共有名義のよくある相続トラブルと対処方法についてわかりやすく解説
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高齢者が人口割合の多くを占めるようになった地域で増えるトラブルのひとつに「相続問題」があります。
相続に関するトラブルは親子・兄弟姉妹の間に確執をもたらし、多くのケースで深い溝が生じてしまいます。
本コラムでは、相続トラブルを回避したつもりがより深いトラブルに発展してしまうリスクをはらむ「共有名義」について、共有名義のメリット・デメリットや対処方法などをベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。
1、共有名義とは何か?
相続トラブルの中でも解決が難しく、後に禍根を残しやすいのが「共有名義」に関するトラブルです。
まずは、共有名義とはどんなものなのかを解説していきましょう。
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(1)共有名義の定義
共有名義とは、ひとつの土地や建物に対して複数人が所有者になっている状態を指します。
通常、物の所有者は特定のひとりですが、不動産については複数人が所有者として権利を持つことができます。
共有名義の不動産は、それぞれの所有者が独立した権利を持っており、登記簿にも複数の所有者が記載されます。
所有権には「割合」があり、たとえばひとつの不動産をAさんとBさんが等分したとすれば、それぞれの持ち分は2分の1ずつとなります。
所有権の割合は、あくまでも権利を有している割合であって、株式の保有割合のように優劣が決まるわけではありません。
たとえばAさんが3分の1、Bさんが3分の2だったとしても「Bさんのほうが持ち分が多い」というだけで、Bさんの権利が優位だというわけではないのです。 -
(2)なぜ共有名義が発生するのか?
共有名義が発生するパターンは、主に3種類にわかれます。
まずは「相続」です。
相続争いを避けるためや、遺産分割協議を煩わしく感じたために共有名義という方法を選ぶ方は少なくありません。
次に考えられるのが「出資」です。
親が子どもに、反対に子どもが親に不動産購入の資金援助をした場合は贈与とみなされるため、節税対策として共同出資したという体裁で共同名義にすることがあります。
さらに考えられるのが「連帯債務」です。
住宅ローンの審査がひとりでは通らない場合に、夫婦間や親子間で連帯債務とすることを条件に融資が認められることがあります。
この場合、連帯債務の関係にある夫婦や親子の共同名義となります。
2、共有名義のよくあるトラブル3選
不動産を共有名義にすることで発生する「よくあるトラブル」を見ていきましょう。
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(1)土地を兄弟で相続したケース
共有名義でトラブルになる代表例が「不動産を兄弟が相続した」というケースです。
たとえば、親から子どもへと実家の土地・建物の相続が発生した際に、どちらが相続するのかで争いたくなかった兄弟(姉妹)が、共有名義にして相続する場合があります。
しかし相続後しばらく経ってから、金銭的な事情などから「共有持ち分を売却したい」と考える可能性があります。
しかし,共有持ち分の売却には、ほかの共有者全員の同意が必要であるため、勝手に売却はできません。
そのため、ほかの共有者の同意が得られずに、売りたくても売れないという状況に陥ってしまうケースは少なくありません。 -
(2)相続した土地がすでに共有名義だったケース
意外にも多いのが「相続した土地がすでに共有名義だった」というケースです。
たとえば、兄弟で共有名義にて土地を相続してからしばらく経ち、その兄弟も他界してしまった場合、兄弟それぞれの子どもが相続登記をおこなわずに放置してしまうと、共有分を相続した親戚の同意が得られずに、売却できない可能性があります。
親戚と対立してしまっているので相続登記の手続きさえも進まないということもあります。 -
(3)離婚によってマイホームの権利で争うケース
離婚によっても共有名義が問題になることがあります。
夫の収入だけでは住宅ローンの審査に通過しなかった夫婦が、定職に就いている妻も連帯債務を負うことで融資を認められ、マイホームの土地・建物を夫婦の共有名義で購入するケースです。
もし離婚することになった場合、主たる債務者である夫が、マイホームの土地・建物の権利を主張するとなると、夫は妻が負う責任分を銀行に補塡(ほてん)する必要が生じます。
十分な自己資産がなければ、マイホームの土地や建物をやむなく売却しなければならない可能性もあります。
3、共有名義は避けるべき?メリット・デメリットを確認
不動産の共有名義は後々にさまざまなトラブルを引き起こすリスクがありますが、上手に活用することで一定のメリットも享受できます。共有名義のメリットとデメリットを確認しておきましょう。
