暴行罪は親告罪ではない? 成立要件の解説と傷害罪との違いとは
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神奈川県警察が公表する犯罪統計資料によると、川崎市で令和4年に起きた刑事事件のうち、暴行罪や傷害罪を含む粗暴事件の認知件数は、459件でした。暴行を含む粗暴事件は、刑事事件の中でも比較的多く発生する犯罪であるといえます。 しかし、どのような行為が暴行罪に該当するのか、罰則の重さはどの程度かなど、詳しくはよく知らないという方は少なくありません。
最近では、乗客の駅員への暴行や、教員による体罰も問題になることがあります。いずれも立派な犯罪です。本コラムは暴行罪について、構成要件などの基礎知識から捜査や逮捕などについて、川崎オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、暴行罪とはどんな罪か
はじめに暴行罪について、基本的なポイントについて説明いたします。
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(1)暴行罪になるのはどんなときか
暴行罪は、人の体に対して暴行したときに成立する犯罪です。
刑法第208条
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
「暴行」と聞くと、殴る、蹴るといった行為を想像されるかもしれませんが、たとえば胸倉をつかむといったような、あまりダメージにならないように思える行為も暴行罪に該当します。また、暴行は素手に限らず、道具を使った行為も含まれます。 -
(2)成立するには故意が必要
暴行と思われる行為があったらすぐに暴行罪が成立するわけではなく、その行為が故意である必要があります。意図的に特定の人を殴るなど明らかな故意がある場合もありますが、たとえば周囲に人がいる場所で、「人に当たってもいいや」とバットを振り回し、それが誰かに当たってしまった場合も暴行罪に問われる可能性があります。このようなケースを「未必の故意」と呼びます。
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(3)刑罰について
暴行罪には刑罰があり、「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」(刑法第208条)と定められています。ちなみに拘留とは1~29日間刑事施設に拘置すること、そして科料は1000円~9999円の金銭を徴収することです。
暴行罪の刑罰は、仮に初犯だったとしても上記の範囲内で決まりますし、悪質性の高い場合は実刑になることもあり得ます。その一方、個々の事情によっては執行猶予や不起訴処分となる可能性もあります。不起訴処分になれば、前科も付きません。 -
(4)傷害罪との関係
傷害罪は、暴行によって相手に被害を与えた場合に、罪に問われる点では同じですが、その名の通り「傷害」が生じたときに該当します。つまり、暴行をした結果相手が怪我をしなければ暴行罪、怪我をすれば傷害罪です。
ただし、傷害は怪我だけを指すわけではありません。嘔吐や失神なども傷害と判断されることがあります。さらに、傷害罪は暴行罪の延長的な罪かといえば必ずしもそうではなく、暴行がなくても傷害と認められる結果があれば、傷害罪に該当します。
傷害罪の罰則は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されますので(刑法第204条)、暴行罪より重い量刑が科される可能性があります。 -
(5)暴行罪の時効
暴行罪には公訴時効があり、期間は3年です。この時効が開始するのは、犯罪行為が終わったときからです。時効が成立すると、検察官は起訴できなくなります。
また、暴行罪にはもうひとつ、被害者の損害賠償に関する時効があり、期間は同じく3年です。この時効が開始するのは、被害者が損害および加害者を知ったときからです。時効が成立すると、損害賠償請求権は消滅します。さらに時効とは別に、事件から20年経過した場合もこの権利は消滅します。
2、暴行罪の捜査や逮捕について
暴行罪の要件や刑罰についての基本的な部分を理解したところで、次に捜査や逮捕についてのポイントを解説します。
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(1)暴行罪は親告罪ではない
起訴するのに被害者からの告訴が必要な罪を親告罪といいます。告訴とは、簡単にいえば警察などに犯罪事実を申告して、加害者の処罰を求めることです。しかし、暴行罪は親告罪ではありません。そのため、被害者からの申告がなくても警察は捜査をすることができます。
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(2)被害届の役割
告訴を必要としない暴行罪ですが、被害届も不可欠というわけではありません。どちらもない場合でも、警察は動くことができます。しかし、現行犯は別としても、警察が事件について知るには被害届が重要で、これが捜査の契機になります。
また、加害者にとっても被害届は無視できません。もちろん逮捕されるか否かに関わる点もそうですが、起訴か不起訴かに関わる点でも重要となります。ポイントは、「被害届の取り下げ」です。被害届が取り下げられたからといって、すぐに捜査が終わったり、起訴が取りやめられたりするわけではありません。しかし、示談の成立と被害届の取り下げがあると不起訴になる可能性が極めて高くなるため、加害者の処遇を左右する意味で被害届には大きな役割があります。 -
(3)暴行罪の逮捕は2パターン
暴行罪で逮捕される場合、現行犯逮捕と通常逮捕の2パターンが考えられます。
① 現行犯逮捕
現行犯逮捕は、事件当日に現場にいる被害者や目撃者によって行われるほか、通報で駆けつけた警察官によって行われることも考えられます。逮捕後はそのまま警察署に連行され、留置場に収監されます。
暴行罪の現行犯逮捕は、たとえば加害者が凶器を使っていたり、暴行が長時間にわたっていたりするケースでみられます。
② 通常逮捕
通常逮捕は、主に逮捕状を持った警察官によって事件後に行われます。現行犯逮捕は逮捕状がなくても可能ですが、通常逮捕には逮捕状が必要です。このような形で逮捕されるのは、加害者の逃亡や証拠隠滅の可能性があるときが考えられます。
逮捕までの経緯は異なるものの、通常逮捕の場合も警察署への連行後、留置所での収監という流れになります。 -
(4)暴行罪で逮捕されない場合もある
暴行罪に該当するからといって、必ず逮捕されるわけではありません。内容に悪質性がないと判断されれば、逮捕されないことも考えられます。ここで誤解のないようにいうと、逮捕されない=捜査されないというわけではなく、被害届が出されてそれが受理されれば、捜査が行われます。ただし、逮捕されたときと違い、自宅にいながら日程を合わせて事情聴取のために都度出頭をすることができます。
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(5)逮捕後の拘束
暴行罪で逮捕された後は、勾留、そして起訴と続きます。もちろん途中で釈放される可能性もありますが、場合によっては裁判まで身柄の拘束が続くことも考えられます。逮捕された後の拘束期間の例は、以下の通りです。
- 逮捕から勾留まで:72時間
- 勾留期間:20日間(原則10日間、最大10日間の延長)
- 起訴から裁判まで:約1か月~2か月
早く釈放されるには、示談の成立や保釈請求などの方法があります。このような交渉や手続きは、犯人自身やその家族・友人が行うことはリスクがあります。刑事事件についての知見が豊富な弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
3、まとめ
今回は、暴行罪の構成要件、罰則、捜査、逮捕などについて解説しました。実際に釈放や不起訴などを目指すとなると、被害者との示談交渉を行うことも考えられますが、なかなかおひとりでは難しいかと思います。「相手に暴行を加えてしまった」「相手から訴えられるかもしれない」「逮捕されると思うと眠れない」といったお悩みを抱えている方は、迷わずベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています