嫁に行った娘は遺産相続できる? 相続の割合と法定相続人の考え方

2023年10月30日
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嫁に行った娘は遺産相続できる? 相続の割合と法定相続人の考え方

遺産相続は人生で何度も経験することではないため、相続に関して正しい知識を持っている方はそういないのが実情です。親が他界し悲しんでいるところに「お前は嫁に行った娘だから遺産相続には関係がない」などとほかの兄弟姉妹から言われてしまったら、より悲しみが深くなることは間違いありません。 なお、川崎市では、遺産相続について弁護士が法的なアドバイスを行う弁護士相談などを無料で実施していることがホームページで告知されています。このような無料相談を利用するのもひとつの手となるでしょう。

本コラムでは、嫁いで家を出てしまった娘には遺産相続の権利があるかどうかから、法定相続人の考え方、遺産隠しをされているときの対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスの弁護士が解説します。

1、嫁に行った娘も法定相続人になる

「嫁入り」「嫁に行く」という言葉が現代にも残っているためか、「嫁に行った娘はよその家の者になる」といったイメージを持つ方は少なくありません。しかし、結婚して家を出て行っても、親子関係が変わることはありません。そのため、嫁に行った娘であっても法定相続人のひとりになるのです。

  1. (1)子どもは法定相続人の第1順位

    民法で定められた相続人を「法定相続人」と言います。法定相続人の中では相続できる順位が決まっていますが、子どもは必ず法定相続人の第1順位になります。相続割合は、亡くなった方(被相続人)に配偶者がいれば、配偶者・子どもで1/2ずつ、配偶者がいなければ子どもがすべて相続することになります。なお、子どもがすでに亡くなっている場合は、孫(もしくはひ孫)が代わりに相続します(代襲相続)。

  2. (2)嫁に行っても相続順位・相続分は変わらない

    特に地方では、「結婚して実家を出て行った娘は相続人から除外される」と考える方がいらっしゃいます。しかし、嫁に行った娘であっても、相続順位は変わらず第1順位のままです。結婚して姓が夫の名字になったとしても、相続権を失うことはありませんし、原則として他の兄弟姉妹と同じ割合で相続財産を受け取ることができます。

  3. (3)親と娘の親子関係はどう証明する?

    たとえば、父親が家族の知らない間に不倫をして、愛人との間に隠し子を作って認知もしていた場合、その子どもも相続人のひとりとなります。認知をした後に父親とその子どもが疎遠になっていた場合は、親子関係の証明が必要になることがあります。その際は、父親の戸籍をたどることでその子どもとの親子関係を確認することができます。

  4. (4)娘が夫の両親と養子縁組をしたらどうなるか

    嫁に行った娘が、結婚後夫の両親と養子縁組をしていた場合でも、娘に実親の相続権は発生するのでしょうか。娘が夫の両親と養子縁組をしても、実親と親子関係があることには変わりないので、娘は変わらず実親の相続人になることが可能です。

    ただし、特別養子縁組をしていた場合は話が異なります。特別養子縁組とは、実親との法的な親子関係を終了させた上で実の子と同じような親子関係を結ぶものです。したがって、嫁に行った娘が夫の両親と特別養子縁組をした場合は、実親の相続権はなくなりますのでご注意ください。

2、なぜ嫁に行った娘は相続権がないと思われるのか

女性は実家にいようが嫁いで家を出ようが、原則として両親が亡くなったときには、第1順位の相続人となります。ではなぜ、「嫁に行った娘には相続権がない」と思われるのでしょうか。その理由は、昔ながらの家長制度にあります。

  1. (1)嫁に行った娘は相続放棄しなければならない?

    地方では、嫁に行った娘が親やきょうだいから「お前はよそに嫁いだのだから相続を放棄しろ」などと言われるケースがあります。相続放棄とは、相続人を最初から相続人でなかったとみなす制度のことです。ただし、先述のとおり子どもは結婚しても第1順位の相続人となるので、嫁に行ったからと言って相続放棄する必要はありません。

  2. (2)かつての家長制度による名残

    なぜ嫁に行った娘は相続放棄を迫られたり、相続人から除外されたりするのでしょうか。それは、戦前の民法にあった「家長制度」の考え方がいまだに残っているためだと考えられます。家長制度とは、一家の主(戸主)が家族を統率し、家族がそれに服従する制度のことです。家長制度では、父親が最も強い権限を持っていました。

  3. (3)長男以外は相続権がない家督相続が当たり前だった

    家長制度のもとでは、戸主が亡くなると戸主権を持つ長男が財産をすべて単独で相続する「家督相続」が行われていました。家督相続では男子や年長者が優先とされ、嫡出子の女子と非嫡出子の男子がいる場合は非嫡出子の男子が優先されていました。そのため、他のきょうだい、特に女子は相続権がないに等しかったのです。

  4. (4)終戦後、民法改正で均分相続が開始

    終戦後に日本国憲法ができ、その内容に沿った形で昭和22年に民法が大幅に改正され、翌昭和23年1月1日から施行されました。改正民法では、現行民法と同じように、きょうだいはすべて遺産を均等に相続する「均分相続」とされるようになったのです。しかし、今なお、「財産はすべて長男が継ぐ」との考え方が日本のあちこちに根強く残っているため、遺産をどう配分するかは民法の規定に沿いながら、ケース・バイ・ケースで考えていったほうがよいかもしれません。

3、実家のきょうだいが遺産隠しをしたときの対処法

実家にきょうだいが亡くなった親と同居していた場合「よそに嫁に行った者には相続をさせるまい」と親の財産を隠してしまうことがあります。その場合、実家を離れていると遺産がどれだけあるか把握することができません。その際、とりうる手段として以下のような方法が考えられます。

  1. (1)銀行の残高証明書を取り寄せる 親の銀行口座を凍結してもらう

    親の預貯金残高を知りたい場合は、親が口座を持っていそうな銀行の窓口に行って、残高証明書を発行してもらいましょう。娘が行っても大丈夫なのかと思う方もいらっしゃると思いますが、戸籍謄本など相続人であることを証明できるものを持参すれば銀行も応じてもらえます。親の口座からすでに現金が引き出されている痕跡があれば、これ以上引き出されないよう、銀行に事情を話して口座を凍結してもらうことをおすすめします。

  2. (2)法務局に行って不動産の登記簿を確認する

    不動産の有無を調べたい場合は、法務局に行って不動産の登記簿を確認します。また、不動産がありそうな市区町村の役場で、名寄帳(固定資産台帳)の開示を依頼しましょう。そうすれば、その市区町村内にある被相続人が所有している土地建物に関する情報を提示してもらえます。

  3. (3)遺産分割調停を申し立てる

    また、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てるのもひとつの方法です。しかし、遺産分割調停は遺産について何がどれだけあるかがはっきりわかっているときに申し立てるものです。そのため、そもそも遺産のありか等が不明な場合は、申し立てをしても受理してもらえないことがあります。裁判所が自ら調査に乗り出してくれることはほとんど期待できないため、遺産の詳細が不明な場合は、遺産確認訴訟の提起も検討したほうが良いでしょう。

  4. (4)遺産分割のやり直しは可能

    もし遺産分割協議が終わった後にきょうだいの遺産隠しが発覚した場合は、遺産分割のやり直しができます。ただし、やり直せるのは以下のような場合です。

    • 法定相続人全員の合意があった場合
    • ある相続人や第三者による詐欺や脅迫があった場合
    • 遺産が隠されていたため、相続人が「預貯金がない」と思い込んでいたなど錯誤があった場合
    • 相続の資格がない者(相続放棄した者や相続欠格者)が遺産分割協議に参加していた場合
    • 本来相続人であるはずの者が遺産分割協議に参加していなかった場合

4、嫁に行った娘さんに対して弁護士がお手伝いできること

きょうだいに「お前には相続させない」と言われても、結婚して家を出て行った娘にも法律上相続権はあります。しかし、実際に親の遺産を調査したり財産隠しを行ったりしないようきょうだいを監視するのは難しいでしょう。そこで、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。

  1. (1)遺産分割協議のサポート

    遺産分割協議のときに弁護士のサポートを得ることで、スムーズに交渉を進めることができます。相続人同士だけで話し合いをすると、お互いの利害が衝突してこじれてしまい、「争族」に発展してしまう可能性もあるでしょう。早い段階で弁護士からアドバイスを受けながら進めることで、早期に協議をまとめることができるのです。協議がまとまれば、遺産分割協議書の作成も弁護士に任せることが可能です。

  2. (2)隠し財産の調査を行う

    実家にいるきょうだいが被相続人の財産の一部または全部を隠してしまっている可能性のある場合は、弁護士に隠し財産の調査を依頼することができます。弁護士には、官公庁や企業に対して必要な情報を照会する権限を持っています。このことを弁護士会照会(23条照会)と言います。その権限を使って、銀行に被相続人の口座取引履歴を照会して入出金状況を確認したり、被相続人の不動産のある市区町村役場で調査をしたりできるのです。

  3. (3)必要な資料の収集や手続きの代行

    遺産相続にあたり、相続人調査のために被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本など必要な書類を収集し、役所や金融機関などさまざまなところで手続きをすることが必要です。弁護士にあらかじめ依頼すれば、資料の収集や手続きをすべてお任せできるので、時間の節約にもなり、ミスや抜け漏れの防止にもつながります。

  4. (4)遺産分割調停のサポート

    遺産分割協議がまとまらない場合は、裁判所に遺産分割調停を申し立てます。そのときにも、弁護士のサポートを受けながら話し合いを進めることができ、調停委員に納得してもらえるような主張を展開することができます。遺産分割協議が始まる前から弁護士に依頼しておくことで、調停になっても円滑に進めることができるでしょう。

  5. (5)共同相続人の相続分の計算

    遺言書がある場合は遺言書の内容に、遺言書がない場合は民法の規定に従って遺産分割を行います。しかし、遺言書が「財産をすべて長男に相続させる」といった内容であればほかの相続人について遺留分の計算が必要です。また、被相続人の介護を一手に引き受けていた相続人がいれば、寄与分を考慮して相続分を計算しなければならないときもあるでしょう。弁護士がいれば、各相続人の意向を聞いた上で、適切な相続分を計算して提示することができます。

5、まとめ

結婚して名前が配偶者の名字に変わったとしても、両親の子どもである事実は変わりません。そのため、嫁に行ったとしても、法定相続人から外れることはないのです。

もし、実家にいるきょうだいから「家を出て行ったお前には相続権はない」と言われた際には、ベリーベスト法律事務所 川崎オフィスまでご相談ください。遺産相続の経験豊富な弁護士が、名字が変わっても子どもはすべて法定相続人になることをご家族に説明した上で、遺産分割協議や手続きなどをサポートします。

さらに、嫁いだ身であっても亡くなられた親の介護のためご自身の仕事を辞めて介護に専念していたなどの特別な事情がある場合は、寄与分が認められることがあります。また、遺産相続には一定の期限があることも忘れてはなりません。親族間で争いになりそうなときは、できるだけ早期にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています