内縁の妻でも遺産は相続されてしまうのか? トラブルを避けるポイントとは

2018年12月18日
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内縁の妻でも遺産は相続されてしまうのか? トラブルを避けるポイントとは

相続をきっかけとして家族や親族の仲がこじれることは珍しくありません。たとえ仲が良かった家族や親族でも、一度こじれてしまうと当事者同士だけではなかなか相続の問題に関して解決しづらくなるケースもあります。

今回は、そんな相続問題の中でも、親に内縁の妻(夫)やその子どもがいた場合に遺産相続がどうなるのかについて、川崎オフィスの弁護士が解説します。

相続のトラブルを避けるために何ができるのか、気をつけるべきポイントを押さえておきましょう。

1、内縁の妻(夫)とはどのような立場?

相続についてみる前に、そもそも内縁関係とはどのようなものなのか、婚姻関係や愛人関係と異なる部分を確認しておきましょう。

  1. (1)婚姻関係と内縁関係

    日本で婚姻するには、以下の3つの条件が求められます。

    • 年齢や相手との関係など法律上の婚姻障害事由(民法第731条〜737条)が存在しない
    • 当事者間の婚姻意思がある
    • 婚姻の届け出(民法第739条)を行っている


    この3条件すべてを満たすことによって、婚姻関係が有効に成立するということです。

    これに対し、「内縁関係」とは、事実上の夫婦関係ともいえる生活をする方を保護しようという発想のもとに生まれた関係性です。具体的には、共同生活を送るなど事実上婚姻している夫婦と変わらない暮らしをしているという事実があり、しかしながら婚姻届は提出していないため、法律上の婚姻関係は認められない……という状態です。

    事実婚と呼ばれることもありますが、なし崩し的に婚姻と等しい状態になったか(内縁)、主体的な意思によりあえて婚姻届を出していないか(事実婚)、という区別をすることもあります。

  2. (2)内縁関係と愛人関係

    「愛人関係」とは、内縁関係とは事情が異なります。決定的に違う点は、愛人側は相手が既婚者であることを知った上で交際している方を指していて、いわゆる「不倫関係」とも呼ばれるものを指します。

    なお、愛人関係は法律上保護されない存在です。配偶者側から見れば、愛人を持つ配偶者は有責配偶者として損害賠償を行ったり、一方的な離婚請求が行ったりできる対象になります。よって、あくまでも事実上の交際にすぎないといえます。

  3. (3)法律上の取り扱いの違い

    「婚姻関係」、つまり戸籍上の夫婦については民法上に定められており、年金や保険、税金など、さまざまな面で保護され、優遇処置があります。

    しかし、「内縁関係」の場合は、民法上には明文の定めがありません。それでも、社会的な実態に合わせて解釈上認められる権利義務もありますし、また国民年金法や健康保険法、児童扶養手当法などのように、権利について条文で定められている場合もあります。

    ただし「愛人関係」は、法律上の定めもなく、関係性が何らかの方法で保護されるということはありません。

2、相続と内縁関係について

内縁関係は婚姻関係ほどではないにせよ、一定の範囲で権利が認められます。では、相続権についてはどうでしょうか。内縁の妻や夫本人の相続権と、内縁の妻に子どもがいた場合、該当の子どもに相続権があるのかについて解説します。

  1. (1)内縁の妻(夫)と相続権

    大前提として、内縁関係にある者については、法定相続人には該当しません。

    つまり、被相続人が遺言によって別段の意思を示さない限り、自動的に遺産を相続できることにはならないのです。

    ただし例外的な取り扱いとして、賃借権に対するものがあります。たとえば、被相続人と内縁の妻が、被相続人が借り主となっている家で暮らしていたとしましょう。もし、内縁の妻が賃借権を失うとすれば、被相続人の死亡に伴って直ちに家を明け渡す必要が発生してしまいます。それでは、内縁の妻個人を路頭に迷わせてしまうことにつながるため、貸借権については認められているのです。つまり、被相続人と借家を共同で借りたという扱いをするのです。これを「賃借権の援用」といいます。

  2. (2)内縁の妻(夫)の子どもと相続権

    内縁の妻(夫)と被相続人の間に子どもがいる場合、その子どもは被相続人と血縁関係があるといえます。よって、相続権の有無が問題となることでしょう。

    その場合は、まずは戸籍を確認する必要があります。この戸籍にある記載が、「内縁の夫の子」とされていれば、親子関係が認められるので相続権は認められます。しかし、「内縁の妻の子」であれば、被相続人が認知していなければ法定相続人となれません。

    なお、認知(民法第779条)とは、法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子ども(非嫡出子)について、親子関係を成立させる手続きをいいます。条文上は「父又は母が」となっていますが、主に父親が行うケースが多数を占めています。

  3. (3)内縁の妻(夫)が相続をする2つの方法

    内縁関係にある者でも、例外的に遺産相続ができる方法があります。それは、「被相続人の遺言書に相続させる旨の記載をしてもらう」ことと、「特別縁故者として認められる」ことです。

    まず遺言書による方法ですが、被相続人に「財産を内縁の妻(夫)に譲り渡す」と遺言してもらうことで、遺産相続ができます。有効に成立する適式な遺言書があれば、赤の他人であっても遺産を受け継ぐことができますので、この方法が内縁関係者にとってはもっとも確実でしょう。ただし、遺留分については留意して遺言書を作成する必要があるでしょう。遺言書は正しく作成しないと無効になる可能性があります。

    次に「特別縁故者」とは、法定相続人がひとりも存在しないときに、被相続人の身辺の世話などをしていた者が財産を受け取れるという制度です。事実として法定相続人が存在しない場合のほか、法定相続人のすべてが相続放棄をした場合も含まれます。

    つまり、できれば内縁関係者に遺産を相続させたくないという被相続人の子どもの立場から考えると、もっともしっかりと確認すべき重要な点は、「遺言書があるかどうか」となるわけです。

3、遺族年金と内縁の妻(夫)

相続の対象となる財産とは異なりますが、類似のものとして、遺族年金についても確認しておきましょう。

  1. (1)遺族年金について

    遺族年金とは、被保険者の死亡により遺族に支払われる公的年金のことです。遺族の生活を支えるために支給される年金であり、遺族基礎年金と遺族厚生年金があります。被相続人が国民年金加入者なら遺族基礎年金を、厚生年金や共済年金の加入者なら遺族厚生年金を受給できます。

  2. (2)内縁の妻(夫)と遺族年金の受給権

    遺族年金を受給するには、一定の要件が必要です。

    受給する権利を持つ者には順位があり、先順位の者が受給する場合、後順位の者は原則として受給できません。受給対象者となり得る者は、配偶者、子ども、孫、父母、祖父母です。そして、この配偶者には内縁関係者も含まれるとされています。

    結論としては、内縁関係にある妻(夫)でも、遺族年金を受給できる可能性があるということになります。

4、まとめ

トラブルの多い相続問題ですが、重要なのは故人の意思と、残される遺族や関係者の利害との兼ね合いです。内縁関係にある方は財産的な基盤が安定していないケースも少なくなく、遺産相続の必要性が大きいこともあります。いざ相続となる前の段階で弁護士を交えて話し合うことにより、未然にトラブルを防げる場合もあります。相続が発生した後になってからでは、内縁関係にある方は基本的に保護されないと考えてください。

内縁関係者と相続に関する問題でお悩みの方は、ぜひベリーベスト法律事務所 川崎オフィスまでお気軽にご相談ください。ベリーベスト法律事務所では、弁護士だけでなく、税理士・行政書士などのプロフェッショナルと連携を取りながら、相続で抱えた問題解決に向けたアドバイスが可能です。

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