行猶予付きの有罪判決を受けることになります。
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(2)深く反省していること
逮捕・監禁罪は先述のとおり罰金刑が予定されていないので、有罪判決を受ける場合懲役刑からは逃れられません。しかし、量刑の検討にあたって考慮されるのが、被疑者(被告人)に自分のしたことについて深く反省している様子が見られるかどうかです。反省の色がみられれば、有罪になっても量刑が考慮されたり、場合によっては不起訴となる可能性もあります。
そのため、弁護士は被疑者に反省の色が見られない場合は、被害者の被害の程度や様子を伝えることで反省を促します。不起訴処分や早期釈放のために、自分の犯した過ちに対して真摯に受け止め反省している旨を意見書に書いて、警察や検察に提出することもあります。 -
(3)示談をしていること
また、量刑を決めるにあたっては被害者と示談ができていることも重要な要素のひとつです。被害者に慰謝料の支払いなど被害弁償をして、示談がまとまっていれば、被害者が被害届を取り下げたり、不起訴となったりする可能性が高いのです。そのため、逮捕後はいかに早く被害者側と示談交渉をはじめられるかが重要となります。
しかし場合によっては、被害者から示談を拒まれたり、そもそも連絡先自体を知らないというケースは少なくありません。弁護士であれば、捜査機関から被害者の連絡先を教えてもらえる可能性がありますし、第三者である弁護士であれば被害者やその家族から示談交渉を受け入れてもらえる可能性が高まります。 -
(4)その他量刑が考慮されうる要素
そのほかに、量刑が軽くなりうる要素として、以下のようなものがあげられます。
- ●被害の程度
- 被害者のケガや心理的なダメージの影響が軽ければ、量刑が考慮される可能性があります。
- ●年齢
- 年齢が若ければ、更生の余地があるとして量刑が考慮される可能性があります。
- ●経済状況
- 定期的かつ継続的な収入があるなど、生活基盤が安定している場合は再犯の可能性が低いとして、量刑が考慮される可能性があります。
- ●前科の有無
- 初犯の場合は、被疑者にとって量刑の判断が有利になる可能性があります。
4、逮捕・監禁罪が成立するのはどんなケース?
逮捕・監禁罪が成立しうる状況は、大きく分けて「誘拐」「虐待・いじめ」「私人逮捕」の3つあります。
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(1)誘拐のために監禁する
誘拐そのものについては略取・誘拐罪が刑法に規定されていますが、誘拐を目的に相手の身体を拘束して身体的自由を奪うときに、監禁罪が成立する可能性があります。たとえば、誘拐するために若い女性を車の中に押し込めてスピードをあげて車を走行させ、降りられない状態にしたケースを考えてみましょう。このケースでは、この若い女性を走行中の車に乗せて自分で移動する自由を奪っているので、誘拐罪とともに監禁罪が成立します。なお、複数の罪が該当する場合は、その中で一番重い刑罰が科されます。
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(2)虐待やいじめで閉じ込める
虐待やいじめについては、相手に直接的な暴力を加えると暴行罪、ケガをさせると傷害罪、ケガをさせた後被害者が死亡すれば傷害致死罪となります。また、子どもへの虐待やいじめは児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)違反として処理されることもあります。
このようにさまざまな犯罪が成立しうる中で、虐待やいじめが監禁罪にもあたるケースがあります。たとえば、しつけと称して物置やお手洗いなど狭いスペースに子どもを長時間閉じ込めることは、監禁罪にあたる可能性があります。 -
(3)私人逮捕
他人を逮捕できるのは警察など一部の公務員のみというイメージがありますが、刑事訴訟法では公務員以外の私人による逮捕もできるようになっています。私人逮捕とは、たとえば電車で女子高生に痴漢をした犯人を、まわりにいた乗客が電車から引きずりおろしてその場で取り押さえ、身動きできなくさせるような行為のことをいいます。
逮捕・監禁罪にあたるのは、他人の身体を拘束しても、警察などに引き渡さずそのまま監禁し続けるようなケースです。「痴漢行為をした犯人を警察に突き出すため」という正当な理由によるものであれば、一私人が他人に対して身体的拘束を加えても逮捕罪にはあたりません。また、「痴漢をしたと思いこんで取り押さえたが、犯人は別の人物だった」という場合にも、逮捕・監禁罪に問われることはないでしょう。
5、逮捕された後の流れ・相談先は?
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(1)逮捕された後の流れ
逮捕されると以下のような流れで手続きが進みます。
- ①警察での取り調べ
- 48時間以内に警察署内で取り調べを受けます。
- ②送検
- 検察庁に身柄を送致(送検)され、24時間以内に検察庁でも取り調べを受け、勾留請求の有無が決定されます。勾留期間は10日間とするルールはありますが、余罪の可能性がある場合や、共犯者がいる場合、事件が複雑な場合はさらに10日間勾留が延長されることもありえます。
- ③起訴・不起訴の決定
- 検察官は、勾留期間に被疑者の起訴・不起訴を決めますが、逮捕・監禁罪の場合は起訴される可能性が非常に高いといえるでしょう。
- ④公判
- 起訴されると、次は裁判となります。裁判では有罪か無罪か、有罪の場合は量刑も裁判官により決められます。ほかの軽微な犯罪であれば初犯は無罪となることが多いのですが、逮捕・監禁罪は重大犯罪のため、初犯でも実刑となることが多いでしょう。
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(2)逮捕されたらできるだけ早く弁護士に相談を
自分や身近な人が逮捕されてしまったら、できるだけ早く弁護士に相談されることをおすすめします。初動が早ければ早いほど、量刑を軽くしたり不起訴にしたりできる可能性が高くなります。特に逮捕後72時間は家族でも会えない状態になりますが、弁護士であれば逮捕直後から24時間いつでも接見できるので、弁護士に相談すれば時間帯によってはその日のうちに接見にこぎつけることも可能です。
6、まとめ
逮捕・監禁罪は重大な犯罪のひとつとされているので、無罪や不起訴を勝ち取れる可能性が低いと考えられます。しかし、できるだけ早く弁護士に相談することで、被害者と示談交渉をしたり、意見書を作成して警察や検察に提出したりと少しでも量刑を考慮してもらえるように弁護士はサポートすることができます。
ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスでは、逮捕・監禁罪の疑いで逮捕された方やそのご家族の方からのご相談をいつでも受け付けております。お困りの際はできるだけ早めに当事務所までご相談ください。
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