引きこもりの兄弟姉妹には親の遺産を相続させたくない!方法はある?

2019年12月27日
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引きこもりの兄弟姉妹には親の遺産を相続させたくない!方法はある?

令和元年5月、川崎市の路上で50代の男が私立小学校に通う児童を次々と襲う事件がありました。この男は伯父伯母と同居していましたが、ずっと自宅に引きこもり状態になっていて、平成26年には約70万円を遺産相続したものの、普段は伯父伯母に小遣いをもらいながら生活していたそうです。

最近は中高年層の引きこもりが社会問題となりつつありますが、きょうだいがいる場合、引きこもりのきょうだいが親の死後に遺産を相続するのを良しとしない方もいます。では、引きこもりの兄弟姉妹にできる限り遺産相続をさせない方法はあるのでしょうか。

1、引きこもりの高齢化が深刻な社会問題に

以前、大人になっても実家で両親に養ってもらっている「パラサイトシングル」が問題になったことを覚えているでしょうか?その当時引きこもっていた若者が、だんだん時が経つにつれて高齢化していることが今、深刻な社会問題になっています。

  1. (1)中高年の引きこもりが増えている

    平成30年の内閣府の調査で、自宅に半年以上閉じこもっている40歳~64歳の引きこもりが、全国に推計61.3万人いることがわかりました。この数字には専業主婦(夫)は含まれていないため、実際はもっと引きこもり状態の方がいると予想されます。

    引きこもりのきっかけとなった出来事は、退職や人間関係、病気などがあげられますが、40代前半のいわゆる「ロストジェネレーション」の世代は、就職活動をしていた時期が就職氷河期と重なっていたことも原因ではないかと見られています。

  2. (2)「8050問題」が顕在化

    近年は、80代の親が50代の引きこもりの子どもを抱える「8050問題」が徐々に広まりつつあります。子どもが高齢になるにつれて、親も高齢化します。年金生活を送る親が働かずに家に引きこもる子どもを支える生活を続けているため、「近い将来、預貯金が底をつくかもしれない」「自分たちが亡くなった後、子どもがどうやって暮らしていけばよいのか」と思い悩む親御さんも少なくありません。

    最近では超高齢化社会を迎えており、「8050問題」が「9060問題」になるケースも見られるようになりました。そのため、引きこもりの子どもが親亡き後を生きていくためのプランである「サバイバルプラン」の重要性が高まっています。

  3. (3)遺産分割協議も困難に

    中高年層で引きこもりになっている方も、両親ともいなくなるときが必ず来ます。ただ、親の死後、遺産分割協議をしなければならなくなったときに、引きこもりの家族がいる場合、その家族が協議に参加せず遺産分割協議が進まなくならないリスクがあります。そうなると、親が預貯金を残していたとしても、口座が凍結されてお金を引き出せない状態が続くことにもなってしまうのです。

  4. (4)遺産があっても自分で管理できない問題も

    引きこもりの子どもはたいていの場合、障害年金や親からお小遣いをもらって生活しています。そのため、遺産を相続しても、引きこもりの子どもは自分でお金の管理ができず、浪費してしまうことがあります。お金のコントロールの仕方については、親が元気なうちに何らかの対策をしておくことが必要です。

2、引きこもりの兄弟姉妹に相続させない方法①相続廃除

実家を出て自立生活をしていて、引きこもりの兄弟姉妹を持つ方の中には、親が亡くなっても「(引きこもりの兄弟姉妹には)遺産を相続させたくない」と思う方もいらっしゃると思います。そのような場合、選択肢のひとつとして「相続廃除」が考えられます。

  1. (1)相続廃除とは

    相続廃除とは、暴力をふるったり親を虐待したりするなど、著しい非行が見られた相続人から、相続人としての地位を奪うことを言います。相続廃除された者は、相続人からはずれるため、被相続人の遺産を相続できなくなります。