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(1)共有名義のメリット
不動産を共有名義にすることで、得られるメリットは次のとおりです。
●ひとりの共有者が勝手に売却・担保設定できない
共有名義の不動産の売却や抵当権などの担保設定をおこなう場合、基本的に共有者全員の同意がないと実行できません。 法律に定められた要件ではありませんが、不動産の買い主や金融機関としては、トラブルを回避するため共有者全員の同意がない限り拒否するのが通例です。
相続人のひとりが勝手に売却・担保設定することが予想される場合は、共有名義にすることで抑止力となります。
●各共有者がマイホーム売却による譲渡所得の特別控除を受けられる
マイホームを売却した際に得られる利益には「譲渡所得税」と呼ばれる税金が課せられます。
単独名義のマイホームを売却した場合の譲渡所得税は「譲渡収入-(取得費+譲渡費用)-特別控除3000万円」に税率を乗じた金額です。
共有名義の場合は、譲渡益を持ち分に応じて按分したうえで、各共有者が特別控除を受けられます。
各共有者に特別控除3000万円が適用されることで、譲渡所得税が大幅に軽減されるという点は大きなメリットとなるでしょう。 -
(2)共有名義のデメリット
共有名義によって被るデメリットも整理しておきましょう。
●ひとりの共有者が反対すると売却できなくなる
メリットでも確認したとおり、共有名義の不動産を売却する場合は共有者全員の同意が必要となります。
共有者のほとんどが売却に同意しているのに、嫌がらせのごとく同意を拒む共有者がひとりでも存在していれば、共有者全体の利益を損なうおそれがあります。
●相続を重ねると権利関係が複雑化してしまう
共有名義が一代限りのものであれば、問題はそこまで大きくならないのかもしれません。
しかし、子どもの代、孫の代と相続を重ねていけば、権利関係が複雑化されてしまい、いざ処分を考えたときには、相続人の所在が不明であったり、連絡さえもつかなかったりもするでしょう。
このように考えると、共有名義は放置せず、早めに整理するべきだといえます。
4、共有名義の対処方法について
共有名義の不動産は、節税などの面ではメリットがありますが、親族間の関係を悪化させてしまうリスクがあるため、できるだけ早く共有状態を解消するなどの整理が必要です。
では、共有名義の不動産はどのように対処すれば良いのでしょうか?
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(1)共有名義になる前の対処法
相続によって共有名義になってしまえば、相続人の間でトラブルになるおそれがあります。
財産を遺す被相続人としては、このような事態は絶対に避けたいと考えるでしょう。
もし、相続が発生する前、つまり被相続人が生存している状態であれば、遺言書を作成して不動産の相続人をひとりに集中させるのが有効です。
この場合、不公平が生じないように、残りの相続人には現金や預貯金など不動産以外の財産を相続させることになります。
また、生前に不動産を売却したうえで、分割しやすい現金に変換しておくことで、相続による共有名義の可能性を根本的になくす方法も有効でしょう。 -
(2)共有名義になった状況での対処法
すでに共有名義である場合の対処法は次の4つです。
●持分のみを第三者に売却する
持分は共有者全員の同意が得られれば売却が可能です。
売却相手が不動産業者などの場合は、持分のみを売却した後に整理を任せることも可能でしょう。
●共有名義のすべてを売却する
共有者全員の同意を得て、第三者に売却します。
売却後の利益は持分に応じて分配することになります。
●ほかの共有者に買い取ってもらう
持分をほかの共有者に買い取ってもらうことで、共有状態を解消します。
自分が不動産全体の所有権を得たいのであれば、他の共有者から持分を買い上げることになります。
●分筆する
共有名義になっている不動産が土地であれば、物理的に分割する「分筆」も有効です。
分筆によって共有状態を解消すれば、売却や担保設定などにおいて他の相続人から同意を得る必要もなくなり、処分しやすくなります。
5、まとめ
不動産を共有名義にすることは、ある場面では相続争いを避ける平和的な解決方法として、またほかの場面ではマイホームを手に入れるためや節税対策としても有効ではあります。
しかし、共有名義のままで放置すれば、処分しにくいだけでなく、次の世代にまで共有名義を引き継ぐこととなり、将来的に大きな禍根を残すリスクがあります。
共有名義の不動産は、できるだけ早く共有状態を解消するべきでしょう。
弁護士であれば、共有名義を解消してスムーズに処分するお手伝いや、近い将来に共有名義となってしまわないための対策を講じることが可能です。
共有名義の不動産についてトラブルを抱えている方、対策を講じたいとお考えの方は、ぜひお気軽にベリーベスト法律事務所・川崎オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています