生命保険金は遺留分の対象になる? 特別受益の持ち戻し免除はできる?
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もしものときに備えて活用されている生命保険。高齢化が続く日本では、遺産相続の際にトラブルとなる場面は珍しくありません。
相続に直面してから「生命保険は遺産分割の対象?」「遺留分の計算に含める?」などと、悩んだ方もいるでしょう。
高齢の親の死亡などで突然相続が発生する可能性は誰にでもあります。その際の共同相続人同士のトラブルを防ぐためにも、知識をつけておくことが重要です。
そこで今回は生命保険と遺留分の関係について、弁護士が解説します。
1、生命保険は遺留分の対象になる?
遺留分とは、法定相続人に認められている最低限の相続財産(遺産)の取り分のことです。遺留分制度は、被相続人が有していた相続財産について、一定の割合の承継を法定相続人に保障する制度なので、受け取った財産が遺留分に満たなかった法定相続人は、侵害された分を請求できます。では生命保険金は遺留分の対象になるのでしょうか?
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(1)原則、生命保険は遺留分の対象外
生命保険金は原則として「受取人の固有財産」とみなされるため、遺留分の対象とはなりません。
たとえば被相続人が保険の契約者かつ被保険者で、受取人が被相続人の妻に設定されていた場合、保険金は妻固有の財産です。
遺留分の計算対象となる遺贈や贈与とは違います。
そもそも相続財産にはあたらないため遺産分割の対象外であり、遺留分を請求されることもありません。
受取人は遺言や遺産分割協議によって受け取った遺産にプラスして、保険金を受け取ることができます。
そのため受取人以外の相続人が「自分の相続分はもらう」として保険金を勝手に引き出したり、遺留分を請求したりすることは認められません。
最高裁でも次のような判断がなされています(最高裁判所 平成16年10月29日判決)。
「被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の一人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき、保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は遺贈又は贈与には当たらない」
ただし例外があります。
保険金を受け取ることでほかの相続人との間に著しく不公平が生じる場合には、相続財産として扱われます。後段で詳しく説明します。 -
(2)みなし相続財産として相続税の課税対象
保険金の受取人が相続人の場合、民法では相続財産にはあたりませんが、相続税法では相続財産として扱われます。
これを「みなし相続財産」といいます。
つまり保険金には相続税が課されます。
ただし保険金には「法定相続人の数 × 500万円」の非課税枠があるため、この枠内であれば課されません。
なお相続人以外が受取人となった場合には非課税枠の利用対象外となるので、注意してください。 -
(3)相続放棄しても保険金の受け取りは可能
相続放棄をすると最初から相続人ではなかったということになるため、相続財産を受け取ることはできませんが、保険金は相続財産ではないため、受け取ることができます。
ただし相続人ではないため、相続税の非課税枠は利用できません。
2、生命保険が遺留分の対象になるケース
生命保険が遺留分の対象から外れると、不公平と感じる相続人もいるでしょう。そこで次のようなケースでは相続財産に含め、遺留分の対象とすることになっています。
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(1)著しく不公平な場合は特別受益の持ち戻しの対象
生命保険は原則として遺留分の対象外ですが、例外があります。
最高裁では次のような判断をしています。(最高裁判所 平成16年10月29日判決)。
「 保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が、到底是認することができないほどに著しいと評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持戻しの対象となる」
つまり保険金の受け取りにより「著しく不公平が生じる」場合には、保険金を相続財産に含め、遺留分の対象にするということです。
なお特別受益とは、特定の相続人が生前に被相続人から受けた贈与や遺贈のことです。通常はこれを相続財産に含めて相続分を決定します。遺留分算定の際にも考慮します。 -
(2)遺留分に含まれるかどうかの基準
上記の判例によると、生命保険金を特別受益として持ち戻す、つまり遺留分に含むかどうかの判断基準は以下の4点です。