  2. (2)相続廃除の要件

    相続廃除の要件は、相続人と推定される人物が、被相続人に対してひどく虐待や侮辱を行った、もしくはその人物に著しい非行があったときです。具体的には、以下のようなケースがあてはまります。

    • 多額の借金を被相続人に肩代わりさせた場合
    • 罪を犯して実刑判決を受け、服役した場合
    • 被相続人に介護が必要なのに介護をしなかった場合
    • 浮気・不倫を長期間、繰り返し行っていた場合
    • 家族に度々暴力をふるったり、暴言を吐いたりしていた場合
    • 被相続人名義の口座から勝手に現金を引き出して着服した場合
  3. (3)相続廃除の手続き方法

    相続廃除をするには、次の2つの方法があります。

    • 被相続人が家庭裁判所に相続人の廃除を申し立てる
    • 遺言書に相続人を廃除する旨を記載する


    なお、遺言書で相続廃除をする場合は、遺言の内容を実行する遺言執行者が必要となるので、遺言書に遺言執行者をあらかじめ指定しておいたほうがよいでしょう。また、遺言書は公正証書遺言にしておくと、偽造や改ざんがなされる心配がないので安心です。

3、引きこもりの兄弟姉妹に相続させない方法②贈与

引きこもりの兄弟姉妹に遺産を相続させない方法として、親に財産をすべて自分および引きこもりの兄弟姉妹以外の相続人に贈与してもらう方法もあります。贈与には、遺贈・生前贈与・死因贈与があります。

  1. (1)遺贈・生前贈与・死因贈与の違い

    遺贈・生前贈与・死因贈与は似たような言葉ですが、以下のような違いがあります。

    遺贈 遺言書によって被相続人の財産を無償で譲渡すること
    生前贈与 被相続人が生きているうちに財産を無償で譲渡すること
    死因贈与 財産をあげる人・もらう人の間で契約を結ぶによって、被相続人の財産を無償で譲渡すること
  2. (2)遺贈や死因贈与は遺言書や契約が必要

    遺贈は、だれに何を譲渡するのかを記した遺言書を用意しておかなければ利用することができません。また、死因贈与を利用する際も、財産をあげる人ともらう人との間で契約を交わすことが必要です。契約は口約束でも成立しますが、契約成立を客観的に証明するためにも、契約は書面で交わし、さらに公正証書にしておきましょう。

  3. (3)遺留分減殺請求される可能性も

    ただし、被相続人の財産をすべて引きこもりの兄弟姉妹以外の相続人に遺贈・贈与することになれば、引きこもりの兄弟姉妹に遺留分減殺請求される可能性もあります。そのため、遺留分を認める、もしくは別の方法で遺留分を補填することが求められるでしょう。

4、引きこもりの兄弟姉妹に相続させない方法③家族信託

たとえば、引きこもりの長男と独立して働いている長女がいる場合、相続時に長男に遺産の大半を譲渡し、自立生活を送る長女は遺産をほとんど得られない、という不公平な相続が行われるケースがあります。しかし、その不公平を少しでも解消できるのが、「家族信託」と呼ばれる方法です。

  1. (1)家族信託とは

    家族信託とは、家族に自分の財産を託して管理を任せることを指します。親が認知症になると預貯金口座が凍結されるなど自由に財産を処分できなくなってしまいますが、あらかじめ子どもに信託しておくことで、認知症になって判断能力が低下しても引き続き受託者が財産を管理できるのです。

    たとえば、実家を出て働いている長男Aと実家で引きこもっている次男Bがいる場合、父親とAとの間で親の預貯金と自宅を信託財産とする信託契約を結びます。そうすれば、父親の死後、AはBを実家に住まわせたまま一定の生活費を渡すことで、Bは今まで通りの生活を送ることができるのです。

  2. (2)最終的に財産は自分のところに来る可能性もある

    親と信託契約を結ぶときに、「Bが先に亡くなった場合は残った財産をすべてA(もしくはAの子ども)に帰属させる」などと決めておけば、時間はかかりますが親の財産がAの元に来る可能性もあります。また、Aが先に亡くなった場合に備えて、Aが亡くなった後に財産の管理を行う者(受託者)も決めておくと安心でしょう。

