自宅やお店に張り紙で嫌がらせされた!どんな罪になる?

2020年08月24日
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自宅やお店に張り紙で嫌がらせされた!どんな罪になる?

新型コロナウイルスの影響で、自粛要請を受けた飲食店などは、スタッフの雇用や生活を守るため、感染拡大に気を付けながら営業を続けていた店舗は少なくありません。しかし、いわゆる「自粛警察」による張り紙で嫌がらせを受けたという報道もされました。

コロナ禍ではなくとも、近隣トラブルのひとつにクレームなどが書かれた張り紙が貼られるなどの嫌がらせをされる例もあります。このような行為は何らかの罪に問えるのか、弁護士が解説します。

1、張り紙による嫌がらせはどんな犯罪になる?

張り紙による嫌がらせは、刑法上の犯罪が成立することがあります。刑法上の犯罪が成立すると、逮捕や書類送検となったり、起訴されて刑事裁判の結果、懲役刑や罰金刑などの刑罰が科されたりする可能性もあります。ここでは、具体的にどのような犯罪になりうるのかを見ていきましょう。

  1. (1)軽犯罪法違反

    まず、他人の家やお店の壁に張り紙を貼ること自体が軽犯罪法違反にあたる可能性があります。軽犯罪法違反第1条33号に、以下のような規定が設けられているからです。

    第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
    33 みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者


    「はり札」とは張り紙をのりやテープで貼ったり釘で打ちつけたりすること、「標示物を取り除き」とは、逆に貼ってある張り紙などをはがすことを指します。

  2. (2)威力業務妨害罪・偽計業務妨害罪

    張り紙による嫌がらせが威力業務妨害罪にあたることもあります。たとえば、張り紙に「営業自粛しなければ火をつけるぞ!」など、脅したり圧力をかけるような文句が書かれている場合は、威力業務妨害罪が成立する可能性があるのです。また、お店は営業しているのに「営業自粛中」とウソの情報を書いた張り紙を貼って他人の業務を妨害する行為は、偽計業務妨害罪にあたることもありえます。

    威力業務妨害罪・偽計業務妨害罪が成立すれば、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

  3. (3)強要罪・脅迫罪

    「営業自粛しろ!」など、本来なら義務ではないことをむりやりさせようとする行為は強要罪にあたる可能性があります。また、「自粛しなければ殺すぞ!」と書いた張り紙を貼ると、脅迫罪にあたる可能性もあります。
    強要罪が成立すると3年以下の懲役(罰金刑なし)、脅迫罪が成立すると2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

  4. (4)名誉毀損罪・侮辱罪

    「このお店はガレージを閉めて中で闇営業をしている」「この店はコロナ患者を出した」など、誰にでも見えるところでお店にとって不名誉なことを書いた張り紙を貼ると、名誉毀損にあたる可能性があります。また、「バカ」と書いた張り紙を貼る行為も、侮辱罪になります。

    名誉毀損と侮辱罪の違いは、具体的な事実をあげているかどうかです。名誉毀損罪は真実であるかどうかは関係なく、具体的な事実をあげて他人の評価を下げることですが、侮辱罪は具体的な事実をあげずに他人の評価を下げることをいいます。名誉毀損罪が成立すると3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金、侮辱罪が成立すると拘留または科料に処せられます。

  5. (5)建造物損壊罪・器物損壊罪

    張り紙が建物の原状回復が難しくなるほど強固に貼られていたり、原状回復に費用がかかる場合は、建造物損壊罪が成立する可能性があります。また、張り紙をされたのが建物ではなく車などの物だった場合は、器物損壊罪にあたる可能性もあるでしょう。建造物損壊罪の場合は5年以下の懲役、器物損壊罪の場合は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料となります。

2、張り紙による嫌がらせは民事事件にもなりうる

張り紙による嫌がらせは、上記のとおり刑事事件として立件されうるものですが、同時に民事事件にもなりうるものです。民事事件にした場合は金銭的に賠償してもらうことになりますが、どのようなお金が受け取れるのでしょうか。

  1. (1)張り紙による嫌がらせは民法上の不法行為になる可能性

    張り紙による嫌がらせをされると、公の場で他人の評価をおとしめられることにより名誉権やプライバシー権などの権利が侵害されるおそれがあります。それだけでなく、何かしらの具体的な損害も発生することが考えられます。そうすると、張り紙による嫌がらせが刑法上の犯罪のみならず、民法上の不法行為責任も成立する可能性があるのです。

  2. (2)逸失利益が請求できるケース

    張り紙の内容によっては、逸失利益が請求できるケースがあります。たとえば、「火をつけるぞ!」と書かれた張り紙を見た客が怖がって、客足が遠のいて売上が落ちてしまったケースです。この場合、張り紙による嫌がらせを受けていなければ得られるはずだった利益である逸失利益を、張り紙を貼った本人に請求できる可能性があります。