- 保険金額
- 相続財産全体に占める保険金の割合
- 被相続人と受取人の関係
- 各相続人の生活実態
たとえば相続財産が2000万円であるのに対し、生命保険金が8000万円の場合、受取人となっていない相続人にとっては不公平感が大きいでしょう。
そのため持ち戻しの対象となる可能性があります。
ただし受取人が長年一人で被相続人を介護してきたなどの事情がある場合には、対象外と判断されるかもしれません。
あくまでケースバイケースで、上記4点を総合的にみて決められます。 -
(3)受取人が誰かによっては遺留分の対象になる
不公平かどうか以外にも、受取人が誰に指定されているかによって、相続財産として扱い遺留分の対象となることがあります。
●受取人が被相続人の場合
保険金の受取人が被相続人となっていた場合、保険金は相続財産として扱われます。
つまり遺産分割、遺留分計算の対象です。相続人は保険金の請求権を相続します。
●受取人が「相続人」と指定されている場合
保険金の受取人が特定の人ではなく「相続人」と指定されていた場合には、受取人が抽象的に指定されていると考えます。
そのため相続人の固有財産として扱い、相続財産には含みません。
●受取人が指定されていない場合
受取人が誰も指定されていない場合には、まず保険の約款に従います。
一般的には被保険者の法定相続人が受取人と規定しているケースが多い傾向にあります。
その場合、相続財産には組み込みません。 -
(4)生命保険がある場合の遺留分の計算方法
生命保険は相続財産には当たらないため、遺留分の計算には使用しません。
計算式は次のようになります。
「遺留分 = 相続財産 × 法定相続割合 × 遺留分割合」
なお遺留分割合は直系尊属のみの場合は3分のそれ以外は2分の1です。
保険金を特別受益として持ち戻す場合は次のように計算します。
「遺留分 = (相続財産 + 生命保険金) × 法定相続割合 × 遺留分割合」
そのうえで、遺留分侵害額は次のように計算します。
「遺留分侵害額 = 遺留分 − 実際の相続財産」
相続人は遺留分が侵害されている場合、ほかの相続人に「遺留分侵害額請求(旧遺留分減殺請求)」ができます。
ただし遺留分侵害額請求は被相続人の死亡を知った時から1年、または相続開始から10年という時効があるので、注意してください。
3、生命保険金の特別受益持ち戻し免除は可能?
遺族や贈与には、「特別受益の持ち戻しの免除」という持ち戻しを回避する仕組みがあります。では、生命保険金はその対象になるのでしょうか?
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(1)特別受益の持ち戻し免除とは?
特別受益の持ち戻し免除とは、被相続人の意思表示に基づき、特定の相続人が遺贈や贈与で被相続人から受けた利益を、相続分の計算に含めないようにすることです。
持ち戻し免除があった場合には、遺贈や贈与を除いた相続財産を相続人で分割します。
免除の意思表示は遺言など書類で明示するほか、黙示でも可能です。 -
(2)生命保険金も持ち戻し免除の対象
生命保険金も遺贈や贈与と同様に、特別受益の持ち戻し免除の対象です。
相続財産に比べて保険金額がかなり大きいなど、保険金を相続財産に含めるべきと判断されるようなケースでも、被相続人の意思表示によりそれを阻むことができます。
ただし持ち戻しが免除されたとしても、保険金によりほかの相続人の遺留分が侵害された場合には、遺留分侵害額請求の対象です。 -
(3)生命保険をめぐる相続トラブルは弁護士に相談
生命保険金をめぐり相続トラブルになるケースは少なくありません。
特定の相続人が多額の生命保険金を受け取れば、ほかの相続人はなかなか納得できないでしょう。
最初は感情的な対立であっても、その後絶縁状態になったり、法廷闘争に発展したりする可能性もあります。
また保険金が遺留分の対象となるかどうかは、非常に判断が難しいといえます。ほかの相続人から「遺留分を支払え」と言われた場合には、詳細な検討が必要です。
そのため相続における生命保険トラブルは弁護士に相談するのがベストです。
相続に詳しい弁護士であれば、生命保険に関するトラブルの相談から特別受益持ち戻しの判断や相続税のことまで、幅広くサポートしてくれます。
4、まとめ
相続税対策として生命保険が活用されるケースは少なくありません。相続は突然発生することが多く、「生命保険まであってズルイ」「不公平で納得できない」などと相続人同士でもめてしまうことはありえます。
その場合はすぐにベリーベスト法律事務所 川崎オフィスにご相談ください。弁護士は被相続人の意思をくみ取りながら、お客様ができるだけスムーズに相続を進められるように全面的にサポートいたします。どうぞお気軽にご連絡ください。
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