  3. (3)生命保険信託を利用する手も

    また、生命保険を活用した「生命保険信託」という金融商品を利用する方法もあります。親が引きこもりの子どもに死亡保険金を渡すために生命保険をかけるケースがありますが、死亡保険金は一括払いされるもしくは年金のように毎月一定金額が支払われるため、引きこもりの子どもに有効活用されない可能性があります。

    そこで、親と信託銀行や信託会社との間で保険金を信託財産とした信託契約を結ぶことで、引きこもりの子どもに確実かつ定期的に生活資金を手渡すことができるのです。

5、兄弟姉妹の相続分を減らすための方法

引きこもりの兄弟姉妹にまったく相続させないことが難しければ、相続分を減らすという手段も考えられます。どのように相続分を減らすことができるのでしょうか。

  1. (1)自分の寄与分を主張する

    自分が両親や引きこもりの兄弟姉妹の生活資金を援助していたり、親の通院の付き添いや介護を一手に引き受けていたりした場合、寄与分を主張できます。寄与分とは、被相続人の財産形成・維持を助けていた度合いのことです。寄与分が認められれば、法定相続分より多めに遺産を相続することができます。

  2. (2)兄弟姉妹に特別受益があったことを主張する

    引きこもっている兄弟姉妹が親に資金援助を受けていた場合は、その兄弟姉妹に特別受益があったことを主張することができます。ただし、もらっていたのが最低限の生活費程度であれば、特別受益とみなされない可能性があることに注意が必要です。過去の判例から、特別受益と認められるのは月10万円を超える部分とされる傾向があります。

  3. (3)養子縁組を利用して相続人を増やす

    引きこもりの兄弟姉妹の相続分を減らすために、養子縁組を利用する方法もあります。たとえば父親と妻(夫)や子どもが養子縁組をすれば、養子も相続人となり、相続人が増えて一人あたりの相続分を減らすことができます。

6、引きこもりの兄弟姉妹が遺産分割に応じない場合

遺言書がない場合は遺産分割協議をしなければなりませんが、引きこもりの兄弟姉妹がいると協議に応じないことがあります。その場合はどうすればよいのでしょうか。

  1. (1)弁護士を通じて協議を呼びかけてみる

    ほかの相続人が直接引きこもりの兄弟姉妹にはたらきかけても、かたくなに応じようとしない可能性があります。そこで、弁護士に相談の上、弁護士に粘り強く働きかけてもらえば、心を開いて協議に応じてくれるかもしれません。その後遺産分割協議の場にも立ち会ってもらえればスムーズに協議が進む可能性もあります。

  2. (2)遺産分割調停を申し立てる

    どうしても遺産分割協議に応じない場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てます。調停では裁判所で引き続き協議を行うことになりますが、引きこもりの兄弟姉妹にとっては裁判所に出廷することは非常にハードルが高く、不成立に終わることも考えられるでしょう。

  3. (3)遺産分割審判を申し立てる

    最初から調停が不成立に終わると予想される場合は、遺産分割審判を申し立てる手もあります。離婚調停などの場合は、審判よりも先に調停を申し立てなければなりませんが、遺産相続だけは審判から先に申し立てても良いことになっているのです。遺産分割審判では、裁判官が審判を通して法定相続分に基づき相続分を決定します。

7、まとめ

中高年層の引きこもりの子どもを持つ親としては、できる限り多くの財産を残してやりたいと考えるものです。しかし、引きこもりの子どもの兄弟からすれば、自分はきちんと生活しているのに不公平だと感じることもあるでしょう。

ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスでは、引きこもりの兄弟姉妹がいる方の遺産相続に関するご相談を受け付けています。きょうだい全員が均等に相続することは難しいかもしれませんが、遺産相続の経験豊富な弁護士が、できるかぎり不公平感のない相続の仕方を提案します。どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

ご注意ください

「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。

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