  3. (3)慰謝料が請求できるケース

    見ず知らずの他人によって自分の家やお店に張り紙による嫌がらせを受けると、だれでも気分を害するものです。そういった嫌がらせにより、自分や店員が精神的苦痛を受けたとして、貼った本人に対して慰謝料が請求できるケースがあります。
    過去には、日照や通風が不満なことを理由に1か月分の家賃を滞納した借主に対し、「貸主が期日までに賃料を支払わなければ賃貸借契約を解除して鍵を交換する」旨の張り紙をした事案があります。この事案では、1か月程度の家賃滞納で張り紙による督促を行うことは社会通念上相当性を欠くとして、裁判所は慰謝料請求を一部認める判決を下しました(東京地裁平成26年 9月11日判決)。

  4. (4)損害賠償が請求できるケース

    張り紙による嫌がらせで損害賠償請求ができることもあります。たとえば、張り紙が簡単にはがれないようにクギで打ちつけていたり、接着剤でしっかり固定されていたりして、撤去に費用がかかる場合は、損害賠償請求ができる可能性があります。また、逆にお店側が「○○人は入店お断り」のような張り紙を貼っているときは、不当な差別取り扱いであるとされて逆にお店側が損害賠償責任を負うこともあるので注意が必要です。

3、張り紙による嫌がらせを訴えるには証拠が必要

警察に被害届を出して刑事事件として立件するにしろ、民事裁判で損害賠償や慰謝料などを請求するにしろ、張り紙による嫌がらせを訴えるには客観的かつ具体的な証拠がなければなりません。では、どのような証拠が必要になるのでしょうか。

  1. (1)写真・動画を撮る

    まず、張り紙の内容がわからなければ訴えることができないので、張り紙そのものを写真に撮って保存します。また、張り紙のまわりの様子やどのように貼られているかを示すために写真だけでなく動画を撮影しておくこともおすすめします。写真と動画の両方を使うと、張り紙が貼られている状況やそのインパクトがよく伝わるでしょう。

  2. (2)防犯カメラを設置する

    また、張り紙をはがしても、何度も繰り返し張り紙が貼られる場合は、いつだれが貼っているのかを確認するために防犯カメラを利用するのも良い方法です。張り紙を貼りやすい、また張り紙を貼っている様子が見えやすい出入口(玄関)付近に設置することをおすすめします。防犯カメラの映像を解析すれば、犯行の一部始終がおさえられるので、有力な証拠のひとつとなるでしょう。

  3. (3)犯人の行動調査をする

    嫌がらせをした人物がある程度特定できていれば、防犯カメラだけでなく、その人物の行動調査をする方法もあります。行動調査とは、嫌がらせをした人物を一定時間尾行し、住所や生活パターンをつきとめるものです。ただし、一般の方が行動調査をすることはさまざまなリスクが伴いますので、行動調査の経験が豊富な探偵に依頼して行うのが良いでしょう。

4、張り紙による嫌がらせを弁護士に相談するメリットや流れ

張り紙による嫌がらせを受けたときに相談する相手として、まず警察を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、警察は凶悪な事件が起きたときには迅速に動くものの、張り紙をされた程度であればあまり積極的に動いてもらえない可能性もあります。犯人も特定できていない、証拠もないようならなおさらです。そのため、弁護士に相談されることもひとつの手段です。

  1. (1)弁護士に相談するメリット

    弁護士に相談すると、張り紙による嫌がらせがどのような権利侵害にあたり、どのような対処法があるかをアドバイスしてもらえます。刑事責任を問うことのできる事案の場合は、どのような罪が成立する可能性があるのかもあわせて説明してもらえるでしょう。それをふまえて、被害者の希望にあわせてどのように対処していくかを弁護士と一緒に考えることができます。また、警察に被害届や告訴状を提出するときも、弁護士のサポートを受ければ受理してもらえる可能性が高くなります。

  2. (2)弁護士への相談から問題解決までの流れ

    弁護士に相談すると、問題解決まで以下のような流れで進みます。

    ①弁護士への相談
    今までの経緯や現在の状況について弁護士に説明し、どのような方針で問題解決を目指すかを話し合います。

    ②犯人の特定、示談交渉
    犯人が特定できていない場合は、防犯カメラや行動調査などを利用して犯人を特定した後、示談交渉を開始します。嫌がらせ行為が悪質なときは、示談交渉より先に被害届を提出することもあります。

    ③調停
    任意での交渉がまとまらなければ、裁判所に調停を申し立てます。調停でも、調停委員会の仲介のもとで引き続き話し合いが行われ、調停が成立したら調停調書が作成されます。

    ④裁判
    調停も不成立に終われば、裁判に移行します。裁判では証拠をもとに被害・損害の程度を法的に主張することになります。なお、裁判の途中で裁判官より和解勧告を受けて、和解金(解決金)が支払われる形で和解が成立することもあります。

  3. (3)弁護士に相談するときの注意点

    弁護士に相談するときは、張り紙を撮影した写真や動画など、関係資料はすべて持参します。弁護士に相談できる時間は限られているので、手際よく話ができるように要点をまとめたメモも持っていくといいでしょう。また、その場で弁護士に委任契約をすることになったときのために、運転免許証などの身分証明書や認印もあるとスムーズに契約をすることができます。

5、まとめ

知らない人から脅迫や侮辱するような張り紙をされると、恐怖を感じる方も少なくありません。張り紙による嫌がらせでお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスでご相談を受け付けています。近隣トラブルの経験豊富な弁護士ができるだけ穏便に解決できるよう、尽力いたします。お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています